表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/60

第14話 雨宿りの騎士たち


 離宮の庭園。


 ニコは今ガゼボの中に居た。


 というか、此処しか居場所が無かったのだ。


「うー、雨が降ってきたよぉ……土砂降りだよ」


 激しい雨が音を立てて庭園の草木に雨粒を叩きつけている。


 流石にこんな日はお姫様も庭園には来ない。


「もういいや……座っちゃおう……」


 ニコはガゼボの中にある金属製の椅子に座り、背もたれに体を預ける。


「此処はまだ屋根があるから良いけど……第一騎士団の人達はどうしているのかな…‥」


 ニコはふと、以前第一騎士団と協力して、盗賊討伐に向かった時の事を思い出していた。


「今考えると、あれって盗賊っぽくなかったよね……盗賊っていうより軍隊みたいだった」


「何が盗賊っぽくなかったんだ?」


 不意に背後から声がして、慌てて振り向く。


 其処には本来、此処に居てはいけない奴がいた。


「陰険優等生だ……」


「誰が『陰険優等生』だっ!!」


 其処に居たのは、近衛騎士団のダニエルだった。


 ダニエルは雨でビショビショに濡れていて、雨宿りに此処に来たのだろう。


「近衛騎士団が此処に居たら不味いんじゃないですか?」


 ニコはダニエルを睨みつける。


「そう言うなよ……この庭園を突っ切るのが近道なんだよ……今日はちょっと雨がひどすぎてさ……」


 そう言いながらもバツの悪そうな顔をする。


 流石に離宮の庭園を通り抜ける事の意味を理解しているようだ。


「近道……王宮ですか?」


「いや、王城の方。あんまり使われてない北門と繋がっているんだよ」


「へえ…‥でも、どこから来たんですか?」


「……共同墓地……」


「それこそ近衛騎士団というか男性が行ったらまずいじゃないですかっ!!」


「ちょっと訳ありでな……王城の方で亡くなった女性を弔うので打ち合わせに来てた」


「……ああ、あそこって王城からだとぐるっと回らないと行けませんもんね」


「そうなんだよ……で、つい近道をしてたらこれだよ」


 ダニエルは濡れネズミになった姿を見せるように両手を広げる。


「仕方ありませんね。雨が止むまでですよ」


「分かってるって」


 ダニエルはそう言うと勝手にニコの向かい側に座る。


 そしてさっさと上着を脱ぎだした。


「な、何してるんですかっ!?」


「何って、濡れてるから脱いでるだけだ」


「駄目ですよ、仮にも乙女の前で、何してるんですか」


「乙女って誰よ、お前しかいないじゃん」


「くっ……」


 ニコは黙ってこぶしを握り締める。


「(ぶん殴ってやりたい……)」


 ダニエルはニコの気持ちなど気にせずに、ハンカチで頭を拭いていた。


「近衛騎士団は気楽でいいわね……」


 ニコは思わず文句を言ってしまう。


「何だよ……気楽とは聞き捨てならんな」


 ダニエルは少しむっとした表情になる。


「だってそうじゃない。第一騎士団の人達はこんな酷い雨の日も外で巡回とか、警護とかしてるのよ?」


「それで?」


「あんた達なんて王城や王宮で適当に仕事してるんでしょ」


「……」


 ダニエルは黙ってニコの文句を聞いていた。


 確かに近衛騎士団は形骸化が進み、騎士団の内部が二極化しているのは事実だったからだ。


「……耳が痛い……言い返せないのが悔しいな」


「えっ?」


 ダニエルがそう言ってきたので、思わずニコの気勢が削がれる。


「確かにお前の言う通りの奴らもいるが、全部じゃない。そこまで腐っている訳じゃないよ……と思いたいだけかな」


 ダニエルが困ったように笑う。


 ニコはちょっとだけ胸が痛くなった。


「ごめん……八つ当たりした……」


 ニコはダニエルに頭を下げる。


「ちょっとね……色々考えるようになったら、頭の中がモヤモヤしちゃって……」


「……そうか……確かに前に会った時とずいぶん雰囲気が変わったもんな」


「えっ?」


「騎士ごっこしているお子様から、騎士見習いくらいには進化したかな」


「ひどっ」


「ふははははは」


「ふふふ」


 気づけば、二人は小さく笑い合っていた。


 少しだけ空が明るくなっていた。


 ◆


 それから暫く他愛のない話をしているうちに雨が上がった。


「雨が上がったみたいね」


「ああ、じゃあそろそろ行こうかな。人目に付くと拙いからな」


 ダニエルはそう言ってまだ濡れている上着を羽織る。


「そう言えば、王城でお前を見たって言う奴がいるんだけど、王城に来てるか?」


「うん。最近、調べ物があって、公文書室に行ってるよ」


「ああ、あそこか……しかし、公文書室のこと良く知ってたな」


「友達が教えてくれた。学園の卒業生なら閲覧できるって」


「そうだな。で、何について調べているんだ?」


 ニコはダニエルに話すかどうか迷う。


「笑ったり、人に言ったりしないでね」


「え、ああ。約束する」


「勇者の遺産と、下水道について」


 それを聞くとダニエルの顔が険しくなる。


「……何でそんな事を調べる? ヴァルキュリアの任務とは関係ないだろ」


「それはそうだけど……気になるんだもん」


「そうか……お前は良い奴っぽいから言うけど……目に見えるものがすべて正しい訳じゃない……でも、自分の目で確かめなければ正しいかどうかわからない」


「……何それ?」


「無茶するなってこと……じゃあな」


 そう言ってダニエルは今度こそガゼボから立ち去って行った。


「何格好つけて意味深なこと言ってんのよ……ばーか」


 ニコはダニエルの背中に向かって悪態を吐くのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ