第20話 秘めたる想い
フラウセリアの婚約披露舞踏会まであと三日となった。
既に王都はお祭り騒ぎ状態で、朝から晩まで様々な人たちで賑わっていた。
ニコとフロムは今日から当日まで離宮に泊まり込むことになったので、今はその荷物を取りに宿舎に戻っていた。
「荷物って言っても、大したものは無いんだよね。替えの下着位しか思いつかないよ」
「確かにな。儀礼用の制服とかは既に運び込んであるし、強いてあげれば武器の類かな」
フロムはそう言って自分のロッカーにしまってあった細剣を取り出す。
ニコはそれを見て思い出す。
「そうだ。あたしもあの子を持って行こうっと」
「あのこ?」
「うん。あたしの相棒」
そう言ってニコは、自分のロッカーの中から木箱を取り出す。
「へへへ……ずっと仕舞いっぱなしになってたよ」
そう言ってニコは木箱を開ける。
木箱の中には白い布の袋が現れる。
「偉く厳重に仕舞ってあるな……勿体つけないで早く見せろよ」
「うん。ちょっと待ってて」
ニコは袋の紐を解くと、中から一振りの短剣を取り出す。
銀製の鞘に収まった、細身の短剣……いや、懐剣だった。
「フロムに見せるのは初めてかもね。……『銀嶺』って言うんだ」
そう言ってニコは銀嶺の鯉口を切る。
そしてゆっくりと剣を抜いて見せる。
「ほうっ……凄いな……相当な業物だな」
「フロム、わかるの?」
「馬鹿にすんな。こんだけ離れれても、凄さが伝わって来るぜ」
「そんなに怖い子じゃないよ?」
「……お前には勿体ないな」
「そんなの……言われなくたって分かってるよ」
ニコはそう言って銀嶺を鞘に仕舞う。
そしてもう一度袋の中に戻すと、丁寧に紐で結ぶ。
「その位のサイズなら、コルセットの中にも隠せそうだな?」
「一応、スカートの中に隠しておこうかなって思ってるんだ」
「良いんじゃないか。まあ、どちらにしても、すぐに取り出せなきゃ意味がないからな」
「だね」
そんな会話をしていると、珍しくアグネスが部屋の中に入ってきた。
「あれ、二人揃って一緒なんて珍しいね?」
「アグネス、久しぶりだね。最近は任務が違うから夜も会えない事が多かったし」
「まあね、ニコとフロムが離宮班に行っちゃったから、市中班が手薄なんだよ」
「あたし達が決めたんじゃねえよ。文句があるなら班長に言えよ」
フロムがむっとしながらアグネスに答える。
「そんな意味で一旦じゃないよ。実力者がいなくて大変だって言ってるんだよ?」
アグネスが苦笑しながら答える。
「そう言えば、小道の探索は何か見つかった?」
「……いや、それに小道の探索はアレクシア団長の管轄になったんだ。ヴァスケス班長とわたしはお払い箱だよ」
「そんな言い方しなくても」
ニコが少し困ったような表情でそう言うと、アグネスは両肩を竦める。
「今は、王都の市中を見回るのが主な仕事かな。第一騎士団の手が回らないみたいでね」
「なんだか凄い賑わいなんでしょ? 時々、此処まで完成が聞こえる事があるもん」
「うん。王国以外の国からもたくさん人が来ているからね。ニコも非番の時に覗いてくるといいよ」
「生憎とあたし達は今日から離宮に泊まり込みだ……それでこうやって荷物を取りに来ているんだ」
フロムは荷物をまとめ、布製のバッグに放り込む。
「アグネスも大変だろうけど、頑張れよ」
フロムはそう言ってアグネスの肩を軽く叩いて、部屋を出て行ってしまう。
部屋の中にアグネスとニコが残される。
「……ねえ、アグネス」
「ん、なんだい?」
ニコは、覚悟を決めた様にアグネスに尋ねる。
「アグネス、あたしが門限破りした日の夜……塀を乗り越えてたでしょ?」
アグネスの動きが一瞬止まる。
「何の事かな。あの日は遅く放ったけど、門限前には戻っていたよ」
「あたしね……目には自信があるんだ」
その言葉に、アグネスがゆっくりと振り返る。
アグネスとニコの視線がぶつかる。
「……もし、それがわたしだとして……何か問題でもあるの?」
「それは……無いけど……でも、気になるじゃない。何でアグネスみたいな優等生が門限破りするのか」
「……優等生……ね」
アグネスは表情を曇らせながら苦笑する。
「で、どうする気だい? 班長達に言いつけるつもりかい」
「そんな事しないよ。あたしはただ……アグネスが何であんなことをしたのか知りたかっただけで……」
「知ってどうするのさ……」
アグネスから、低く冷たい答えが返ってきた。
「何もできないなら、興味を持たないで欲しいね……」
「……アグネス」
アグネスはニコに背中を向けると、そのまま黙って部屋を出ようとする。
「アグネスッ、何かあるんなら、相談してよ。話を聞くくらいなら、あたし達でも出来るでしょ」
ニコはアグネスの背中に語り掛ける。
アグネスは一度だけ足を止めたが、再びそのまま歩き出して、今度こそ部屋を出て行ってしまった。
「……アグネス……」
ニコは閉ざされた扉を見つめたまま、その場を動くことができなかった。




