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第7話 地下を知る者


 王都のスラム街。


 その奥の朽ちた教会。


 いつもならスラムの住人たちが、胡乱な目をしてたむろしているが、今日は様子が異なった。


 教会の周りを、第一騎士団の騎士達が厳重に警戒をしていて、スラムの住人が近づけないようにしていた。


 第一騎士団、第一分隊の分隊長スティーブ・レイクランドは真剣な面持ちで、教会の壊れた祭壇の下を覗き込んでいた。


「こんな所に地下道への入り口があったとは……」


「まあ、巧妙に隠されていたのですから、今まで見つからなくても仕方ないかと」


 ヴァルキュリア騎士団の小隊長、コリーナがスティーブに答える。


「ウチとしても、たまたま探索中にこの場所を見つけたようですし……」


 そう言ってコリーナはヴァスケスを一睨みする。


 睨まれたヴァスケスはわざとらしく視線を外す。


「一応、活きの良い奴らを集めておきました」


 スティーブはそう言って、教会内にいる若い騎士団を指さす。


「若い連中ばかりですが、腕は確かな奴ばかりです」


「ありがとうございます。ウチからはヴァスケスと、アグネスを同行させます。特にヴァスケスはこの先がどうなっているか知っているので、道案内に使ってやってください」


「それはありがたい。よろしく頼むぞ、ヴァスケス嬢、アグネス嬢」


 ヴァスケスはスティーブの挨拶を聞き流して、同行する騎士達を指さした。


「金属鎧は置いていくように言ってくれないか?」


 するとその声が聞こえたようで、同行する騎士達から不満の声が上がる。


「何を言う。金属鎧は我々の誇りだ」


「そうだ……貴様こそ、騎士としての誇りを感じさせん服を着ているな」


「ふん。所詮、ヴァルキュリア。騎士というものを理解しておらぬようだ」


 一部の騎士達が口々に文句やら悪口を言い始める。


 するとヴァスケスは呆れたように腕を広げる。


「そうかよ……じゃあ、途中で下水に落ちて溺れても知らねえからな」


 その言葉を聞いた騎士達の表情が変わる。


「……どういう事だ? ヴァスケス嬢」


 スティーブが代表してヴァスケスに尋ねる。


 ヴァスケスはそっぽを向いていたが、コリーナがヴァスケスを睨みつける。


「ヴァスケス。教えてやれ」


 低く、底冷えのする声だった。


 作戦前に要らぬ諍いを起こすなと言いたげだった。


 ヴァスケスはスティーブの目を見つめながら口を開く。


「今回の目的地には巨大な『調整池』がある……上から覗いても下が見えない位の大きさの穴だ」


「その池に流れ込む水量は多い。地下道の床は濡れていてとても滑りやすい」


 ヴァスケスはそう言って自分のブーツで床を蹴飛ばす。


「そんな金属鎧を着た状態で水に落ちたら……わかるだろう?」


 ヴァスケスが言い終えると、スティーブの顔色が変わった。


「確かに……すまんな。そこまでの情報を得ていなかったのだ」


 そう言ってスティーブは同行する騎士達の元へと向かう。


 探索しやすい格好に着替えさせるようだ。


 その姿を見て、ヴァスケスがうそぶく。


「最初から頭を下げて聞きにこいってーの」


「ヴァスケスッ」


 コリーナがヴァスケスに近づいて来て脇腹を軽く殴りつける。


 ボグッ


「痛ぇ」


「余計な諍いは起こすなと言ったはずだ……お前、俸給を削られたいようだな」


「酷ぇ……これ以上削られたら、干上がっちまうよ」


「だったら、大人しく言う通りに働け……いいな」


「……うぃっす」


「返事は『はい』、だ。馬鹿ものっ」


「……はい」


 そしてコリーナがアグネスを見る。


 アグネスもヴァスケスの服装に近い格好をしている。


「アグネス。良い支度だな……ヴァスケスに聞いたのか?」


「いえ……ニコに教えてもらったので」


 するとヴァスケスの表情が少しだけ険しくなる。


「ニコに聞いた?」


「はい。ヴァスケス班長とスラム調査をしている、という話の中で……」


「……ふーん」


 そうこうしていると、スティーブが戻ってきた。


「すまない。今大急ぎで革鎧を用意している。もちろん足元も滑りにくいブーツを用意するように言った」


 コリーナはスティーブの言葉に頷く。


「では、用意ができ次第、探索を開始しましょう」


 コリーナがそう言うと、その場のものが全員大きく頷いた。


 ◆


 王都のスラム街。


 第一騎士団が出張り、周囲の警戒を行っていた頃。


 スラムの住人達は地下道の一角に集まっていた。


 此処は本来下水道の支流の一つであったが、地下道が崩落してそのまま放置された場所だった。


 その為、地下道とは接続されておらず、特定の出入り口からしか中に入る事が出来ない、格好の隠れ家になっていた。


 今は、地下道に出入りできる出入り口が複数設けられて、さながら地下要塞のようになっていた。


 今、この場所に聖人と呼ばれる人物が人々の中央に立って演説を始めた。


「聞け、虐げられし人々よ。このような苦難ももうすぐ終わる……我々は、本来の権利を奪い返さなければならない……迫害からの脱却、王家の圧政からの解放、そして人としての自由の権利を、取り戻すのだっ!!」


「「「「おおおおおおっ!!」」」」


 地下道に大勢の人々の声が響く。


「お前たちは見ただろう……スラムの住人は無力だというのに……王家は金属鎧で武装した騎士団を送り込んできた……これが何を意味するのかっ!!」


「……俺達を……どうにかするつもりなのか?」


「此処意外に行く場所なんかないのに……」


「それとも虐殺でも行うのか……見栄えが悪いというだけで……」


 人々の間を、推測や悪意を持った誘導が染みわたっていく。


 それを煽るように聖人が叫ぶ。


「そうだ……王家は、スラムの住人などいない方が良いのだ……自分たちの悪法が我々のような人々を作り出したというのにっ!!」


「「「「おおおおおおっ!!」」」」


「王家は二か月もないうちに、王女の婚約披露と贅を尽くした舞踏会を開くという! 黄金の食器、山のような料理、豪奢な衣装……その費用はどこから出る? 我々から搾り取った税だ!我々からの搾取の上でだっ!!」


「許せないっ!!」


「王家を打倒しろっ!!」


「我々の解放をっ!!」


 人々の叫びが過激なものになっていく。


 そんな人々の中央で、聖人と呼ばれた男は恍惚とした表情を浮かべる。


「(尊き御方よ……その時は迫っておりますっ!!)」


 地下道に燻ぶり始めた炎が火を噴くのはもう少しの事だった。



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