第4話 交錯する報告
その日の夕方。
離宮のヴァルキュリア騎士団詰め所。
詰所の中にはシェリルが椅子に座って、ニコの帰りを待っていた。
「……ったく、早く戻って来いよな……」
シェリルはブツブツ言いながら机の上を指ではじく。
「まあまあ、そんなにイライラしてもニコが早く戻ってくる訳じゃないんだから」
シェリルとバディを組むエルザがシェリルをたしなめる。
「しかしな……」
シェリルがそう言いかけた時、詰め所にニコとフロムが駆け込んできた。
「「すいません、遅くなりましたぁー」」
そういうニコの姿は、何故か土塗れになっている。
「何だ、ニコ、その恰好は……」
「えへへへ……詳しくは申し送りの後に……」
「まあ、構わんが……」
シェリルとエルザ、その向かい側にニコとフロムが立って向き合う。
「フロム、申し送りをします。異常なし。以上」
「ニコ、申し送りをします。共同墓地の教会に、不審者の侵入の痕跡を見つけました」
それを聞いたシェリルとエルザの表情が厳しいものとなる。
「また、不審者は教会の裏手より庭園に向かい、その後王城の北門に向かった模様です」
「その報告の裏付けは取れているのか?」
「はい。教会内には足跡が残されており、ヴァルキュリア騎士団以外のものと確認しました。また、教会の裏手から王城まで続くルートを発見しました」
「「……」」
シェリルとエルザは顔を見合わせる。
そしてシェリルがニコに向かって指示を出す。
「了解した。我々の巡回時にも、注意を払っておく。ニコはこの事を上官へ報告せよ」
「はい」
ニコとフロムが騎士の礼をとり、シェリルとエルザがそれに答礼する。
そして申し送りが終わる。
「しかし……本当にニコは厄介ごとを持ち込むよな……」
「ひどっ、あたしのせいじゃないですよっ!! 勝手に教会に侵入した奴に行ってください」
「ははは、そうだな。悪かった」
シェリルは腰の細剣を抜いて、刃の具合を確認する。
「しかし共同墓地か……あそこは目が届きにくいからな……」
「そう言えば、ニコは何でそんなに泥だらけなんだい?」
エルザも装備を点検しながらニコに尋ねる。
「それが……その変な道を見つけて戻ってくるときに、生け垣が壊れているところ通ったんですけど……」
「生け垣が壊れている……」
「そこを庭師のおじいさんに見つかっちゃって……」
「……ああ、グランツ爺さんか……」
シェリルとエルザの表情が同情に変わる。
「あたしが壊したんじゃないって言っても信じてもらえなくて……昨日は壊れてなかったって……それで今まで庭仕事の手伝いを……」
「でもまあ、良く解放してもらえたな?」
「その……丁度そこに近衛騎士団のダニエルが生け垣から入ってきて……おじいさんが激怒しちゃって」
「「ああ……」」
シェリルとエルザが大きく頷く。
「そこであたしだけ解放されて戻る事が出来ました」
シェリルとエルザ、そしてフロムが生温かい目でニコを見つめる。
「……小隊長に報告したら、水を浴びてこい……髪の毛までドロドロだぞ?」
「え、本当ですか……はうっ……」
フロムが人差し指で泥だらけの背中をつつく。
「早く行こうぜ……水浴び位は付き合ってやる」
フロムがそう言ってニヤッと笑う。
「昨日のリベンジする気だな……負けないぞ」
そんな二人にシェリルが声を掛ける。
「お前らが仲が良いのは分かったから、早く報告に行けっ」
「「は、はい」」
二人の声が重なる。
そしてニコとフロムは連れ立って、詰め所を後にするのだった。
◆
アルデリオン王国の王城。
近衛騎士団の詰め所。
深夜に近い時間帯にも拘らず、詰め所の中は人が活発に行き来していた。
其処にドロドロのボロボロになったダニエルが入ってきた。
「お、おい、なんだ、なんだっ?」
そんなダニエルに気付いた同僚が思わず声を掛ける。
ダニエルはフラフラと部屋の隅にあるソファーに座ろうとする。
「こらっ、ダニエルッ!! そんな汚ねえ格好で座るんじゃないっ!!」
いきなり怒鳴られたダニエルが、恨みがましい目で怒鳴った奴を見つめる。
「そんな顔をしても駄目だ。水を浴びてこいっ!! とにかくその泥だらけの格好を何とかしろっ!!」
そう言われて、ダニエルがフラフラと詰所の出入り口に向かう。
その様子を見て、同僚たちが小声で囁く。
「(どうしたんだ、ダニエルの奴)」
「(何であんなにドロドロなんだ? 何か特別訓練とかあったか?)」
「(まあ、ダニエルだからな……)」
ダニエルはそんな事を陰で言われている事にも気づかず、水浴び場へと向かうのだった。
◆
何度か井戸水を浴びているうちに、やっと意識がはっきりしてきたダニエル。
髪から水が滴り落ちるのも構わずに、じっと先程までの出来事を思い出す。
「……誰だ……あんなに生け垣を壊した奴は……おかげで酷い目にあった」
庭師のグランツ爺さんに見つかって、生け垣を壊した犯人にされてしまい、さっきまで肥料を醗酵させる穴を掘らされていたのだ。
「……あと、何であそこにあいつがいたんだ……」
ダニエルの脳裏にヴァルキュリア騎士団の問題児の顔が浮かぶ。
「アイツもグランツ爺さんに捕まってたな……」
そう言ってダニエルは苦笑する。
しかし、すぐに表情を厳しくする。
「俺たち以外にあの近道を使っている奴がいるってことか……迷惑な話だ」
そう言ってダニエルは頭を振る。
髪から水滴が飛び散る。
「ウチの隊長に言っても無駄だろうな……」
ダニエルは自分の上官を思う浮かべる。
「どうせ『庭師に怒られたくらいで騒ぐな』で終わる。」
「第一騎士団なら動いてくれるか……いや、あそこは情報を抱え込むかもしれん。」
「ヴァルキュリアに相談した方が早いか……」
そう言ってからがっくりと頭を下げる。
「ウチは嫌われているからな……縦割りは辛いぜ……」
そんなダニエルの呟きは、誰にも聞こえなかった。




