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第2話 真っ直ぐな剣


 ヴァルキュリア騎士団の練兵場。


「ほらほら、オレは此処だぞ」

「ううっ、当たらないっ!!」


 ニコが細剣を振るうが、その攻撃はヴァスケスを掠る事もない。


 ニコは練兵場の土と汗にまみれドロドロになりながらもヴァスケスに斬りかかる。


「だから、お前、顔に出過ぎだって」


 ヴァスケスが木剣でニコの手首を叩く。


「痛っ!!」


 いくら金属製の小手を付けていても、その衝撃は結構なものだ。

 ニコの攻撃の勢いが消えると、すぐにヴァスケスの突きが飛んでくる。


 金属鎧の胸の部分にガツンと衝撃が来る。


「あうっ!!」


 ニコがそのまま後ろに倒れ込む。

 すぐさま、ニコの首にヴァスケスの剣が突きつけられる。


「ニコレット……死亡……二位階特進」


 ヴァスケスがにこやかに笑う。

 ニコの体から力が抜ける。


「今日はこの辺にしておこう」

 ヴァスケスは息も切れていなければ、服装も汚れていない。


「はい。ありがとうございました」

 ニコは何とか上半身を起こし、ヴァスケスに礼を言う。


 あの盗賊の襲撃以来、ニコはヴァスケスに特別訓練を付けてもらっている。


 ヴァスケスはニコを見下ろしながら話し掛ける。


「まあまあ、良くなってきてる……が、攻撃が単調だ。敏捷性を生かすなら、フェイントを混ぜるとか、とにかく頭を使え」


「はい」


「じゃあな。また明日だ」


 ヴァスケスはそう言うと、そのまま背中を向けて行ってしまう。


「うー、今日も敵わなかった……」


 ニコの頭に汗拭き用の布が被せられる。


「お疲れ様。今日も頑張ってるね」


 アグネスだった。


「……まだまだだよ……全然敵わない……」


「そんなに早く成長されたら、昔から訓練してる自分たちの立つ瀬がないからね」

 アグネスはニコニコと笑いながら言う。


 ニコは布で顔を拭きながら考える。


「少しは強くなってるのかな……」


「それはなってると思うよ。今日だって、ヴァスケス班長と互角に立ち合ってたじゃないか」

「随分手を抜かれてる気がするけどね」


「後は、ヴァスケス班長も言ってたけど、攻撃が単調にならないようにすることかな」

「そんなに単調かな?」

「うん。みえみえ」

「うー」


「でもこうして、問題点が分かったら、後は解決していくだけだよ」

「それが難しいんだって」


「大丈夫。ニコならできるよ」

 そう言ってアグネスがじっとニコを見つめる。

 ニコは思わず目を逸らす。


「照れるからやめて」

「なんで?」

「何ででもっ!! もう、水浴びに行くっ!!」


「おい、待ってって。一緒に行こうよ」

「やだ」

「ふはははは」

 結局、ニコはアグネスと水浴びに行くのだった。


 ■広がる火種


 第一騎士団の小隊長であるスティーブは頭を抱えていた。

 先日のスラムでの騎士団とスラム住人の衝突。


 衝突した騎士達はスティーブの小隊ではなかったが、その後始末を押し付けられたのだ。


「当事者の隊長が出張ると、纏まるものも纏まらない……すまんが、お前が行ってくれ」


 と、第一騎士団団長に言われてしまえば、断る事も出来ない。


 そんな訳で、スティーブは今、スラムの現場にやって来ていた。


「……しかし、何だよこの視線は?」

「仕方ありませんよ。あの事件以来、随分と恨まれていますからね」

「……何で罪のない住人を斬るんだ?」

「不可抗力ですよ。調書読みましたか、小隊長」


 スティーブが視線を向けると、遠巻きに自分たちを見ていたスラムの住人たちが険しい目つきで睨んでくる。


「話しかけても無視される……住人たちの事情聴取も行わねばならんのに……」


 スティーブが愚痴をこぼす。


「情報屋を例の場所に呼んでます……くれぐれもその恰好で行かないで下さいよ」

「分かってるって……」


 スティーブは大きくため息を吐くと、一旦宿舎に戻る事にした。


 ◆


「旦那……その恰好じゃ、どう見ても貴族ってわかりますぜ」


 スティーブは王都の下町の飲み屋に居た。

 飲み屋の奥……周りから視線を遮るように設えられた一角。


 目の前で嫌そうな顔をしているのが情報屋だ。


「これしか持ってねえんだよ。良いから早く教えろ」

 スティーブは襟をつかみながら文句を言った。


 情報屋は無言で左手を差し出す。


 スティーブは今日何度目かの大きなため息を吐いて、ポケットから硬貨の入った小さなきんちゃく袋をとりだし、その手に乗せる。


 情報屋は素早く中身を確認すると、すぐにポケットにそれをしまう。


「……最近、スラムの奥で炊き出しをやってる奴がいるんだ」

「うわさは聞いてる」


「そいつが最近、物騒な事を言い出したんだよ」

「……物騒な事?」


 情報屋はそこでエールを一口飲み込む。


「スラムの貧窮は国王のせいだってね。賢王と言われてもこれが現実だってさ」

「貴様っ」


 スティーブは思わず席を立つ。


「オレが言ってるんじゃねえ。その炊き出しをやってる奴が言ってるんだよ」

「……」

「それにそいつが言ってることは、あながち嘘じゃねえだろ」


 スティーブは情報屋を睨む。


「で、今みたいな会話になって、お互い引っ込みがつかなくなった時、あんた達が剣を抜いて斬りかかった……これが顛末」

「……その煽った奴は?」

「最近姿を見せない……警戒が厳しくなったからな……ただ、スラムは此処だけじゃねえ……別の所で同じ事してるかもよ?」


 情報屋はそう言って嗤った。


「……また何かわかったら、知らせろ」

「へいへい、毎度」


 情報屋はそう言うと、目を伏せて二度とスティーブを見ようとはしなかった。



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