第27話 相棒が示す道
ヴァルキュリア騎士団本部。
ただし、本部前はいつもと違う騒然とした空気になっていた。
伝令が走り回っていて、コリーナが険しい表情で指示を飛ばしている。
ニコはそんな雰囲気に驚きながらも、コリーナ小隊長に近づく。
「おはようございます。コリーナ小隊長」
ニコが挨拶すると、少しだけコリーナの表情が緩む。
「ニコか。早いな、何かあったか?」
「いえ、自分の方は……姫様の警護も問題ありません」
すると、コリーナが眉間に皺を寄せる。
「悪いが報告が無いのなら任務に戻れ……詳細は後でジェシカから聞け」
そう言ってコリーナは別の騎士を捕まえて、新たな指示を出している。
「あ、あの。アグネスの事なんですけど」
ニコがそう言うと、コリーナが険しい表情でニコを見つめる。
「アグネスがどうかしたか?」
「いえ、行方不明になる前に幾つか気になる事があって」
「気になる事……?」
「自分が門限破りをした日の事なんですけど……あの日、アグネスも門限破りをしていたみたいで……ただ、アグネスは塀を乗り越えて行ったんで見つからなかったんですけど」
「それで?」
「アグネスらしくないなって……本人に確認したんですが、否定もしないし、逆に証拠はあるのかって……全然いつものアグネスじゃなかったんです」
「……そうか……なるほどな」
コリーナはじっとニコを見つる。
「その他に心当たりがあるのか?」
「いえ……本当はもっと早く小隊長に相談すべきだったんですが……」
「……ニコ。よく聞け」
「はい?」
「アグネスには今、重大なある嫌疑が掛かっている……行方不明ではなく、自ら身を隠した可能性が高い」
「そ、そんなっ」
「今はアレクシア団長とヴァスケスが中心となってアグネスを探している……」
「そうなんですね……」
「お前はアグネスと同期で同室だ……何か心当たりがないか?」
「……心当たり……ですか?」
ニコは腕を組んで考え始める。
その間にも、コリーナの元には伝令の騎士が入れ代わり立ち代わり現れ、伝言を伝えていく。
そしてコリーナが再度ニコに、任務に戻るように伝えようとした時だった。
ニコが大きく目を見開く。
「アルバ……アルバですよっ!! アグネスがアルバを置いて行くなんてありえませんっ!!」
「……アルバか……」
「厩舎に行ってみます。何か分かるかもしれません!!」
ニコはそう言うと、厩舎に向かって駆けだしていった。
コリーナはニコの後姿を見ながら、「頼んだぞ」と思うのだった。
◆
ヴァルキュリア騎士団の厩舎。
騎士達が乗馬する馬達は此処で世話をされている。
今も馬丁達が飼葉を抱えて、一頭一頭に丁寧に与えていた。
其処にニコが駆け込んできた。
「やあ、ニコ。おはよう」
なじみの馬丁が挨拶してくる。
「ねえ、アルバはっ!? アルバはいるっ!?」
「アルバ……ああ、いるよ。いつも通りノワールが横にべったりだけど?」
「ありがとっ」
ニコはそれを聞くとノワールとアルバのいる場所に向かって行く。
厩舎の端の一角にノワールとアルバのお気に入りの場所があり、二頭はいつも其処にいる事が多かった。
そして今も其処に二頭の姿があった。
駆け寄ってくるニコに最初に気付いたのはノワールだった。
ブルルルルルッ
ノワールは大きく嘶くと、駆け寄るニコに頭をぶつける。
「痛っ!! 朝からご挨拶だな、ノワールは」
ブルルルルルッ
「でも、ちょっと待って。今日はアルバに用があるんだ」
そう言ってニコはアルバを見る。
白毛のアルバはいつものように気品に満ちた姿勢でニコを見つめてくる。
しかし、ニコは何となくアルバが不安そうにしているのを感じ取った。
「アルバ……お前、アグネスが行方不明になっていること……わかってるの?」
ブルルルッ
アルバが小さく嘶く。
「そうだよね……今まで毎日顔を出していたのに……急に姿を見せなくなったんだもんね」
ニコはアルバの首を抱きしめる。
ブルルルルッ
アルバが優しくニコに頭を摺り寄せる。
「ねえ、アルバ……お前ならアグネスが何処にいるか分かるんじゃない?」
ニコはそんな事を言葉に出してしまう。
ブルルルッ!
するとアルバが大きく嘶き、前足で何度も地面を掻いて見せる。
「え……本当に分かるの?」
ブルルルッ!!
アルバが再び嘶くと、ニコの背中にノワールが頭を押し付けてきた。
「ノワール……お前もそう思っているの?」
その様子にニコは決心する。
「……アルバ……お前のご主人様の所へ案内してくれる?」
ブルルルルルッ!!
ニコの問いかけに、アルバが今日一番大きく嘶いた。
◆
ニコは馬丁に手伝ってもらいながら、ノワールとアルバに鞍をつける。
「本当に大丈夫ですか? アルバはともかく、ノワールも一緒なんて」
「大丈夫だよ。アルバは賢いし……あと、ノワールは結構人の言葉が分かるみたいだから気を付けてね?」
「……もう遅いっす」
馬丁はノワールに髪をガミガミされて、涎でベチョベチョにされていた。
「あーあ……ノワール、彼の髪の毛なんて美味しくないからやめてあげて」
ブルルルルッ
ノワールは吐き捨てるように馬丁の頭から口を離す。
「びちょびちょだよ……とほほ」
落ち込む馬丁にニコが声を掛ける。
「じゃあ、行ってくるね。必ず戻ってくるから」
「お気をつけて……アルバも、ノワールも」
ニコは馬丁に挨拶をすると、ノワールに跨る。
「アルバ、ノワール。行くよ」
ニコの掛け声でノワールとアルバが歩き出すのだった。




