第3話 共同墓地の抜け道
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離宮の庭園の端にある共同墓地。
王城にも共同墓地は存在するが、その意味合いが少し異なる。
離宮の共同墓地に埋葬されるのは基本的に女性のみだ。
離宮や王城で不慮の事故や病等で、その生涯を終えたものは家族の元に帰る。
しかし、家族が無いものや、家族が引き取りを拒否する場合等もあり、そのような場合、離宮の共同墓地に埋葬されることになる。
共同墓地には小さな教会があるが、葬儀などの儀式のとき以外はその教会も無人になっている。
ニコは庭園から伸びる石畳を辿りながら共同墓地へ向かう。
「夜に此処を巡回した時よりはマシだけど……やっぱり雰囲気が怖いよ……」
石畳の小道を覆うように両側から木の枝が伸びていて、昼間はそこからの木漏れ日が独特の雰囲気を醸し出している。
「うー、でもな……さっき、何かいたような気がするし……」
ニコは腰の細剣に手を伸ばす。
コツッ、コツッ……
昼間だというのに、静寂に包まれた空間に、自分の足音だけが響く。
そしてニコは共同墓地に辿り着く。
其処は森の中がぽっかりと口を開けた様になっていて、今は頭上に青空が広がっている。
「……しかし、本当に誰ともすれ違わなかったな……」
ニコは巡回の手順通り、最初に教会を確認する。
この時間は教会の内部には照明用の蝋燭も焚かれておらず、窓から差し込む陽光が明かりとなっている。
ニコは教会の中を確認しながら、祭壇の前に近づく。
そしてその場に跪いて、神様にお祈りをする。
「(……こんな時だけ神頼みってとても罰当たりなのは分かっています……でも、今日も皆が何事もなく過ごせますように)」
そう祈ってから、ニコは立ち上がる。
ニコは祭壇に背を向けて、出入り口に向かおうとした時だった。
床にある足跡に気付く。
「(あれっ、この足跡……比較的新しいし、ブーツじゃない……)」
ニコは改めて自分の足元を見る。
ヴァルキュリア騎士団で支給されるブーツだ。
足の裏に滑り止めの為の切り欠きが入っているのが特徴で、足跡を見ればヴァルキュリアのモノかどうかの判別がつく。
問題の足跡には、その切り欠きが無かった。
「(シェリル先輩も同じブーツだから、この足跡は誰のだろう?)」
「(最近、申し送りで最近葬儀があったとは聞いていない……それに葬儀だったらもっとたくさんの足跡があるはずだし……)」
ニコは腕を組んで考える。
しかし、いくら考えても結論は出ない。
「申し送りの時に報告しておけばいいか……」
ニコは考えるのを一旦置いておいて、例の場所に向かう事にした。
◆
「確か、この辺だったような……」
ニコは教会の裏手に向かう。
そして離宮の屋上を見る。
「あそこから見えたんだから……もう少し奥かな」
ニコは位置を確認しながら、目標の場所に向かう。
そしてある場所で止まる。
もう一度離宮の屋上を見上げる。
「此処だったはず……」
ニコは注意深く周囲を観察する。
すると灌木の向こうに雑草が踏まれた痕跡を見つけた。
「……やっぱり誰かいた……」
ニコはその場所に移動すると、足元をよく観察する。
地面が土ではないので足跡は見つけられなかったが、明らかに人為的に雑草が踏み分けられていた。
「ひょっとして、これがダニエルが言っていた、共同墓地から庭園を抜けて北門に行ける道……なのかな」
ニコはひそかに確信する。
「やっぱり確かめよう」
ニコは息を整えると、踏み分けられた雑草の痕跡を追い始めるのだった。
◆
ニコは雑草が踏み分けられた痕跡を追って、灌木と灌木の間を進んで行く。
しばらく痕跡を追い掛けながら歩いていくと、不意に視界が開けた。
「うわぁ……」
其処は一面の花畑……離宮の庭園だった。
「こんな所に繋がってたんだ……」
此処は庭園の一番端に位置していて、わざわざ此処に来る人間など庭師しかいない。
そんな場所でも庭師たちが手を抜かずに花の世話をしている。
だから花畑の向こう側が共同墓地に繋がっているなんて、考えもしなかった。
「確かに此処からなら、王城の北門に行けるかも……」
ニコは考える。
此処までの状況をコリーナに報告するかどうかを。
「報告するなら、王城の北門までのルートを見つけてからかな」
ニコは再び、足元を観察し始める。
「此処からは庭園の小道を使うんだろうな……花畑を荒らしたら庭師にばれちゃうもんね」
ニコは庭園の小道を歩きながら王城を目指す。
この場所は離宮から離れているせいか、まったく人とすれ違わない。
そしてニコはとうとう、生け垣が破れている場所を見つける。
「……怪しい。でも庭師が毎日手入れしているなら、もっと前に気付いていてもおかしくないよね」
ニコはそう言ってから、生け垣が破れている場所に向かう。
そしてそのまま生垣の向こう側へ飛び出してみた。
「おおっ!!此処はっ」
其処は先日、ノワールと共にやってきた『騎乗コース』の道だった。
前方には王城の北門も見える。
「……近道、見つけちゃった……」
ニコはそう呟きながら周囲を見回す。
すると前方に意外な人物を見つけた。
「アグネスッ!!」
ニコは思わず大きな声を掛けてしまう。
アグネスは驚いたようにゆっくり振り向く。
「……ニコ……何でこんな所に?」
ニコはアグネスに駆け寄る。
「奇遇だね。何でこんな場所に居るの、アグネス?」
「それはこっちの台詞だよ。ニコは離宮の警護任務じゃなかったのかい?」
「そうなんだけど……ダニエルが言ってた近道とやらを見つけちゃったみたいでさ」
ニコは頭を掻きながら苦笑する。
「……まったく。わたしは第一騎士団との共同任務中なんだよ。今はたまたま王城に向かう途中さ」
「へえ、大変だ。アグネスも頑張ってるんだね」
「急にどうしたんだい……それより、ニコは早く巡回コースに戻らないと拙いんじゃないかい?」
「あ、確かに」
ニコは慌てて周囲を確認する。
「じゃあ、あたし戻るね」
「ああ、気を付けて」
ニコはそう言うと、再び生け垣が敗れた場所に飛び込んでいった。
そしてその後姿を、アグネスがじっと見つめていた。




