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俺の文章は、どこにある  作者: たつき


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反応はどうだ?

付箋に書いた『仲間』という文字が、朝の光の中で少しだけ浮いて見えた。

昨日、勢いで貼ったくせに、今朝になると急に恥ずかしい。

だが、剥がさない。

クリエイターなんて、これの繰り返しなのだから。


時計を見る。

いつの間にか、家を出る時間が近づいていることに気づく。

ゲーム業界は遅刻が多く、寛容な会社も多い。


「昔はよく、遅刻してたな……」


ひなたも、若いころはよく遅刻をしていた。

残業続きの中、どうしても体が着いていかないことがあった。

だが、今のポジションになってから自然とそれはなくなっていた。

働き方に大きな差はないはずなのだが、それは覚悟からなのか、

ブラックな仕事に慣れたのか、その理由は定かではない。


「よし、行くか」


スーツの袖を通して、玄関の鍵を回す。

外はまだ熱気を帯びる前で、徐々に意識がはっきりしてくる。

駅までの道で、頭の奥が少しずつ起きてくる。

眠い、というより、張り詰めていく感じだ。


自分の案はどう評価されるのか。

似た状況を何度経験しても、この緊張感だけは慣れない。



会議室の扉の前で、ひなたは一度だけ深呼吸する。

大丈夫、やるだけのことはやったんだ。

そう自分に言い聞かせるように。


「……よしっ!」


意気込んで、会議室の扉を開ける。

自然と、今日という日への覚悟が出来ていた。



ホワイトボードの前には、南雲りこが立っていた。

黒のマーカーがキャップの音を鳴らして、机に置かれる。


「おはようございますっ!

 今日の議題、事前にまとめました!」


南雲の明るい声に、空気が一段軽くなる。

すでに会議室には、メンバーが揃っており、

ホワイトボードには、今日の議題が簡潔に書かれていた。


午前中の会議は制作が主導だ。

昨日までの“抽象”を、今日ここで“形”にする。

その核となるのは、ひなたのシナリオ案だ。


如月さやが、いつもの調子で言う。


「じゃ、まず最初に。制作班の案の読み合わせから」


「すでにデータでは送ってるから、目は通してると思うけど。

 これが今日の“叩き台”。これを企画書に落とす」


ひなたは頷いた。


南雲がホワイトボードに書き写した文字の上から、如月が読み上げる。


「タイトルは、『誓約同調――澪の戦う意味』」



私立・鍵守学園。

結界が軋み、校内放送が割れる。


“虚”の襲来――それは、倒しても終わらない、世界崩壊の兆候。

天音澪は前に出る。いつも通り、仲間の盾になるために。

けれど今回の敵は、いまの彼女たちでは止めきれない。


学園に残された、通常ではありえない数値を示す、未知の鍵片。

鍵片は失われた力を取り戻す“鍵”

――同時に、失われた記憶の欠片でもある。


用途不明の鍵片を使用することは大きなリスクを伴う。

許可できなかった。

学園の“鍵守システム”が、それを禁じていた。


“虚”により、多くの犠牲が生まれる。

選択する余裕は、無かった。


澪は守るもののために、指令を無視して鍵片を嵌める。

その瞬間、澪の瞳から“何か”が消えた。


「あなたは……誰――?」


力を得た澪は、戦いに出る。

守るものを忘れ、それでも前に出る。

その姿は強い。けれど同時に、怖い。


――彼女は今、何を守っている?


世界か、使命か、日常か。

答えは綺麗すぎるほど正しいのに、どこか足りない。


やがて、戦況は追い込まれていく。

仲間たちも、澪を支えるため、戦いに出る。

勝てない戦いと分かっていても。


戦況が崩れ、撤退命令が飛ぶ。

それでも仲間たちは退かなかった。

勝てないと分かっているのに、澪の前に立つ。


その選択は、澪が鍵片を嵌めた瞬間と同じだった――

“正しい命令”より、“失いたくない何か”を優先する選択。

澪の中で、欠けたはずのものが、形を持ち始めた。


「……仲間」


その瞬間、澪の体が光に包まれた。

光は澪から“仲間”へ渡る

――言葉じゃない、同じ怖さを抱いた想いが伝わる。


その力によって、“虚”を倒すことに成功した。


鍵片が持つ記憶、それは――誓約同調オース・リンク

想いを力に変える能力。



読み上げ終わった直後、静けさが会議室を包む。

誰も喋らない、この瞬間が一番緊張する。


乙部が真っ先に声を上げる。


「うわぁ……いいじゃん~!

 切なさと澪の優しさが伝わってくる~!」


南雲も、目を輝かせたまま頷く。


「はい! 皆さんからのお題も解決しながら、

 とてもいい内容になっていると思います」


ひなたは、胸の奥の硬さが少しだけ溶けるのを感じる。


そして———


「……絵が見えます」


白石が、ぽつりと呟いた。

声は小さいのに、全員の視線が集まる。


「警報の赤、結界の亀裂、鍵片の冷たい光。

 澪の目が、一瞬だけ“遠くなる”

 澪が、澪じゃなくなる瞬間……」


「派手な爆発じゃないて、“変化の瞬間”が静かだから、

 観てる側が勝手に怖くなる……」


如月が、ふっと笑った。


「企画書に添えるイラスト……ラフでいいから用意できる?」


「はい! やってみます」


ひなたにとって、その言葉は最大の賛辞に感じられた。


(後は……)


その一方で、三角は腕を組んだまま、ホワイトボードを睨んでいる。

昨日までなら、そこから“足りない”の矢が飛んできた。


でも今日は、違った。


三角は、ペンを取って言った。


「……内容、理解できました」


「昨日の段階で、“変わる”が演出で終わる危険がある、

 そう言ったじゃないですか」


「でも今の叩き台、さっき白石くんが言ったように、

 明確にそのシーンが浮かぶ」


「昨日の懸念、解消されている認識です。

 俺も、この案でいけると思います!」


その声を聞いて、ひなたは肩をなでおろす。

三角の声が昨日とは違い、弾んでいた。

それが、言葉以上に案への賛同を表しているように感じられた。


「ここを“イベントの顔”にしましょう。

 PVでも、バナーでも、最初にここを見せる。

 澪が“欠けた”って、ユーザーに分からせる」


ひなたは、やっと口を開く。


「俺は、ここを“悲劇”にしたくはない。

 澪の芯がむき出しになる瞬間として書く」


三角が頷く。


「それでいいと思います。

 “可哀想”じゃなくて、“覚悟”が見える。

 それだけ、守りたいものが強く感じられます」


白石が、間髪入れずに言う。


「欠けた瞬間に、澪の表情は泣かせないほうがいいかも。

 泣かないから怖い、って方向で」


「……はい、そのイメージです」


物語のすべてを伝えることはできない。

それでも、こうやって読み解いてもらえると、

シナリオライター冥利に尽きる。


南雲が手を上げる。


「じゃあ、企画書の骨子に落としましょう!」


如月が頷いた。


「午前中で、制作側の企画書を完成させる。

 午後は、プロデューサーと営業と制作進行を入れて通す」


乙部が両手を叩く。


「よーし、午前のうちに“勝てる形”にしちゃお~♪」


三角が、ひなたの方を見て言った。


「先輩、ここからは俺たちの仕事です!」


「ああ、任せた!」


如月が、軽く手を叩く。


「じゃ、いくわよ。


 企画書に落として、“伝わる形”にする」


「はいっ!」


全員の声が重なり、その勢いのまま議論が始まった。

案をベースに、様々な施策が検討されていく。

話が弾む、ベースとなる案がいいと皆が感じている証拠だ。


(良かったぁ~~~!)


ここまでの疲れが一気に晴れていく。

この瞬間のために、この仕事をやっているといっても過言じゃない。


だが、ここはまだスタートラインだ。

ここでできることは、全部やる。

ひなたは、気持ちを引き締めなおす。


(これで良かったんだよな、澪――)


その問いかけに対して、澪が微笑んでいるように感じられた。

後は、午後の会議だ!

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