第33話 営倉の中の推理
ヴァルキュリア騎士団本部の地下。
営倉に入っているニコはずっと大声で叫んでいた。
「誰かっ!! 誰かいませんかっ!? コリーナ小隊長かヴァスケス班長を呼んでくださーいっ!! お願いしまーすっ!!」
鉄格子に顔を押し付けながら必死になって叫ぶ。
どの位そんな事をしていただろう。
喉も枯れ始め、声が掠れてきた頃、一人の先輩騎士が地下に降りてきた。
「ニコ、煩いぞ……そこは静かに反省する場所だ……」
明らかに不機嫌そうな表情でニコに語り掛ける。
「……先輩、あたし気づいたんです。小隊長か班長に報告しないといけない事があるんです」
ニコは冷静に先輩騎士に話し掛ける。
「何に気付いたって言うんだよ?」
「アグネスの事です……婚約舞踏会が危ないんですっ!!」
「何で、そんな事が分かるんだよ?」
「だからそれを説明するんです。お願いですから小隊長か班長を呼んでください」
「そんなことできる訳ないだろう? お二人とも超多忙なんだぞ」
「はう……それはそうでしょうけど……でも、お話したいんです」
先輩騎士との押し問答が続く。
そんなやり取りをしていると、不意にもう一人の声が聞こえてきた。
「煩いぞニコ。反省しているかと思ったら、また騒ぎを起こしているのかよ?」
その声にニコが思わず反応する。
「ヴァスケス班長っ!!」
ヴァスケスは呆れた様に両手を広げながら、ニコの前に歩いてきた。
「ヴァスケス班長」
先輩騎士が騎士の礼でヴァスケスを迎える。
「オレに話って何だよ……つまらねえ話だったら練兵場を走らせるぞ?」
ヴァスケスは口元を上げてニコに問いかける。
「アグネスの話です……あの子が何を考えているか、分かるような気がしたんです」
「……それで?」
「できれば、アグネスが何かしでかす前に止めたい……でも、時間的にも状況的にも難しいと思うんです」
「……お前なら、アグネスが何を考えているか推測できるっていうのか?」
ヴァスケスが真剣な表情でニコを見つめる。
「分かりません……だから、話を聞いて欲しいんです」
ヴァスケスは顎に手を当てて思案する。
そんなヴァスケスをじっと見つめるニコ。
暫く思案した後、ヴァスケスが傍らの騎士に声を掛ける。
「こいつを出してやれ。オレが責任を持つ」
「ヴァスケス班長……規則違反です」
「分かってる。ただ、コリーナは身動きが取れない。話を聞かせるにはこいつを連れて行くしかない」
「……しかし」
「ニコは馬鹿だけど、嘘はつかない……いや嘘がつけない……かな」
ヴァスケスがそう言って苦笑する。
「お前はオレの指示に従っただけだ……咎めが及ぶことは無い」
そう言って騎士の方を叩く。
「……わかりました……しかし、この責任は取ります。わたしもヴァルキュリアですから」
騎士はそう言って腰に下げてきた営倉の鍵を取り出す。
「……ニコ。ちゃんと話して来いよ」
そう言って騎士が営倉の鍵を開ける。
「先輩……ヴァスケス班長……」
ニコの目が涙で潤む。
「みんなで規則違反をするんだ……つまらねえ話を聞かせるんじゃねえぞ」
「は、はい」
ニコは涙を拭きながら大きく返事をするのだった。
◆
ヴァルキュリア騎士団本部。
コリーナの事務室。
事務机の向こう側でコリーナが不機嫌そうに、部屋の侵入者を見つめている。
「ヴァスケス……どういうつもりだ? わたしは忙しいんだ」
「まあまあ、そう言うなって……少しだけ時間をくれよ。悪い話じゃないと思うぜ」
「お前から良い報告を聞いた記憶が無いんだが……」
そう言いながらも、コリーナは事務作業の手を止めて、改めてニコに声を掛ける。
「何でお前が営倉から出ているのかは聞かないが……つまらない話だったら、すぐに営倉に送り返すぞ」
「は、はい……覚悟はしています」
ニコは直立不動の姿勢をとる。
「ふむ……で、話とは何だ」
「アグネスの狙いについて考えてみました」
コリーナは黙ってニコの話を聞いている。
「結論から言うと、アグネスの狙いはフラウセリア王女だと思います」
その言葉に、コリーナは眼を鋭くさせ、ヴァスケスは笑みを浮かべる。
「何故その結論になった?」
「アグネスは王家に対して深い怨恨を持っています……本当なら王家を滅ぼしてやりたいと思っている可能性が高いです」
「ふん、そんな事は不可能だ……王家に不満を持つ貴族が幾ら集まっても、この国の体勢は揺るがない」
「そうです……だから王家が一番嫌がる事、されては困る事を狙ってきます」
「王家が嫌がる事……か」
「はい。今はフラウセリア殿下の婚約披露舞踏会が最大の行事です……外国からの招待客も多数参加します。これを台無しにされたら……王家の面子は丸つぶれです」
「しかし、さっきも言ったように、それは不可能だろう……舞踏会には中級以上の貴族しか参加できない……」
「そこです。何故中級以上の貴族なら安全と皆さんはお考えですが……それは何故ですか?」
「当たり前だろう……中級以上の貴族は王家に特別の忠誠を誓っている」
「本当ですか?」
「何……貴様、貴族の忠誠を愚弄する気か」
「違います……全ての貴族が王家に忠誠を誓っていると考えるのが間違っていると
言っています」
コリーナはニコを睨みつける。
「現に、フェアチャイルド家は何の罪もないのに取り潰しになりましたよね……それ以外にも五家の貴族が取り潰しになったと聞きます」
「それは王家の発布した法律を守らなかったからだ」
「違います。勇者の遺構は、あの法律が発布される前から有効に使われていました」
「貴様……王家が発布した法律に不服があるのか?」
「そこです……面と向かって不服を申し立てれば、取り潰された貴族と同じになってしまう」
「……」
「面従腹背です……表面上には現れません……でも、王家に不満を持っている貴族は必ずいます」
「ニコ……その発言は不敬罪にあたるぞ」
「構いません。本当のことを言えないような国は、こっちから願い下げですっ!!」
「貴様っ!!」
「二人とも、冷静になれっ!!」
二人の言い争いを止めたのはヴァスケスだった。
「コリーナだって分かっているだろう……貴族たちが一枚岩ではない事を……」
その言葉にコリーナは悔しそうに唇を噛みしめるのだった。




