第17話 静かに動き出す日
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フラウセリアと、帝国公爵家の嫡男レオンハルト・ヴァルゼリアが初めて顔を合わせた日の夜。
フラウセリアが王宮から離宮へと戻ってきたのだが、なんだか少し様子がおかしい。
心ここにあらずといった感じで、何を聞いても上の空だった。
夜のフラウセリアの警護はフロムだったので、フロムは最初、フラウセリアが熱でも出したのかと思っていた。
ある意味それは正しいのだが。
「エステル。王女殿下……どうしちゃったんだ?」
するとエステルが苦笑しながらフロムに答える。
「公爵令息が想像以上に優しくて素敵な方だったので、少しあてられたというか……免疫が無いので」
「ああん。理解した……霊薬でも医者でも治せないやつだっけ?」
「フロムさん……」
フロムのあまりの言い方にエステルが眉を顰める。
「最初に言ったのはエステルだろ?」
「……まあでも、今夜の当直があたしで良かったよ。ニコだったら、心配するか、一晩中話しまくるかのどっちかだったからな」
「そうですね……」
「で、どんな奴だったんだ?」
「随分と知的な方でしたよ。宰相様と今後の両国の在り方について熱く語り合ったとか……」
「いや、そっちじゃなくて、見てくれとかだよ」
「ああ。黒髪が印象的な方でしたよ。目はアメジストで、端正な顔立ちでした……」
そう言いながら、エステルも頬を赤らめていた。
「(相当な誑しだな……大丈夫か?)」
フロムは育ちの所為か、完璧な人間ほど、その裏側を疑ってしまう。
「(まあ、どんな奴が相手でも、姫様が幸せになればそれでいいんだが……)」
フロムも年齢的に近いフラウセリアの事を気にかけていた。
ただ、ニコ程盲目的でないため、ある意味冷静に状況を見ている。
「(まあ、明日になればもう少し状況が分かるだろ)」
フロムはそう思うと、扉の横で休めの姿勢を保ちながら、二人の少女たちを優しく見守るのだった。
◆
次の日の朝。
離宮の騎士詰め所。
フロムとニコが状況の申し送りをしていた。
「異常なし……以上だ」
「了解」
お互いに騎士の礼をとり、申し送りが終わる。
「……此処からは私見だが……王女殿下……完全に浮かれてるぞ?」
「えっ?」
ニコがフロムの顔を二度見する。
「まあ、一晩寝たら落ち着くと思うが……今日もボーっとしてたら、話を聞いてやれよ……それはニコにしかできないからな」
「フロムゥ」
「じゃあな。外回りの徹夜よりはましだが、眠いんだ……」
フロムはそう言って詰所から出て行ってしまった。
一人残されたニコは思案する。
「(姫様も女の子だったんだね……良い人そうで良かったけど……)」
そう思いながらも、
「(こんなにも早くフラウセリアの心を射止めてしまうなんて……)」
とも考えていた。
すると、そこにジェシカ班長が姿を現す。
「ニコ。丁度良かった。今日の予定が変わった」
「はい」
「帝国公爵令息が、王女殿下を表敬訪問しに此処へ来る」
「ふぇ?」
「何だその返事は……まあいい。あいさつの後、庭園を散策する予定になった。お前は王女殿下について共に行動しろ」
「は、はいっ」
「いいか……お前は何もしゃべるな……何かあったらエステルに返事をしてもらえ。いいな」
「はい」
「よし。行け」
ニコはジェシカに騎士の礼をしてから詰め所を出る。
「(なんだか、慌ただしい一日になりそうだな……)」
ニコは自分の頬を平手でたたく。
「(よし、行くぞ)」
ニコはフラウセリアの私室に向かうのだった。
◆
王都のスラム。
その地下にある地下通路。
調整池の向こう側に隠された小さな部屋に頭目の姿があった。
頭目の向かい側には、スラムの住民の代表者が数人立っている。
「準備の方はどうだ?」
「はい。順調です。事前に経路確認も済んでいます」
「それは良い。不足しているものは無いか?」
「そうですね……強いてあげれば松明用の材木が足りません……意外に地下の奥に移動になったので」
「確かにな……後で配下の者に持ってこさせる」
「……帝国の公爵家が到着した以上、もう後戻りはできませんね」
「ああ。王都はお祭り騒ぎだぞ?」
「ふっ、我々には関係ありませんね……祭りはこれが成功した後に派手にやりますよ」
「……そうだな」
頭目は小さく手を上げて、小部屋から出る。
調整池に流れ込む水の音が激しく聞こえてくる。
「帝国か……この騒ぎの後、帝国はどう動くのか……こればかりは読めんな……」
頭目の独り言は水音にかき消されるのだった。




