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第28話 それぞれの旅立ち

 


 ニコはノワールに騎乗して、ヴァルキュリア騎士団の本部前に戻ってきた。


「ニコ……それは?」


「コリーナ小隊長。アルバがアグネスの行き先を知っているかもしれません」


「……ニコ」


「もちろん駄目かもしれません。でも、やれる事はやっておきたいんです」


 コリーナが思案する。


 そしてコリーナもニコに賭ける事にする。


「わかった。但し、お前の単独行動になる……助けが必要になっても……だ」


「はい。承知してます。無理はしません」


「……離宮には代わりの者を派遣する……気を付けて行って来い」


「はい。ありがとうございます」


 ニコは馬上で騎士の礼をすると、ノワールの馬首を返す。


「行くよ、ノワール、アルバ」


 その言葉にアルバが反応し、早足で駆け始める。


 その後を、ニコを載せたノワールが続いていく。


 コリーナがその後姿を見送り、そして傍にいた騎士に声を掛ける。


「ジェシカに伝令だ……」


 伝令を受けとった騎士は、離宮に向けて駆けていく。


 ヴァルキュリア騎士団本部は、未だに慌ただしく騎士達が動いていた。


 ◆


 アルバは時々後ろを振り返りながら、どんどん歩いていく。


「この方向は、騎馬コースに向かっているのかな……」


 ニコは辺りを見回しながら、アルバの向かう方向を推理する。


 王城を横手に見ながら、ぐるっと一周できるこの道を、騎士達が乗馬の訓練に使うため、騎馬コースと呼ばれている道。


 アルバは何かを確信しているかのように、迷いなく歩いていく。


「……この道は、例の小道を発見したルートだよね……」


 ニコは無意識にノワールの首を撫でる。


 そしてしばらく歩いていくと、やはりアルバは例の場所で止まる。


 其処には数日前、ヴァスケスとアグネスが灌木を伐採した痕跡が残っていた。


「……誰かが入った跡がある……」


 ニコは怪訝そうにその痕跡を見つめる。


「ねえ、此処に入るの?」


 ニコが尋ねると、まるで言葉を理解しているかのようにアルバが嘶く。


「……そうなんだね……じゃあ、行ってみようか」


 ノワールが動き出すと、アルバが先に灌木の間に体を滑り込ませていく。


 ニコもノワールに騎乗したまま、灌木の間を進んで行く。


 灌木を抜けると、一面の雑草畑が目に入る。


「……あ……これは」


 其処にあったのは、誰かが雑草を踏み分けた痕跡。


 ヴァスケスとアグネスが此処の調査に訪れた時に残したものだが、ニコはその事実を知らない。


「……ちょっと前の痕跡だよね……」


 ニコが躊躇していると、アルバが先に雑草を掻き分けて進んで行ってしまう。


「あ、ちょっと待ってよ。雑草の背が高いから……」


 ニコが慌ててアルバの後を追う。


 雑草畑は静寂に満ちていて、二頭が雑草を掻き分ける音だけが響いていく。


 時折吹いてくる涼風が、緑の匂いを運んでくる。


 やがて、ニコたちは人工湖のほとりにやってきた。


「……此処か……」


 ニコが周囲を観察する。


 人工湖は豊かな水を貯え、時折吹く風に水面が揺れている。


 そしてニコはその景色の中に、追い求めていた姿を見つけてしまう。


「……あれ……」


 じっと水面を見つめる後姿に、長い金色の髪が揺れている。


 ずっと探し求めた姿を見つけたというのに、声を掛けるのを躊躇ってしまうほど、その背中は何故か物悲しく見えた。


 ニコがじっとその後姿を見つめていると、不意にその人物が振り返る。


 そして、最初に自分の方を見ている白い愛馬の姿に気付く。


「……アルバッ……?」


 思わず愛馬の名を呼ぶ。


 そして次の瞬間、愛馬の後ろにいるニコとノワールの姿に気付く。


「……ニコ……」


 アグネスとニコの視線が交差する。


 互いに何を言っていいか分からず、無言で見つめ合うのだった。


 ◆


 離宮。


 謁見の間。


 複数のメイド達によって完璧な王女に仕上げられたフラウセリアは今、皇太后陛下と最後の挨拶を交わしていた。


 皇太后陛下が穏やかな笑みを浮かべてフラウセリアに短い言葉を掛ける。


「フラウ……行ってらっしゃい」


「はい、おばあさま」


 皇太后陛下の前で静かに頭を下げる。


 そしてゆっくり頭を上げると、しっかりとした口調で皇太后陛下に挨拶をする。


「行ってまいります」


 フラウセリアは皇太后陛下に背中を向ける。


 控えていたヴァルキュリア騎士団が一斉に踵を鳴らす。


 ヴァルキュリア騎士団の騎士達が整列する真ん中を、フラウセリアがゆっくりと歩いていく。


 そしてその一歩ごとに、王女ではなく、この国を背負う者の歩みに変わっていた。


 フラウセリアが謁見の間から退出すると、その大きな扉が音もなく閉まるのだった。



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