第41話 祝福の鐘、破滅の鐘
王宮、婚約披露舞踏会の会場。
既にホールの中には多数の貴族たちが集まっていた。
まだ、王家の人々が姿を現していないため、参加者達はおもいおもいに舞踏会の雰囲気を楽しんでいた。
楽隊の音楽に合わせ、軽く踊りを披露するものや、食事を始めている者、着飾った貴族たちによる社交……それらが混然となり賑やかな空間を作り出していた。
「(うわああ……覚悟はしていたけど……物凄い人数だよ……)」
ニコは軽食を提供するテーブルの後ろで警戒に当たっていたのだが、会場に溢れんばかりの貴族が集まるさまを見て、純粋に驚いていた。
やがて、他国からの来賓の人達の入場が始まり、会場の雰囲気が盛り上がっていく。
従事長が楽隊の横に現れ、指揮者に目配せをすると、楽隊の音楽がフェードアウトしていく。
音楽が止まるのを待って、侍従長が大きな声で宣言する。
「アルデリオン国王陛下ならびに王妃陛下、帝国公爵家レオンハルト・ヴァルゼリア様ならびにフラウセリア王女殿下の御入場です」
楽隊が短いファンファーレを演奏する。
貴賓席の後ろの扉が開かれ、国王陛下夫妻、そしてレオンハルトとフラウセリアが姿を現す。
四人は静かに貴賓席に移動すると、国王陛下が一歩前に歩み出る。
広い会場内が静寂に包まれ、国王陛下のお言葉を待つ。
そして国王陛下が会場の人々に話し掛ける。
「今宵、若き二人の為にこれほど盛大な催しを開ける事を、この場にいる全ての者に感謝する」
「長い挨拶は無用であるな……帝国公爵家レオンハルト殿と我が娘フラウセリアの婚約を祝し、今宵は存分に祝って欲しい」
「婚約披露舞踏会を開始する!!」
その言葉と同時に盛大な拍手が巻き起こり、楽隊がワルツを奏で始める。
こうしてフラウセリアの婚約披露舞踏会が開始されたのだった。
◆
国王陛下の開会の言葉が終わったのに、会場内はずっと拍手が続いている。
その様子を見てレオンハルトがフラウセリアに語り掛ける。
「どうやら皆は私たちが共に踊るところを所望しているようだよ?」
「…‥レオンハルト様……」
レオンハルトはフラウセリアの手を取り、貴賓席からフロアに繋がる階段をゆっくりと降りていく。
二人はフロアの中央まで移動すると、レオンハルトは帝国式の貴族の礼をとり、フラウセリアは優雅にカーテシーの姿勢をとる。
会場内からそのあまりにも美しい光景に、感嘆のため息が漏れる。
二人が姿勢を戻し、静かに互いの手を取りあう。
そしてレオンハルトが音楽に合わせて、フラウセリアを踊りに誘う。
その光景はまるで絵画のように美しかった。
◆
ニコはそんな二人が踊る光景をじっと見つめていた。
「(フラウ……おめでとう……めっちゃ綺麗だよ……)」
何故だか分からないが、ニコの頬を一筋の涙が零れ落ちる。
そしてニコは心の中で固く誓う……絶対にフラウセリアを守るのだと……フラウセリアの笑顔を守るのだと。
◆
大聖堂。
尖塔の鐘の下に二人の聖職者が姿を現す。
遥か頭上にある鐘から、長いロープが垂れ下がっている。
二人の聖職者が部屋の隅に設えられた時計の時刻を確認する。
この時計はかつての勇者の発案により作成されたと言われている。
カチカチと規則正しい音を立てて時計が動いている。
そして時計の針が夕刻の時間を示す。
聖職者は全身をばねの様に使って鐘を鳴らす。
ゴーン……ゴーン……ゴーン……
荘厳かつ重厚な鐘の音が夜空に響いていく。
聖職者たちは既定の回数鐘を鳴らすと、時計に向かって一礼してから姿を消す。
先頭の内部には、鐘の音の余韻がまだ残っていた。
◆
ゴーン……ゴーン……ゴーン……
鐘の音は王都中に響き渡る。
王女の婚約という祝い事に酔いしれていた人々は、尖塔の鐘の音を婚約の祝いの鐘の音と捉えたようで、市中の至る所から歓声が上がる。
彼方此方でジョッキをぶつける音や口笛、指笛を鳴らすものが現れる。
王都は今、幸福の絶頂にいると言っても過言ではなかった。
◆
「鐘が鳴った……」
「鳴ったな……」
市中に点在する空き店舗の中で、男達が静かに鐘の音を聞いていた。
「行動を開始する」
男達が動き始める。
事前に運び込んでいた『火薬』……それが部屋の中にうず高く積まれている。
その火薬から導火線と呼ばれるものが伸びていて、男はその導火線に火を放つ。
バチバチバチッ
導火線は火花を散らしながら積み上げられた火薬に近づいていく。
「退避しろ……集合地点で落ち合おう」
「「おう」」
男達が空き店舗から飛び出していく。
そして暫くののち、王都の至る所で大きな爆発が連鎖するのだった。




