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第3話 王都の火種


 スティーブは聞き込みを終えて、宿舎へ戻ろうとした。

 しかし、急に足が止まる。

 情報屋から言われた言葉が脳裏に引っかかったからだ。


「飲み直すか……」


 スティーブの足は繁華街へと向かう。


 スラムや下町から少し離れたこの場所は、王城に近いせいで治安も悪くない。

 それを見越した料理屋や宿屋などが連なっている一角だ。


 スティーブがどの店にするか物色していると、背後から声が掛けられる。


「スティーブ殿」


 スティーブが振り返ると、そこには私服のコリーナの姿があった。


「コリーナ殿。奇遇ですね」

「それはそちらも同じでしょう?」


 私服姿のコリーナは新鮮な雰囲気があった。


「コリーナ殿は何処へ?」

「明日から非番なので、これから食事をして宿に帰る予定です」


 スティーブの脳内に天使と悪魔が現れる。

 しかし、二人は対立するどころか、声を合わせて同じことを言い出した。


『『女性を一人で食事させるなんて、駄目だろう、スティーブ』』


 二人の声にスティーブは覚悟を決める。


「あ、あの。この近くに安くて旨い店があるんですが……ご一緒してくれませんか?」

「えっ?」

「その、一人で食事するのも味気ないな……と。なので、この独り身を哀れと思ってお付き合い頂ければ……」


 スティーブは下からコリーナを見る。


 唖然としていたコリーナだったが、すぐに表情を柔らかくする。


「では、ご一緒しますわ」

「あ、ありがとう」


 スティーブの顔が破顔する。


「こっちです。いやあ、嬉しいな…‥コリーナさんみたいな美人と一緒に食事できるなんて」

「えっ?」


 コリーナの耳が赤くなる。


「あ、すいません。女性を誘って食事なんて久しぶりなんで……浮かれてしまいました」

「そ、そうなんですね」

「ははは、そうなんです」


 石畳の上を、歩く二人の足音が少しだけ高く聞こえた。


 ◆


「本当に……すごく美味しいですわ」


 コリーナは料理を口に運んでから静かに感想を述べる。

 その答えを聞いて、スティーブがほっとするように息を吐く。

「良かった……少し男性向けの料理なんで……お口に合うか心配だったんですよ」


「それはわたしが男性並みに体を動かしている……と仰りたいのですか?」

「と、とんでもないっ!!」


 スティーブは慌てて大げさに手を振る。


「ふふふ。冗談ですよ……でも、とても美味しいです」


 そんな会話をきっかけに、二人は和やかに食事をする。


 スティーブもコリーナもワインを嗜む程度に飲んでいた。

 なので、少し気が軽くなったのだろう、スティーブがついそんな事を言ってしまう。


「すいません……ちょっとだけ愚痴っぽい話をしても良いですか?」


 突然のスティーブの言葉に、コリーナはマジマジとスティーブの顔を見る。


 日に焼けた肌、鍛えられた筋肉を感じさせる首筋、太い腕。

 少し優柔不断なところもあるが、男性騎士としては優秀な方だろう。


 そんな事を考えていたので、つい返事が遅れる。

 それを否定と受け取ったスティーブが寂しそうに頭を落とす。


「失礼ですよね……いきなり……すいません。聞かなかったことにして下さい」


「いえ、是非聞かせてください。第一騎士団の小隊長さんの愚痴とやらを聞かせて戴きたいわ」


 コリーナは穏やかな笑みを浮かべる。


「すいません。お言葉に甘えて……実はですね……」


 スティーブは今日の出来事を話して聞かせる……勿論、守秘義務に関わる事は伏せて。


 そして話しながら思う。


「(こんな事話すなんて……情けない奴だと思ってるんだろうな……)」


 しかし、コリーナはスティーブの話を真剣に聞いていた。

 それはお互いの立場が似ている所為かも知れなかったからだ。


「そうですか……そんなに雰囲気が良くありませんでしたか」

「まあ、ウチの連中も少し考えが足らなかったんですけどね……」


 そこまで言って、スティーブはグラスのワインを一気にあおる。


 コリーナは暫く黙って考えていたが、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「スティーブ殿。このお話、上にあげてもよろしいかしら?」

「えっ?」

「いえ、ウチの隊に、その手の任務にうってつけの者がいるんですよ」


 そう言ってコリーナはクスクス笑う。


「多分、悪いようにはならないと思いますわよ」


 スティーブは目の前で笑っている女性の顔をじっと見つめていた。


 ◆


 スティーブとコリーナが食事をした数日後。

 ヴァスケスとニコはアレクシア団長に呼び出された。


「ヴァスケス班長……あたしたち何かしでかしましたかね?」

「何でオレまで一緒なんだよ。お前だろ、何やったんだよ」

「やってませんて。ずっと訓練で一緒だったじゃないですか」

「お前なら何があっても不思議じゃないからな」

「ひどっ」


 そんなやり取りをしているうちに、団長の部屋の前まで来てしまった。


 ヴァスケスがニコの背中を叩く。

 バシッ

「痛っ」

「(早く開けろ)」

「(ううっ)」


 ニコは覚悟を決めてドアをノックする。

「ニコレット、出頭しました」

「ヴァスケス、出頭しました」

「入りなさい」

 部屋の中からアレクシアの声が聞こえた。


「「失礼します」」

 ドアを開けて二人が部屋の中へ入る。


 そこにはアレクシア団長、ヒルデガルド副団長、そしてコリーナ小隊長の姿があった。


「まあ、楽にして」

 アレクシアがそう言うと、ヴァスケスとニコが休めの姿勢を取る。


「今回二人に来てもらったのは、特別任務を与える為よ」

「……特別任務……ですか?」


「詳細はコリーナが説明するわ……コリーナ」

「はい」


 コリーナは二人に向きを変える。


「現在、王都のスラム地区で不穏な扇動活動が確認されている。目的は不明。但し、スラムの住人の不平不満を利用し、王家に対する敵対行動に仕向けようとしている」


「第一騎士団が調査中だが、住人の騎士団に対する印象がすこぶる悪い。よって、第一騎士団が調査を継続することが著しく難しい状況だ」


「そこで……我がヴァルキュリア騎士団から、この任務に適した人材を派遣することにした」


 そこまで言って、コリーナはニコッと笑う。


「ヴァスケス、ニコレット。両名に不穏分子探索の任務を命ずる」


 そう言ってから、コリーナはアレクシアの方を向く。


「承認します。二人とも。頑張ってね」


 トップの三人が笑顔で頷いている。


「「(これ絶対に断れないやつだ)」」


 珍しく、ヴァスケスとニコの心の声が綺麗に重なったのだった。



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