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第21話 暴かれた仮面

 

 王都の関所。


 此処に大量の物資を積んだ商会の隊列がやってきた。


 馬車が五台連なっていて、その周囲を護衛する冒険者たちが三十人ほどで取り囲んでいる。


 関所を守る衛士たちが、ハルバードをクロスさせて隊商を止める。


「止まれ!!」


「王都に何の用だっ」


 衛士たちが誰何すると、先頭の馬車から恰幅の良い男が降りてきた。


「怪しいものではございません。隣国より参ったスタンリー商会と申します。此度は王女殿下と帝国公爵令息とのご婚約おめでとうございます」


 そう言って商会長らしき男が頭を下げる。


「何でも盛大な舞踏会が催されるとか……我々も、そのお祝いに参加させて頂こうかと考えておりまして……」


 そう言って商会長は衛士達に金貨を一枚ずつ掌に握らせる。


 衛士達は視線だけを動かして掌の中の硬貨が金貨であることを確認する。


「殊勝な心掛けである……通ってよし」


「ありがとうございます……」


 商会長は揉み手をしながら頭を下げ、そして馬車へと戻っていった。


 衛士達が見守る中、商隊の馬車が次々と関所を通過していく。


 護衛の冒険者たちも、一応冒険者ギルドのカードを見せながら関所を抜けていく。


 商隊が関所を通過した後姿を見ながら、衛士の一人が呟く。


「荷物を検めなかったが……良かったのかな?」


「大丈夫だろう。それに王都は今、お祭り騒ぎで何かと物資が足りてないんだ。丁度良かったんじゃないか?」


「そう言われれば、そうだな」


「だろ。余禄もたんまり手に入ったし」


 そう言って衛士は掌の金貨を反対の手で摘まみ上げる。


「そうだな。これくらいの余禄が無けりゃ、やってられないしな」


 そう言って二人は再び、関所の番を始めるのだった。


 ◆


 一方、商隊の先頭の馬車の中。


 商会の会長と向かい合って、ガタイの良い男が座っている。


 盗賊団の頭目と呼ばれた男だった。


 頭目が商会長に語り掛ける。


「報告通り、関所の番はザルだったな」


「まったくでございます……このような催しの時こそ、厳しく番を行わなければなりませんのに……」


 商会長も目を細めながら口元を歪める。


「まあ、これで『油』と『火薬』を運び入れる事が出来たな……僥倖である」


「……その『火薬』というのは……どのようなものなのですか?」


「簡単に言うと、火を付けると、盛大に爆ぜる……量によっては城壁をも吹き飛ばすぞ」


「……それほどですか……恐ろしい」


「恐ろしいのはお前の方だ……良いのか? ことが露見したらお前もお尋ね者だぞ?」


「構いません。亡くなられた子爵様によって取り立てられたこの身。御恩返し出来る機会を失う訳にはまいりません」


「……スタンリー。感謝する……この場にはおらぬが、お嬢様も同じ気持ちだ」


「勿体なきお言葉……これであの憎きアンダーウォーターに一泡吹かせる事が出来れば本望です」


 頭目は目を瞑ってもう一度スタンリーに頭を下げる。


 そしてゆっくり頭を上げ、目をカッと見開く。


「必ずや……子爵様の仇を……王家の横暴に鉄槌を食らわせてやる」


 その言葉は、馬車の中の二人だけにしか聞こえていなかった。


 ◆


 アグネスはニコと別れた後、市中の見回りの任務に赴いた。


 しかし、その足は市中から外れ、スラムの奥へと向かっていた。


 そして、件の朽ちた教会の前にやってきた。


 アグネスは周囲を見回してから、教会の中へと入っていく。


 破れた天井から陽光が幾筋も床を照らし、その光の中を小さな塵がキラキラと輝いていた。


 アグネスは陽光を横切りながら、祭壇の裏へ移動する。


「おいおい、お前、今日はスラムの調査じゃなくて、市中の警戒じゃねえのか?」


 突然、アグネスの背後から声が掛かる。


 アグネスはとっさに腰の剣に手を伸ばし、振り返る。


「……ヴァスケス班長」


 其処にはヴァスケスが、背もたれが壊れた椅子に座っていた。


「……こんな場所に何の用だよ……」


「いえ、気になる事があったので……見回りに」


 ヴァスケスはゆっくりと椅子から立ち上がる。


「オレは面倒なのが嫌いなんだ……アグネス、てめえ何を企んでる?」


「企んでいるなんて……本当に気になる事があって見回りに来ただけですよ」


 そう言いながらも、アグネスは腰の剣に伸ばした手を戻さない。


「昨日の夜、アレクシア団長から報告があった……例の人工湖の近くに地下に続く入り口を見つけたとな……」


「……それが何か?」


「その入り口は塞がれてたそうだ……人為的に……しかもつい最近」


 ヴァスケスが一歩アグネスに近づく。


「ヴァルキュリアの中で、あの場所の事を知っているのはオレとニコ。そしてお前だけなんだよ……」


「言い掛かりは止めてください……証拠でもあるんですか?」


「お前が証拠なんて残すような奴かよ……だから、此処で網を張ってたんだよ」


 ヴァスケスの口調が、剣呑な雰囲気を纏う。


「お前ほど優秀な奴が、自ら離宮警護を固辞するのも合点がいかない……」


 そう言ってさらに一歩、ヴァスケスが距離を詰める。


 既に二人の距離は、剣の間合いギリギリまで近づいていた。


「かと言って、此処でお前が素直に喋るとも思っちゃいねえ……」


 ヴァスケスは素早く腰の剣に手を伸ばす。


 咄嗟にアグネスが後ろに飛びのく。


「……証拠もなく、わたしを拘束しようと云うんですか?」


「いや……だから、こうやって決闘にしてやってんだろ」


 ヴァスケスはそう言って剣を引き抜き、一気に横薙ぎに振るってきた。


 ガキンッ


 アグネスも剣を引き抜き、ヴァスケスの剣を払いのける。


「……これだから勘の良い人は嫌いなんだ……貴女も、ニコもっ!!」


 アグネスがヴァスケスに上段の構えで対峙する。


「……本性が出たみたいじゃねえか……いいねぇ」


 ヴァスケスも剣を正眼に構える。


「言葉なんかいらねえだろ……アグネス」


「……そうですね……ヴァスケス班長」


 二人は互いの名前を呼び合うと、再び無言で睨みあうのだった。


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