第25話 袋小路の突破口
地下道の崩れた小部屋の一角。
ヴァスケスは散々苦労した挙句、やっと両手を拘束していたロープを解く事に成功する。
「くそっ、口の中が傷だけだ……」
ヴァスケスはそう言って、口の中のつばを吐き捨てる。
そして部屋の隅にある蝋燭に気付く。
「ちくしょう……蝋燭の炎で焼き切った方が早かったじゃねえか……」
ヴァスケスは思わずその場に蹲る。
「……こんな事にも気づかないとは……相当にテンパってんな……自分」
そう言って、両手で頬を叩く。
「気合を入れ直せ……冷静になれ……」
ヴァスケスはそう言って自分に言い聞かせる。
「此処は奴らのテリトリーなんだ……落ち着いていくぞ」
ヴァスケスは大きく深呼吸する。
すると不思議な事に急に周囲の物音がはっきりと聞こえるようになった。
壁の向こう側からは、激しく流れる水音が絶えず聞こえてきている。
「この水量の音……どこかで聞いた覚えがあるな……」
ヴァスケスは音をたてないように、崩れた部屋から顔を出す。
地下道は相変わらずほぼ真っ暗で、所々に蝋燭が灯っている。
そしてその光景を見てヴァスケスは確信する。
「(これは調整池で聞いた水音に似ているんだ……)」
もう一度周囲の音を聞く。
水の音以外何も聞こえない。
ヴァスケスは解いたロープを丸めると、蝋燭の炎にそれをかざす。
ロープのささくれに炎が移り、次第にロープ全体に火が回る。
「(こんなもんでも無いよりはましだ)」
ヴァスケスはそれを松明代わりにして、崩れた小部屋から一歩足を踏み出す。
「(革鎧も剣も奪われちまっている……極力戦闘は避けないとな……)」
ヴァスケスは次第に激しくなる水音を頼りに、ゆっくりと歩みを進めるのだった。
◆
ヴァスケスは地下道を歩きながら、違和感を感じていた。
「(前回探索した時、こんな場所は無かったぞ……あれだけ調査したのに見逃していたのか?)」
調整池に流れ落ちる水音が次第に大きくなっていく。
そして突然前方が行き止まりになる。
「(えっ?)」
ヴァスケスは松明代わりの火のついたロープを振ってみる。
そして気づく。
行き止まりと思えた壁の向こう側に細い通路がある事に。
「(クランク状になっているのか……これは気が付かねえ……)」
ヴァスケスは細い通路に体を滑り込ませる。
痩せている人間がやっと通れるくらいの隙間。
ヴァスケスが其処を進んで行くと、不意にレンガが崩れた小部屋の場所に出た。
「(こんな偽装……初見じゃ気づけねえ……)」
そして、更に一歩踏み出そうとした時だった。
不意に人の話し声が水音に交じって聞こえてきた。
「……だから……破棄…………繰り上げる……」
男の声が途切れ途切れに聞こえる。
「(水音が煩くて、聞き取れない……何をしゃべってやがるんだ?)」
ヴァスケスは細い通路に身を隠しながら聞き耳を立てる。
そして耳が慣れてきたせいか、男の声が聞き取れるようになってきた。
「王城の北門から侵入する計画は破棄だ……騎士団の連中が網を張っている可能性がある」
「そんな……じゃあ、どうするんだ」
「計画を早める……当日に行動を開始ではなく、今日のうちに移動を済ませておく」
「しかし、あの大人数を移動させるのは、相当目立つぞ」
「それには考えがある……実は」
話が核心に迫った瞬間、ヴァスケスが足を載せていた瓦礫が崩れた。
ガシャガシャッ
「誰だっ!?」
「(くそっ、しまった……此処で引き返しても袋小路だっ!!)」
ヴァスケスは一瞬で前に飛び出す判断を下す。
其処には聖人と呼ばれた男と、スラムの代表の男の姿があった。
「貴様っ、抜け出したのかっ!?」
その声に反応したスラムの男達が、暗闇からワラワラと湧いて出てくる。
「くそっ、こんな所で捕まる訳にはいかねえんだよっ!!」
ヴァスケスは聖人と呼ばれた男に突っ込んでいく。
まさか自分に突っ込んでくるとは思っていなかった男は、身体を捻ってヴァスケスの突進を割ける。
「(隙間ができたっ!!)」
ヴァスケスは男が避けた空間を走り抜ける。
「ま、待てっ!! 追いかけろっ!!」
スラムの代表が大声を上げるが、狭い通路で大人数が一斉に動き始めたため、あちこちで人がぶつかり合っている。
ヴァスケスは前方に立ち塞がる人間だけを相手にして、逃走を続ける。
「どけっ!!邪魔をするなっ!!」
ヴァスケスは一人、また一人と邪魔をする人間を下水道に叩き落とす。
そして次第に立ち塞がる人間がいなくなる。
だが、後ろからは追いかけてくる気配が迫ってくる。
「(くそっ、どうする……現在位置が分からんっ!!)」
そう考えた瞬間、視界の片隅にマンホールに繋がる縦穴を見つける。
「(この先が塞がれていたら、お終いだ……しかし)」
ヴァスケスはその縦穴に手を掛ける。
「(オレは、悪運だけは強いんだぜっ!!)」
ヴァスケスは心の中で叫び、梯子のように突き出ているレンガを掴み、上へ上へと上って行くのだった。




