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第3話 共同墓地の抜け道

 ■


 離宮の庭園の端にある共同墓地。


 王城にも共同墓地は存在するが、その意味合いが少し異なる。


 離宮の共同墓地に埋葬されるのは基本的に女性のみだ。


 離宮や王城で不慮の事故や病等で、その生涯を終えたものは家族の元に帰る。


 しかし、家族が無いものや、家族が引き取りを拒否する場合等もあり、そのような場合、離宮の共同墓地に埋葬されることになる。


 共同墓地には小さな教会があるが、葬儀などの儀式のとき以外はその教会も無人になっている。


 ニコは庭園から伸びる石畳を辿りながら共同墓地へ向かう。


「夜に此処を巡回した時よりはマシだけど……やっぱり雰囲気が怖いよ……」


 石畳の小道を覆うように両側から木の枝が伸びていて、昼間はそこからの木漏れ日が独特の雰囲気を醸し出している。


「うー、でもな……さっき、何かいたような気がするし……」


 ニコは腰の細剣に手を伸ばす。


 コツッ、コツッ……


 昼間だというのに、静寂に包まれた空間に、自分の足音だけが響く。


 そしてニコは共同墓地に辿り着く。


 其処は森の中がぽっかりと口を開けた様になっていて、今は頭上に青空が広がっている。


「……しかし、本当に誰ともすれ違わなかったな……」


 ニコは巡回の手順通り、最初に教会を確認する。


 この時間は教会の内部には照明用の蝋燭も焚かれておらず、窓から差し込む陽光が明かりとなっている。


 ニコは教会の中を確認しながら、祭壇の前に近づく。


 そしてその場に跪いて、神様にお祈りをする。


「(……こんな時だけ神頼みってとても罰当たりなのは分かっています……でも、今日も皆が何事もなく過ごせますように)」


 そう祈ってから、ニコは立ち上がる。


 ニコは祭壇に背を向けて、出入り口に向かおうとした時だった。


 床にある足跡に気付く。


「(あれっ、この足跡……比較的新しいし、ブーツじゃない……)」


 ニコは改めて自分の足元を見る。


 ヴァルキュリア騎士団で支給されるブーツだ。


 足の裏に滑り止めの為の切り欠きが入っているのが特徴で、足跡を見ればヴァルキュリアのモノかどうかの判別がつく。


 問題の足跡には、その切り欠きが無かった。


「(シェリル先輩も同じブーツだから、この足跡は誰のだろう?)」


「(最近、申し送りで最近葬儀があったとは聞いていない……それに葬儀だったらもっとたくさんの足跡があるはずだし……)」


 ニコは腕を組んで考える。


 しかし、いくら考えても結論は出ない。


「申し送りの時に報告しておけばいいか……」


 ニコは考えるのを一旦置いておいて、例の場所に向かう事にした。


 ◆


「確か、この辺だったような……」


 ニコは教会の裏手に向かう。


 そして離宮の屋上を見る。


「あそこから見えたんだから……もう少し奥かな」


 ニコは位置を確認しながら、目標の場所に向かう。


 そしてある場所で止まる。


 もう一度離宮の屋上を見上げる。


「此処だったはず……」


 ニコは注意深く周囲を観察する。


 すると灌木の向こうに雑草が踏まれた痕跡を見つけた。


「……やっぱり誰かいた……」


 ニコはその場所に移動すると、足元をよく観察する。


 地面が土ではないので足跡は見つけられなかったが、明らかに人為的に雑草が踏み分けられていた。


「ひょっとして、これがダニエルが言っていた、共同墓地から庭園を抜けて北門に行ける道……なのかな」


 ニコはひそかに確信する。


「やっぱり確かめよう」


 ニコは息を整えると、踏み分けられた雑草の痕跡を追い始めるのだった。


 ◆


 ニコは雑草が踏み分けられた痕跡を追って、灌木と灌木の間を進んで行く。


 しばらく痕跡を追い掛けながら歩いていくと、不意に視界が開けた。


「うわぁ……」


 其処は一面の花畑……離宮の庭園だった。


「こんな所に繋がってたんだ……」


 此処は庭園の一番端に位置していて、わざわざ此処に来る人間など庭師しかいない。


 そんな場所でも庭師たちが手を抜かずに花の世話をしている。


 だから花畑の向こう側が共同墓地に繋がっているなんて、考えもしなかった。


「確かに此処からなら、王城の北門に行けるかも……」


 ニコは考える。


 此処までの状況をコリーナに報告するかどうかを。


「報告するなら、王城の北門までのルートを見つけてからかな」


 ニコは再び、足元を観察し始める。


「此処からは庭園の小道を使うんだろうな……花畑を荒らしたら庭師にばれちゃうもんね」


 ニコは庭園の小道を歩きながら王城を目指す。


 この場所は離宮から離れているせいか、まったく人とすれ違わない。


 そしてニコはとうとう、生け垣が破れている場所を見つける。


「……怪しい。でも庭師が毎日手入れしているなら、もっと前に気付いていてもおかしくないよね」


 ニコはそう言ってから、生け垣が破れている場所に向かう。


 そしてそのまま生垣の向こう側へ飛び出してみた。


「おおっ!!此処はっ」


 其処は先日、ノワールと共にやってきた『騎乗コース』の道だった。


 前方には王城の北門も見える。


「……近道、見つけちゃった……」


 ニコはそう呟きながら周囲を見回す。


 すると前方に意外な人物を見つけた。


「アグネスッ!!」


 ニコは思わず大きな声を掛けてしまう。


 アグネスは驚いたようにゆっくり振り向く。


「……ニコ……何でこんな所に?」


 ニコはアグネスに駆け寄る。


「奇遇だね。何でこんな場所に居るの、アグネス?」


「それはこっちの台詞だよ。ニコは離宮の警護任務じゃなかったのかい?」


「そうなんだけど……ダニエルが言ってた近道とやらを見つけちゃったみたいでさ」


 ニコは頭を掻きながら苦笑する。


「……まったく。わたしは第一騎士団との共同任務中なんだよ。今はたまたま王城に向かう途中さ」


「へえ、大変だ。アグネスも頑張ってるんだね」


「急にどうしたんだい……それより、ニコは早く巡回コースに戻らないと拙いんじゃないかい?」


「あ、確かに」


 ニコは慌てて周囲を確認する。


「じゃあ、あたし戻るね」


「ああ、気を付けて」


 ニコはそう言うと、再び生け垣が敗れた場所に飛び込んでいった。


 そしてその後姿を、アグネスがじっと見つめていた。


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