第5話 副団長への報告
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ヴァルキュリア騎士団の練兵場。
その片隅に事務棟があり、書類仕事をする者達の仕事部屋や、上級位階を持つ者たちの個人部屋がある。
ニコは今此処にいて、コリーナ小隊長を探していた。
「コリーナ小隊長は、今日は第一騎士団との共同任務で帰りが遅いはずだよ」
事務職になったサマンサが教えてくれた。
「そうなんだ……でも、どうしようかな……報告があるんだけど」
「コリーナ小隊長の上となると、ヒルデガルド副団長か、アレクシア団長になっちゃうね」
「えー、それはやだ」
「何が『それはやだ』なんだ……詳しく聞きたいな」
とてもよく響くアルトの声が背後から聞こえた。
ギギギギッ
まるで機械仕掛けの人形のようにニコが首を回す。
其処には満面の笑みを浮かべたヒルデガルド副団長の姿があった。
「……副団長……」
「ニコ。コリーナの代わりに詳しく聞いてやろう……わたしもお前に話したい事があるんだ」
「ひいっ」
「おいおい、返事は『はい』だろう……『ひいっ』は返事じゃないぞ?」
「ひゃい……」
ニコはヒルデガルド襟首を掴まれると、そのままヒルデガルドの個人部屋まで連れていかれるのだった。
「(ニコ、頑張れ)」
サマンサが心の中で祈ってくれた。
◆
ヒルデガルドの部屋に入る。
ヒルデガルドはそのまま事務机の向こう側の椅子に座り、背もたれに体を預ける。
「報告を聞こうか?」
ニコは諦めて、休めの姿勢を取って口を開く。
「本日、離宮の巡回任務中に不審者の痕跡を見つけました」
それを聞いたヒルデガルドの背筋が伸びる。
「詳しく報告しろ」
「はい。今日、離宮の共同墓地の教会内を確認していた時に……」
ニコは今日の出来事をヒルデガルド副団長に報告した。
ヒルデガルドは最後まで口を出さずにニコの報告を聞いていた。
そしてニコが報告を終えると、ヒルデガルドが口に拳を押し当てて考え込む。
ニコは休めの姿勢のまま、動く事が出来ない。
数十秒にも感じられる沈黙のあと、ヒルデガルドがやっと口を開いた。
「この事を知っているものは誰だ?」
「はい。シェリル、エルザ、フロムと私の四人であります」
「ニコ。この事は口外しないように。シェリル、エルザにも直接伝えるので、明朝の申し送りの時に、二人にわたしの所に来るように伝えろ」
「はい」
そこまで言ってから、ニコはダニエルの事を思い出した。
「ヒルデガルド副団長。もう一人、教会の事は知らないですが、近道の事を知っているものがいます」
「……誰だ」
「近衛騎士団のダニエル騎士であります」
「近衛騎士団か……また面倒な事を……」
ニコは『あたしのせいじゃない』と喉元まで出かかったが、必死に飲み込んだ。
「そちらに関してはアレクシア団長経由だな……報告は聞いた。行って良し」
「はい。失礼しました」
ニコは騎士の礼をしてから、ヒルデガルドの部屋から出た。
そして扉の向こうで大きなため息を吐く。
「あー緊張した……副団長、怖いからなあ……ちょっと苦手」
そんな事を呟いていると、不意に誰かがクスクスと笑う声が聞こえた。
振り返ると、サマンサが手で口を抑えながら笑っていた。
「サマンサ……何笑っているのさ」
「ニコは相変わらず、考えている事が駄々洩れだよ」
「えっ、口に出てた?」
「うん。はっきりと聞き取れる位」
「あちゃー」
ニコは思わず項垂れる。
「そう落ち込まないの。それがニコなんだから」
「……全然嬉しくない」
「それより久しぶりだから、夕食一緒に摂らない?」
「え、いいよ。大歓迎だよ」
「よかった。久しぶりに同期と食事ができるなんて、あたしも嬉しいわ」
サマンサはそう言うと、入り口の脇のソファーを指さす。
「すぐに片づけてくるから、あそこで待ってて」
「うん」
「じゃあね」
そう言ってサマンサは事務室に消えていく。
ニコはサマンサに言われた通りソファーで座って待つことにした。
「よいしょっと」
ニコはソファーに座って事務棟の中を見つめる。
何となく人の動きが慌ただしい気がする。
そして事務室の奥では、普段より慌ただしく書類が運ばれていた。
◆
次の日の朝。
離宮の詰め所。
夜間警護から戻ってきたシェリルとエルザと申し送りを行う。
「……という訳で、お二人にはこの後、ヒルデガルド副団長の元に出頭してください」
ニコがそう言うと、二人の顔が嫌そう表情に変わる。
「以上です」
「……やっぱりお前は、厄介の種だな」
「うんうん」
「ひどっ」
「徹夜明けに副団長の顔は見たくないぞ」
「あたしも」
「気持ちは分かります」
ニコがそう言うと、何故か二人に睨まれた。
「まあ、いい。では、後は頼むぞ」
「「はい」」
ニコとフロムが騎士の礼を取ると、シェリルたちも答礼して詰め所を出て行った。
「しかし、お前は本当に色々やらかすよな?」
「あたしがやったんじゃないよっ!!」
「同じ事だろ……お前が変な事を見つけるから、みんな引っ掻き回される」
「あうっ」
「まあ、見て見ぬふりするよりよっぽどマシだけどな」
フロムはそう言ってニコの肩を叩いた。
「……褒めてんだぞ?」
そう言い残して、照れ臭そうに詰所を出ていった。
「……うん。考えても仕方ない……がんばろーっと」
そしてニコも詰所を後にするのだった。




