第23話 消えた二人
その日の夜の離宮。
騎士の詰め所にフロムとニコの姿があった。
其処にジェシカ班長が入ってくる。
「ニコ、フロム、少しいいか?」
「「はい、大丈夫です」」
ジェシカ班長が指を動かして近くに寄るように指示する。
ニコとフロムがジェシカ班長の傍による。
「先程知らせがあって、ヴァスケスとアグネスが行方不明だ……」
「「えっ!?」」
「お前たちは特に二人と親しかったからな……最初に教えておくことになった」
「アグネスとヴァスケス班長がですか……二人とも相当な手練れだと思うんですけど?」
ニコが疑問に思ったことをジェシカに尋ねる。
「ヴァスケスとアグネスは別の任務中だった……一緒ではない」
ニコとフロムが顔を見合わせる。
「アグネスは市中の巡回中に、ヴァスケスは特別任務に従事中だ……」
「捜索とかはどうなっているんですか?」
フロムがジェシカに尋ねる。
「アレクシア団長を中心に、捜索チームが組まれていて、現在捜索中だ」
その答えを聞いて、ニコとフロムの不安がほんの少しだけ軽くなる。
「離宮にいるお前たちは大丈夫だと思いたいが……ヴァスケスまでが行方不明となると、そうとも言っていられない」
「「……」」
ニコとフロムが大きく頷く。
「実質、明日の夜からは前夜祭が始まる……ヴァルキュリア騎士団も半分が王都の警護任務になる」
ジェシカは二人をじっと見つめる。
「此処が踏ん張りどころだ……気を抜くな……そして気を付けろ……敵は意外な所にいる……見えているものだけが真実とは限らん」
「「はい」」
ジェシカは同時にニコとフロムの肩を叩く。
「お前たちには期待している……王女殿下を頼んだぞ」
ジェシカはそう言ってから詰め所を出て行く。
残されたニコとフロムが、再び顔を見合わせる。
「アグネス……大丈夫かな……」
ニコが心配そうな表情でフロムに尋ねる。
「わからねえ……戻れなかったって事は、アグネス達は何かに巻き込まれたのかもしれねえ」
「そんな……」
「ニコ。お前も騎士になったんだ……こういう事がいつ起こってもおかしくないんだ……」
「フロム……」
「そんな顔するなよ。覚悟の話だよ。そんな状況にはなって欲しくねえが、なった時どうするか……覚悟を決めておけって話だ」
「う、うん」
「あと、不安とかが顔に出過ぎだ……姫様は勘が良いからな。あんまり不景気な顔してんじゃねえぞ」
「う、うん。わかった」
フロムはそう言うと、悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「お姉ちゃんがいないと、不安でしゅかねー?」
フロムのおどけた言い方に、思わずむっとするニコ。
「大丈夫だし。あたしだって、ヴァルキュリア騎士団の一員だし」
「そうだな……あたし達は自分たちの出来る事をやろう」
そう言ってフロムが拳を突き出してきた。
「うん」
ニコも拳を作って、フロムの拳にコツンと当てる。
「いくぞ」
「はい」
ニコとフロムが気を引き締め直して、詰め所を後にするのだった。
◆
王都の地下道の何処か。
崩れたレンガを利用した小さな小部屋のような空間。
此処にヴァスケスが後ろ手に縛られた状態で転がされていた。
脇を流れる水音で、ヴァスケスの意識が少しずつ回復していく。
「くそっ……此処は何処だよ……」
薄暗い空間の隅に、小さな蝋燭が灯されているのが見えた。
ヴァスケスは身体を動かそうとして、自分が縛られている事に気付く。
「ちっ……やられちまったのか……オレは……」
意識と共に記憶が蘇ってくる。
「あの野郎と斬り結んでいて……思い出したっ!!」
その瞬間、自分の右の脇腹が激しく痛む。
「剥きになって斬りかかったときに奴のフェイントに引っかかったんだ……クソッ!!」
ヴァスケスは脇腹の痛みを堪えながら、体を起こしていく。
「あの野郎……剣の腹で引っ叩きやがったな……」
ヴァスケスが奥歯を噛みしめる。
「(殺せたのに殺さなかったって事かよ……くそったれっ!!)」
ヴァスケスは身体を小さく丸めると、後ろ手になっている手首を自分の尻の下に持ってくる。
「(ふん、女の身体は柔らけぇんだよ……)」
いつの間にか、背中にあった両腕が、今は膝の後ろまで動かす事が出来た。
「(これをやると、関節が痛ぇんだよな……そんな事言ってる場合じゃねえけど……)」
ヴァスケスは更に小さく体を丸め、まずは片方の足を自分の腕の輪から引き抜く。
「(痛ぇ……あと少し……くそっ!!)」
強引にもう片方の足を引き抜く。
これで拘束された手首が、自分の前側に持ってくることができた。
「(次は此奴を解くんだが……あの野郎、ガチガチに縛ってやがる……)」
ヴァスケスは手首を拘束しているロープの結び目に噛みつく。
そして少しずつ、結び目を緩めていく。
「(絶対にあの野郎をぶっ飛ばす……オレを殺さなかったことを後悔させてやるっ!!)」
ヴァスケスは固く心に誓うと、怒りをぶつけるようにロープの結び目に歯を突き立てるのだった。




