表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/62

第16話 まっすぐさ

 

 ヴァルキュリア騎士団の援軍任務は当初一週間を予定していたが、負傷者の数が多く、三日で撤退することになった。


 襲撃の次の日からは、周辺の森の中の調査や、負傷者の介護、兵站の運搬等、ヴァルキュリア騎士団は八面六臂の活躍だった。


「やあ、ニコちゃん。おはよう」

「おはようございます。ザトクリフさん。もう歩いて大丈夫なんですか?」

「ああ、心配してくれてありがとう。ほら、こんな具合で、歩けるようになったよ」


 ニコに挨拶をしてきたのは、年輩の白髪が目立つ騎士、ザトクリフ。

 馬房の攻防で一緒に戦った第一騎士団の騎士だ。


 あの一件以来、ニコは第一騎士団の騎士たちと交友を広げていた。

 ザトクリフもその中の一人だった。


「あ、なにか御用ですか?」

「ああ。うちの隊長が、そちらの隊長さんと話がしたいそうなんだ。都合はそちらに合わせるので、指令所に来て欲しいとさ」

「分かりました。コリーナ隊長に伝えますね」

「頼むよ。では」


 そう言ってザトクリフは少し足を引きずりながら立ち去っていく。


「(自分がもっと強ければ、ザトクリフさんも傷を負わずに済んだのかな)」

 ニコは少し思う所があったが、すぐに振り返り、コリーナの元へ向かう。


「失礼します。コリーナ隊長」


 テントの中ではコリーナとヴァスケスが何事かを相談していた。

 ヴァスケスが言いかけた言葉を飲み込む。


 コリーナがニコに問いかける。

「何だ?」


「はい。第一騎士団からの伝言です。第一騎士団の隊長がコリーナ隊長とお話がしたいそうです。時間に関しては、こちらの都合に合わせるとのことです」

「わかった。下がって良し」

「失礼しました」


 ニコは略式の礼をすると、テントから退出する。


 ニコがテントを訪れるその少し前。


「アグネスから報告を受けたが、敵は盗賊らしく見せているが、違うようだぜ」

 ヴァスケスがコリーナに話す。

「……理由を聞いても?」


「森の中からしか攻撃していない……厩は別とすると、馬達が標的で、後は陽動……そう考えるとしっくりくる」

「……」


「それに、オレもアグネスの意見に賛成だ。オレと切り結んだ奴、あの動きはどう考えても盗賊のそれじゃなかった」


「どこかの国の軍属、あるいは騎士が闇落ちした可能性は?」

「そりゃあ、あるけどさ。配下どもの動きが整い過ぎている……あれは普段から組織だって行動している証拠さ」


「王国の周辺がキナ臭い……というのだな」

「証拠は無いがな」


 そんな話をしているところへ、ニコが入ってきたのだった。


 二人の会話はそこで終わり、ニコが退出すると同時に、コリーナが立ち上がる。


「ヴァスケスの具申は心に留めておく。私はスティーブ殿の所へ行ってくる」

「はいよ」


 そしてコリーナが先にテントを出て、その後にヴァスケスがテントを出る。


 と、そこにニコが立っていた。


「ん、どうした。報告は済んだんだろ」

「いえ、ヴァスケス班長にお話があって」

「話?」


 ヴァスケスは怪訝そうにニコを見る。

 ニコは大きく息を吸ってから、ヴァスケスに向かって頭を下げる。


「あたしにもっと稽古を付けてください!! もっと、実戦的な稽古をお願いしますっ!!」


 ヴァスケスは一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの斜に構えた表情になる。


「稽古嫌いのお前が、いったいどうしたんだよ?」


 ニコは頭を下げたまま言葉を続ける。


「昨日、盗賊と戦った時……全然叶わなかったんです……斬りかかられて……押し倒されて……」


 そこまで言ってからニコは顔を上げた。

 真剣な表情だった。


「ノワールが来てくれなかったら……あたし、死んでました」

「……」


「だからもっと、強くなりたい……みんなを守れるくらいに強くなりたいんです」


「ニコ……」


 ヴァスケスはニコの告白を聞いても笑わなかった。

 ゆっくりとニコに近づき、ニコの正面に立つ。


 そして静かに右手を差し出す。

「……」


 ニコの視線がヴァスケスの右手に向いた瞬間、ヴァスケスの手がニコの顔の前に移動する。


 そして中指でニコの額を弾いた。


「痛っ!!」


 思わず額を押さえる。


「ニコ……お前の決意は分かった」


 ニコが涙目になってヴァスケスを睨む。

 ヴァスケスは真顔のまま、静かに口を開く。


「まずはオレの話を聞け」

「……はい」


「最初に言っておくが、お前がオレやアグネスみたいな剣士を目指すんならやめとけ」

「えっ」


「人にはそれぞれ向き不向きがある。お前には長剣や大剣を振り回すガタイが無い」

「……」


 ニコは黙ってヴァスケスの言葉を聞く。


「これを努力で補おうとすると、とんでもない努力が必要だ」


「お前の長所は何だ?」

「……自分では、わかりません」


 ヴァスケスはその答えを予想していたように答える。


「お前の長所は、その『まっすぐさ』と『敏捷性』だとオレは思っている」

「まっすぐさと敏捷性」


 ヴァスケスは大きく頷く。


「まずは長所を伸ばせ。もちろん、協力してやる……」


 そしていつもの表情に戻る。


「オレの訓練は厳しいぞ」

「はい。望むところです」


「よく言った。一度吐いた言葉は戻らねえからな。覚悟しておけ」

「はい」


「ニコ」

「はい」

「夕べは良くやった。お前がいなければ馬達が犠牲になっていた。誇っていいぞ」

「ヴァスケス班長」


「行け。アイツらが見てるぞ」


 ニコが振り返ると、アグネスとフロムが心配そうにこっちを見ていた。


「訓練のメニューを考えておく。今は休め」

「はい。ありがとうございます」


 ニコはヴァスケスにもう一度頭を下げると、アグネスたちの元に向かって走って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ