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第24話 最後の夜

 


 その日の夜。



 ニコはフラウセリアの私室に居た。


「最後の最後になっちゃったけど、約束が果たせてうれしいよ、フラウ」


「寝室にニコがいるなんて、本当に不思議……あーあ、でも今日で最後なんだよね」


 フラウセリアは明日、王宮に移動する。


 そしてそのまま王宮に滞在し、明後日の婚約披露舞踏会に臨むのだ。


「明日は教会に行ったり、舞踏会の最後の打ち合わせをしたりで、忙しいんだよ?」


 フラウセリアは頬を膨らませる。


「でも、レオンハルト様が優しい人で良かったね」


 ニコがそう言うと、フラウセリアの顔が赤くなる。


「はう……急にレオンハルト様の名前を出すなんて……ニコずるい」


「ふふふ、レオンハルト様が支えてくれるなら、少しは不安も軽くなるんじゃない?」


「そうね……そうだと良いのだけれど……」


 そこまで言ってから、フラウセリアが小さな欠伸をする。


「フラウ、眠そうだよ。もう寝た方が良いんじゃない?」


「えー、寝たらニコとお話しできないじゃない」


「寝不足の王女様って、どうなのさ。あたしはあんまり見たくないかも」


「むう」


 フラウセリアは頬を膨らませながら、それでもベッドの上に移動する。


「ねえ、ニコ。今日は朝まで一緒にいてくれるんでしょ?」


「はい。フラウがお嫁さんに行くまでは、ずっと一緒にいるよ」


「えへへ……なんだか、ニコを始めて見た時の事を思い出しちゃった」


「そう言えば、テラスから練兵場を覗いていたって言ってたね」


「……一番最後になっても、最後まで走り切った騎士候補生が凄く気になって……それが今はこうして、わたしの私室にまで来てくれるようになったんだなって……」


「ありがと。フラウが応援してくれたおかげだよ」


「……本当?」


「本当だよ。フラウが『いつか私の私室警護が出来る立場になって』って言ってくれたから、頑張ろうって思ったんだよ」


「……ニコ」


 フラウセリアが急に寂しそうな表情をする。


「あたしね……やっぱり不安なの。レオンハルト様は優しいけど、わたしは帝国の事を良く知らないし……エステルはついて来てくれるけど……」


 ニコはその言葉を聞いて、フラウセリアの手を握りしめる。


「ニコ……」


「あたしはヴァルキュリアだから、一緒に行けないけど、心はいつもフラウの傍にいるよ」


「……」


「フラウが困ったときは教えてね……その時は必ず駆けつけるから」


 その言葉にフラウセリアがギュッとニコの掌を握り返してくる。


「ありがと。今まで一番元気が出たよ」


「そう? それなら良かった」


「ねえ……お願いがあるんだけど……」


「なあに?」


「わたしが寝るまで、手を握っていてくれる?」


 フラウセリアが小さな声でそう言ってきた。


「お安い御用です。お姫様」


 ニコがそう言うと、フラウセリはゆっくりと瞼を閉じる。


 やがて、フラウセリアから静かな寝息が聞こえ始める。


 フラウセリアが安心したように眠る姿を見て、ニコは小さく微笑んだ。


 ◆


 その頃、ヴァルキュリア騎士団のアレクシア団長は、行方不明になったヴァスケスとアグネスの探索を続行していた。


「ヴァスケスが最後に目撃されたのは、スラムの入り口の様です。露天商の目撃証言を得られました……ただ、スラムの住人達は非協力的で……有効な証言を得られていません」


 部下からの報告に、アレクシアが頷く。


「分かったわ。引き続き、目撃証言を当たって。どんな些細な事でも良いから」


「承知しました」


 報告に着た騎士は、そこで礼の姿勢をとってから踵を返す。


 入れ替わりに、コリーナ小隊長が姿を現す。


「アグネスの方は、まったく足取りがつかめません。巡回ルートでも目撃者がいません」


「市中の見回りに行っていないという事?」


「おそらく。何せこの人出なので、単に目撃できなかった可能性もありますが……」


 アレクシアは顎に指先を当てて思案する。


「(ヴァスケスはおそらくスラムで何か問題に巻き込まれた可能性が高いわね……)」


 コリーナはアレクシアの傍に立ち、アレクシアからの指示を待つ。


 その間にも数人の騎士が探索の報告に来たが、有効な証言を得る事は出来なかった。


「我々を標的としたものなのでしょうか?」


 コリーナがアレクシアに尋ねる。


「可能性は否定できないわね。王国に敵対するものから見れば、第一騎士団もヴァルキュリア騎士団も同じようなものに見えるでしょうからね」


「……しかし、ヴァスケスほどの手練れが行方不明なんて……」


「それだけ、敵が強力で準備周到に事を進めていたという事かもしれないわね」


 それを聞いてコリーナが唇を嚙みしめる。


「それにスラムの雰囲気がいつになく剣呑としているという報告もあったわ。これ以上はいたずらに刺激すべきではないわね」


「しかしっ」


 コリーナが声を荒げようとするのを、アレクシアが人差し指一本で制止する。


「コリーナ。貴女の気持ちは良く分かるわ……わたしも同じ気持ちだもの。だからこそ、此処は努めて冷静にならなければいけないわ」


「……アレクシア団長」


「第一騎士団にも声を掛けてあるわ。わたしは彼らと一緒に例の廃教会に向かうつもり」


「それなら私も同行させてくださいっ!!」


「コリーナには、此処で現場の指揮を任せるわ。今は、ヴァスケスの探索よりも市中の警護が優先事項よ」


「ならば、団長がこちらに残るべきではありませんかっ!?」


「コリーナは廃教会の奥の地下道の詳細は知らないでしょ?」


「それは……そうですが」


「それにアグネスの情報収集も継続してお願いするわ」


「……」


 コリーナはアレクシアの言っている事は理解できたが、納得する事は出来なかった。


 しかし、これ以上何を言ってもアレクシアの判断は変わらないという事も分かっていた。


「承知しました……わたしは此処で現場の指揮を行います」


「ありがとう」


 アレクシアがそう言うのと同時に、第一騎士団のスティーブが駆け込んできた。


「アレクシア団長。使える奴らを厳選してきました。頼りにして下さい」


「すまないわね。我々も精鋭を連れて行くわ」


 そう言って背後の三人の騎士達を指さす。


「さあ、行くわよ。なんとしてでもヴァスケス達を探し出すわよ!!」


「「「おうっ!!」」」


 第一騎士団とヴァルキュリア騎士団の返事が重なるのだった。



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