第2話 静かなる決行の日
ヴァルキュリア騎士団、宿舎のニコたちの部屋。
「なんだか最近、元気ないな?」
ニコが目覚めると、フロムが声を掛けてきた。
「朝いちばん最初の会話がそれ?」
「お前から元気を取ったら何も残らねえだろ」
「あうっ」
ニコがベッドの上で凹むと、フロムが近づいてきた。
「ニコが頑張ってんのは知ってる。でもさ、あんまり無理すんな。あと、悩み事があったらあたし達を頼れ」
「フロム……」
フロムはバツが悪そうにそっぽを向く。
「早く着替えろ。飯に行くぞ」
「うん」
ニコはそう返事をして、ベッドから起き上がる。
「今日の朝ごはん、何かな?」
ニコがそ言うとフロムが苦笑する。
「そうでないとな、ニコらしくない」
「えー、あたし食いしん坊キャラ?」
「違うか? お前何が出ても残さねえじゃん」
「それは……そうだけど」
「たしか今日は卵料理だったはず。昨日の夜、おばさまがでかい卵を運び込んでたからな」
「なるほど。フロムはよく見てるね」
「色々と注意深くしておかないと生き残れないからな」
その瞬間、少しだけフロムの表情が険しくなった。
「おい、早く着替えろよ。先に行くぞ?」
「ま、待ってよ。あとちょっとだから」
ニコはワタワタと着替えを終えると、慌ててフロムの背中を追いかけるのだった。
◆
朝食を済ませ、ニコたちは離宮に向かう。
離宮にあるヴァルキュリア騎士団の詰め所に行くと、夜間警護明けの先輩騎士が待っていた。
「おっ、やっと来たな。待ちくたびれたよ」
先輩騎士のシェリルが椅子に座ったまま、声を掛けてきた。
「シェリル先輩、おはようございます。夜間警護、お疲れ様です」
「ああ、おはよう」
そう言ってからシェリルは椅子から立ち上がる。
そして騎士の礼の姿勢をとる。
「昨晩の夜間警護の申し送りをする。夜間警護中の問題は無し。以上」
「申し送り、承りました」
ニコとフロムも騎士の礼の姿勢で返事をする。
そして全員が同じタイミングで礼を解く。
「後は宜しく。ああ、やっと眠れる」
シェリルは表情を崩す。
「シェリル先輩、今日は卵料理です。オムレツです」
ニコがそう言うと、シェリルが微笑む。
「ニコの朝食情報か。助かるよ。徹夜明けでいに重いものはきついからね」
そう言ってシェリルが詰所から出て行った。
ニコとフロムは装備を身につけていく。
「ニコ、お前、今日は何処だ?」
「うーんとね、たしかベランダと屋上と、共同墓地」
「全部外じゃねえか」
「フロムは?」
「あたしは誰もいない舞踏室と誰もいない謁見室」
二人は顔を見合わせて笑う。
「じゃあ、また後で」
「おう、またな」
そしてニコとフロムも各々任務場所へ移動していった。
◆
ニコは離宮の二階に移動する。
階段を上ると、長い廊下がずっと続いている。
ニコは手前にある扉を開ける。
其処はベランダに通じる扉で、此処もベランダとは呼べない位に広い空間になっている。
ニコはベランダに出ると、周囲を見回す。
建屋や、周囲の庭園、人工的に作られた森など目視で確認していく。
「特に、以上は無いね」
ニコはベランダの端に移動して下を見る。
其処には広大な庭園が広がっていて、季節折々の植物が花を咲かせている。
「すごーい。この景色を見られるだけでも騎士の役得だよね」
ニコは暫く庭園を眺めていたが、急に首を振って頬を叩く。
「駄目だって。任務中だよ。しっかりしないと」
ニコは気合を入れ直すと、ベランダの巡回を再開するのだった。
◆
離宮の共同墓地。
その片隅で二人の人物が対峙していた。
一人はローブを纏っていて、男女の判別も難しい。
もう一人はスラムで聖人と呼ばれている人物だった。
ローブの人物が周りを見て聖人に言う。
「此処まで、人に見られなかったか?」
「はい。全く」
「例の場所から此処まで、秘密裏に移動が可能という事だな」
「その通りでございます」
ローブの人物が口を開く。
「もう聞いていると思うが、王女の婚約が発表された……二か月後に婚約披露舞踏会だそうだ……」
「聞いております……尊き御方」
「……その日を決行日とする……準備に勤しめ」
「御意」
聖人は恭しく頭を下げると、共同墓地の奥深くへと姿を消していく。
ローブの人物が独り言を呟く。
「アルデリオン王よ……積年の恨みを晴らす時が来たのだ……覚悟して待っているが良い」
ローブの人物の瞳が冷たく揺れていた。
◆
ニコは屋上までやってきた。
屋上にはアルデリオン王国の国旗が掲揚されている。
巨大な国旗が風を受けてたなびいている。
「うわー、此処からの眺めも最高だね……」
離宮から王城を望むと、その荘厳な王城の佇まいを最高の角度で見る事が出来る。
「多分、此処を作った人も、それを計算に入れていたんだろうな……」
ニコは屋上の手すり部分に頬杖をつく様な姿勢で王城を眺める。
「こうやって見ている分には、平和そうに見えるんだけどな……」
そしてニコは現実に引き戻される。
「あーあ、次は共同墓地か……ちょっと気が滅入るんだよね、あそこ」
ニコは姿勢を正すと、大きく深呼吸する。
「任務は任務。頑張るぞ」
そして何となく、次の目的地である共同墓地の方を見下ろす。
「……ん?」
共同墓地の外れ……そこで何かが動いたような気がした。
「あんな場所に……人でもいるのかな?」
ニコが目を凝らすが、遠くて良く見えない。
「……気のせいかもしれないけど……どうせ次の巡回先だし、あの場所も確認しておこう」
ニコはそう言って屋上からの次の巡回場所に向かうのだった。




