第42話 王都、炎上
王都の中に設営された臨時の指令本部。
ヴァルキュリア騎士団の団長、アレクシアの元に次々と凶報が舞い込む。
「鍛冶職人街の空き店舗で爆発発生ですっ!!」
「こちらは穀物倉庫で火災発生、負傷者数不明、現在第一騎士団が対応中です」
「各地で同時に火災が発生、消火が間に合いませんっ!!」
悲痛な叫びにも似た報告を聞きながら、アレクシアは次々と指示を出していく。
「中央広場から露店を立ち退かせろ。そこに被害者を集め、集中的に治療にあたらせる。サマンサ、第一騎士団に説明して協力を仰げ」
「承知しましたっ!!」
「消火に関しては、有志による消火団をまとめるしかない……コリーナ、任せられるか?」
「大丈夫です。いくつか心当たりがあります」
「よし、この件に関しては全権を委ねる……頼んだぞ」
「はい、団長っ!!」
コリーナが数人の騎士達を連れて、走り去っていく。
そしてそんなアレクシアに更なる凶報が届く。
「貴族街で火災発生ですっ!!」
「な、何っ、何処っ!?」
「アンダーウォーター男爵邸です!!」
「貴族街の担当は近衛騎士団だろう? 何をしているっ!?」
「現場にはこの騎士団の姿はありません……しかし、このままでは類焼が懸念されますっ!!」
「くっ……わかった……近衛騎士団に伝令を出せ!! 『アンダーウォーター卿の家が延焼中につき、付近の家屋に類焼する恐れあり』、となっ!!」
「はっ、行ってまいります」
伝令が来るたびに、新たな伝令を持たせて走らせる。
その繰り返しだった。
「(完全に後手に回った……敵の動きが早すぎる……間に合わない……)」
アレクシアは指示を飛ばしながら、焦燥感に押しつぶされそうだった。
「(いや、これは陽動なのっ!!……本命は舞踏会場……陽動に振り回されていてはいけないのよ、アレクシア)」
アレクシアはそう呟き、自分を鼓舞する。
「王宮の舞踏会場に伝令、『敵の陽動が激しい。警戒を厳にせよ』と伝えなさいっ!!」
そう指示を出すアレクシアの元に、更なる悪い報告が届くのだった。
◆
王都の中央広場。
サマンサが第一騎士団の騎士達を連れて、この場所に救護施設を設営する為にやってきた。
「この場所を、一時的に救護施設設営の為に接収しますっ!! 露天商の方々は、一時的に場所を開けてくださいっ!!」
サマンサが大声で露天商たちに声を掛けるが、露天商たちの動きは鈍い。
それどころか、あからさまに不満を口にするものすら現れる。
「俺達に此処から出て行けっていうのかっ!?」
「いくら何でも横暴だろうっ!!」
「俺達の稼ぎなんてどうでもいいと思ってんのかっ!!」
露天商たちから大きな反発が起こる。
「王都内の至る所で火災が発生しているんだっ!! 負傷者を救護する為に、この場所が必要なのだっ!!」
第一騎士団の騎士達が言い返す。
しかし、騎士団が言い返せば言い返すほど、露天商たちの反発が大きくなる。
「よそに行けばいいだろうっ!! 俺達と被害者と何の関係があるんだっ!!」
「そうだそうだ、騎士団は横暴だっ!!」
露天商たちと騎士団の騎士達の対立が激しくなっていく。
その時、いずこからか石が騎士団に向かって投げつけられる。
ガツッ
第一騎士団の騎士の鎧に石がぶつかる。
その様子を見ていた騎士達の表情が変わる。
「誰だっ!! 我々に石を投げたのはっ!?」
それはもはや恫喝だった。
「貴様ら、このような事をして、ただで済むと思っているのかっ!?」
騎士が叫ぶ。
そしてその叫びに答えるように、多数の石が騎士達に投げつけられる。
ガツッ、ガツッ、ガツッ
「お、おのれ貴様らっ!!」
騎士の一人が剣を抜く。
「貴様ら、王家の方針に逆らうのかっ!?」
「貴殿らが無辜の平民に剣を向けるのが、王家の方針なのですか?」
そう言って、人混みの中から、ローブを纏った男が一歩前に現れる。
「何者だ、貴様っ!!」
「わたしが何者なのかは些細な問題だ……この場で大切な問題は、王都の民達に十分な説明もなく、この場を明け渡せと、剣を抜くお前たちの方だっ!!」
「聖者様……」
「聖者様だ……」
「ああ……聖者様……」
一部の者たちが男の前にひれ伏す。
聖者と呼ばれた男は平伏す人々を一瞥すると、大きく頷いた。
「このように無辜の平民を恫喝し、剣で脅すことが王家のやり方かっ!?」
その言葉に騎士達が奥歯を噛みしめる。
聖者と呼ばれた男は更に言葉を繋ぐ。
「このような専横を許す王族など必要ないっ!! 出て行くのはお前たちだっ!!」
「貴様っ!! 不敬だぞっ!!」
騎士の一人が剣を引き抜き、聖者と呼ばれた男に斬りかかる。
「聖者様っ!!」
平伏していた男の一人が二人の間に飛び込む。
ザシュッ
「ぎゃあああああっ!!」
飛び込んだ男の背中を、騎士が袈裟懸けに斬り割いてしまう。
唖然とする騎士……地に伏して動かない男……そしてその様子を冷静に見つめる聖者と呼ばれた男。
「これが……これが王家のやり方なのだ……見たろう? 言う事を聞かねば暴力で抑えようとする……平民の命などなんとも思っていないのだ……」
「これが施政者のやる事か……否、断固として違うっ!! 聞け、王家の犬どもよ……このような専横が許されると思うでないぞっ!!」
「そうだ、そうだっ!!」
「王家の犬は出て行けっ!!」
「出て行けっ!!」
住人たちから激しい石礫が騎士団に投げつけられる。
「く、くそ……一旦退却するっ!!」
第一騎士団の誰かがそう叫ぶと、騎士団が中央広場から撤退していく。
その姿を見た住人たちから割れんばかりの歓声が上がる。
その中央で、聖者と呼ばれた男が静かに両手を空に掲げる。
その姿はまさに聖者と呼べるものに見えた。




