表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/61

第4話 水のない街

 

 翌日。


 練兵場にヴァスケスとニコの姿があった。


 今日から、スラムでの潜入調査が開始される。


 なので、二人ともいつもの騎士服ではなく、平民の格好をしている。


 もっともヴァスケスの場合は100パーセント私服なのだが。


 ニコは下町の街娘になり切っていた。


 そんなニコを見てヴァスケスが笑う。


「おまえ、そう云う格好が本当に似合うよな。本当に貴族の令嬢かよ」


「ヴァスケス班長だって、何ですかその恰好は。見るからに女傭兵か女盗賊ですよ」


「ウルセエな。いいんだよ。この方が動きやすくって」


 ヴァスケスはズボンに厚手のシャツ、そしてポケットのついたベストを上に羽織っている。


 対するニコは、頭にスカーフを巻き、茶色のワンピースを胸の下でひもで縛り、ふわっとしたシルエットにしている。


 見るからに下町の住人っぽい格好だが、足元だけは二人とも頑丈そうなブーツを履いている。


 そしてお互いに、短剣とナイフを服の下に隠していた。


「まあ、こんな感じで良いだろ。あんまり小綺麗にすると却って浮くからな」


「はい、ヴァスケス班長」


 ニコが答えると、ヴァスケスがじっとニコを見つめる。


「な、何でしょう?」


「お前、その班長ってやめろ。おかしいだろ」


「ええっ、でも何てお呼びすれば」


「ヴァスケスで構わん」


「そ、そうはいきませんよ……せめて『ヴァスケスさん』でどうですか?」


「ふん。まあいい。これからはそう呼べ」


「はい、ヴァスケスさん」


 そして二人は練兵場を出て、一路スラムへと向かうのだった。


 ◆


 王都の中を進んでいく二人。


 下町を通り過ぎ、更に王城から離れた場所に来た。


 この辺になると、随分と雰囲気も違うし、漂う空気も違う感じがする。


「……なんだか変な匂いがします……」


 ニコがヴァスケスに尋ねるように言う。


「そうか……お前は知らねえか……お嬢様だもんな」


「むう……そんないい方しなくても良いじゃないですか」


「ふん」


 ヴァスケスは笑いながら、ニコの頭を軽く叩く。


「貧民街なんて、みんなこんな感じだし、こんな匂いがするんだよ」


 ヴァスケスは少しだけ真面目な顔で話をする。


「この辺の連中は、水浴びも出来ない……そんな水があったら飲み水にするさ」


「何でですか……水なんて井戸からくみ上げれば良いじゃないですか」


 するとヴァスケスは少し悲しそうな表情になる。


「この辺りの住人は、非合法に住んでいる連中が多い」


「……非合法……ですか?」


「ああ。訳あり、難民、犯罪者……下町にすら住めない連中が、この辺りを不法に占拠しているのが実情だ」


「……だったら、普通に働いて、こんな所から出ていけばいいじゃないですか」


「ニコ……この辺りの連中が普通に働けると思うか?」


「……」


「例えばだ。食堂で汚い身なりの奴が給仕してたら、その店に行くか?」


「汚かったら体を洗えばいいじゃないですか」


「だから最初に言ったろう……体を洗う水があったら、此処の連中は飲み水に使うって」


「……だから井戸を使えば」


「無いんだよ」


「えっ」


 ヴァスケスはニコの方に振り返って止まる。


「この辺りを不法に占拠しているって話したよな」


「はい」


「だから、王国はこの辺りに制限を課した……井戸を掘る許可を制限しているんだ」


 ニコの顔から表情が消えた。


「この辺りで勝手に井戸を掘る事は違法だ……王国がそう定めた……きまりだ」


「そんな……」


 ニコだって、水がどれ程大切かは分かっている。


 しかし、この辺りの住人は井戸が使えない。


「じゃあ……」


「この辺の連中は川に水汲みに行ったり、下町でこっそりと水を汲んできたりするんだ」


「そんな……」


「さっきの話に戻すぜ」


 ヴァスケスは再び前を向く。


「身なりの汚い奴が給仕する店なんか、誰もいかない」


「臭い匂いがする奴を商店は雇わない」


「それが、この辺りの連中が貧困から抜けられない理由の一つだ」


 ニコは思わず俯いてしまう。


「(知らなかった……王国にこんな場所があるなんて……そしてそんな法律があるなんて……)」


 ニコは急に何かに押しつぶされるような錯覚を感じた。


「ニコ……お前はこれから知りたくもない事を知らされる」


「……」


「その覚悟はできているか?」


 ヴァスケスの問いかけにニコは答える事が出来なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ