第8話 封じられた技術
王城。
其処は王族の住まいであり、同時に政治の中心地である。
そして、貴族にとっての役所ともいえる存在だ。
ニコは自宅に寄り、学園の卒業証明書を手に入れ、そのまま王城に来ていた。
貴族用の入場門には衛士が二人立っていて、中に入ろうとする者たちの要件を聞いたり、身分の確認をしている。
ニコはその入場門の前にできている行列に並ぶ。
如何にも貴族という感じの者から、とても貴族に見えない者までが、大人しく行列に並んでいる。
此処で騒ぎを起こすことが、どれだけ重罪になるかよく知っているからだ。
最もニコは、行列に並ぶことに抵抗が無い。
「(人気のテーマパークに行けば、もっと並ぶもんね)」
そしてニコは周囲の人物観察をしながら、行列が進むのを待っていた。
「はい。次の方」
衛士の一人がニコに向かって声を掛ける。
「お嬢様、王城へはどのような御用ですか?」
衛士は丁寧に尋ねてくる。
「はい。こちらの図書室を使用させて頂こうと思っております。これが学園の卒業証明書です」
ニコは持参した卒業証明書を衛士に手渡す。
「分かりました。この証書はこちらで預かり、退城する際にお返しします。その代わりにこれをお持ちください」
衛士は凝った意匠のメダルをニコに手渡す。
「これを見せれば、図書室に入れますよ」
「ありがとうございます」
そしてニコはすんなりと王城の中に入る事が出来たのだった。
◆
王城の中は意外にも役所の中の様だった。
廊下の至る所に行き先や矢印が掲げられている。
ニコが廊下でそんな案内版を見ていると、親切そうなおじいさんが話しかけてきた。
「お嬢さん、お困りかな?」
「あ、すいません。図書室を探していて」
「図書室とな……王城には図書室と呼ばれる部屋は聞いたことがありませんな……」
「あれ、友達が王城には過去の書類や書物が保管されていて、一部が公開されていると聞いたのですが……」
ニコは首を傾げながらおじいさんに答える。
「うーん。それは公文書室の事かもしれませんな」
「公文書室?」
ニコはこの時代の書類や書物を思い浮かべる。
確かに『本』と呼べる形になっている物は少なく、大抵は羊皮紙にびっしりと書かれた文書を紐や金具で留めているものが多かった。
「分かりました。その公文書室へ行きたいんですが、どう行けばよいですか?」
「お嬢さん。わしもその公文書室に行く用事があるのでな、良かったらご一緒しよう」
「わあ、ありがとうございます」
ニコが頭を下げると、おじいさんは嬉しそうに笑うのだった。
◆
「お嬢さんは公文書室に何の御用なのかな?」
ニコは一瞬正直に話すかどうか迷ったが、おじいさんの優しさを信じて理由を話した。
「実は王都の『下水道』について調べたいんですよ」
「『下水道』……あの勇者が作ったと言われておる下水道の事かな」
「はい。それです」
おじいさんは興味深そうに頷いて見せた。
「実はこの王城の案内板や、矢印は勇者が提唱したものなのだよ」
「へえ、そうなんですか(道理で、お役所っぽい感じがしたわけだ)」
ニコは何となく納得してしまう。
「王城は昔はもっと殺風景だったそうじゃ。空き部屋ばかりで、いろいろな部署がバラバラに配置されていて、とても非効率だったんじゃ」
「へえ……」
「そこで勇者がその当時の王に進言して、政治機能をこの王城で一元管理できるようにしたと言われておる」
「その方が便利ですもんね」
「お嬢さん、良く分かっておるな」
おじいさんが嬉しそうに笑う。
「それでも、色々言う奴らがおってな、今の形に落ち着いたのは先々代の王の時代なのじゃよ」
おじいさんの話は聞いたことが無い話ばかりだったので、ニコにとっては好都合だった。
そうこうしているうちに、二人は公文書室に辿り着いた。
「此処じゃよ。ほれ、此処でメダルを見せるのじゃ」
おじいさんはそう言って、入り口に立っている衛士にメダルを見せる。
ニコもそれに習ってメダルを見せると、二人はすんなりと中に入る事が出来た。
「勇者が現れる以前は、このような公文書を管理する貴族がおってな……閲覧時に相当な金子を要求していたらしいのじゃ……嘆かわしい事じゃの」
「(既得権益……ってやつかしら……昔も今も変わらないのね)」
ニコはなるほどと頷いて見せる。
「さて、お嬢さんの読みたい文書はその先にある筈じゃ」
「いろいろお話を聞かせて戴いてありがとうございました」
「なんの、なんの。ではまたな」
おじいさんはさらに奥へと進んでいった。
ニコはその背中を見送ってから、下水道に関する文書を探し始めるのだった。
◆
それからしばし時間が経過して……そろそろ辺りがオレンジ色になりかけてきたころ。
ニコは一束の文書を見つけた。
そこには、勇者が如何にして下水道を造ったのかが書かれていた。
『最初に勇者が東西、南北を縦断する横穴を開けた……魔法かしら』
『その後、勇者は水平を測定できる魔道具を使い、穴の中でも正確に水平を維持し、その水平に従いレンガ職人が指示通りにレンガを積んでいった……』
「これって水準器の事よね……やっぱり勇者って現代の人よね」
『勇者はインクと紐だけで正確な直線を維持できる魔道具も開発した……ってこれ隅壺の事よね…‥』
これら以外にも、勇者は様々な道具を駆使して、下水道を完成させる。
『そして王家はこの功績に報いるため……勇者の没後……これらの魔道具を王家の門外不出の秘宝として……宝物庫に保管した……』
その一文を読んだニコの手が震える。
「王家って……馬鹿じゃないのっ!!」
ニコは慌てて口を押える。
幸い今のニコの言葉を聞いた者はいないようだった。
「(何でそんな便利な道具を門外不出にしちゃうのよ……)」
ニコは何度もその一文を読み直す。
そして王家の『闇』の存在を感じた。
そして鐘の音が鳴る。
「あ、そろそろ戻らないと、夜間警護に遅れるっ!!」
ニコは慌てて文書を返却すると、駆け足で王城を後にするのだった。




