第14話 狙われた馬房
最初は火矢が射かけられた。
騎士団のテントに着弾し、炎が上がる。
「敵襲っ!!」
至る所で声が上がる。
敵の姿は見えない。
ただ闇の中から無数の矢が飛来する。
「矢に気を付けろっ!!森の中から射ってくるぞっ!!」
「ぎゃああっ」
テントから出てくる所を狙われた騎士が、矢を受けて倒れ込む。
「盾を持てっ!!第2班は消火作業を急げっ!!」
スティーブが指令所から飛び出して、各班長に指示を出す。
しかし、宿営地は混乱している。
しかも就寝間近の時間だったため、金属鎧を身に着けていない者も多い。
「まさか、このタイミングで襲撃してくるとはっ」
参謀格の騎士が奥歯を噛みしめる。
「ガゼルッ、今は体を動かす方が先だっ!!」
「了解っ!!」
スティーブからの叱責にガゼルが動く。
「第3班と第4班はオレに着いてこい。敵の弓矢攻撃を止めるぞ」
「「「「はいっ」」」」
騎士達がガゼルに続いて森の中に突入していく。
既に数張りのテントが炎に包まれている。
オレンジ色の炎が激しく身をくゆらせ、辺りを照らす。
「敵が見えん……クソッ」
スティーブはその光景を見ながら歯噛みするのだった。
◆
そんな様子を森の中から見つめる者がいた。
「……突発的な攻撃に対する対応力は並みだな……森に突入した奴はそこそこか……」
観察する者は酷薄な笑みを浮かべる。
「(さて、隊長……いや、頭目の判断はどう出るか……あがいてくれよ、第一騎士団様)」
そう呟いて、観察する者は気配を消す。
森の中は静寂に包まれている。
◆
ヴァスケス達が馬房に近づく。
同時に激しい剣戟の音が聞こえてきた。
そこでは、先程の年輩の騎士が、4,5人の盗賊を相手に切り結んでいる姿があった。
ガキンッガキンッ
剣が交差する度に火花が散り、激しい金属音が響く。
「当たりだぜっ!!」
ヴァスケスはそう言うと、一番手近な盗賊目がけて突っ込んでいく。
「お、女っ!?」
盗賊は目を見開く。
ヴァスケスは無言で剣を振り下ろす。
ザシュッ!!
袈裟懸けに斬られた盗賊から、血飛沫が飛ぶ。
「ぎゃああっ!!」
ヴァスケスはすぐさま、倒れ込む盗賊の首に剣を突き立てる。
「ぐああ……」
盗賊が事切れる。
「アグネス、フロム、オレの横を固めろっ!! ニコは怪我人を後ろへ下げろっ!!」
ヴァスケスの指示が飛ぶ。
アグネスとフロムが抜刀する。
「いいか、訓練じゃねえぞ。ヘマしたら死ぬからな」
「「はい」」
ニコは、座り込みながらも剣を突き出している年輩の騎士に近づく。
「大丈夫ですかっ!!」
「お嬢さん。助かったよ」
ニコは倒れた騎士に肩を貸す。
「いったん下がりましょう」
「しかし、お嬢さんたちだけに戦わせるわけには……」
「大丈夫です。ヴァスケス班長は強いですから」
ニコはそう言いながらも、ヴァスケス達の戦いを見つめる。
ヴァスケスが一人を討ち取ったので、残る盗賊は4人。
仲間の一人が討ち取られたというのに、その4人は剣を構えて態勢を整え直している。
「お前ら、何もんだ? ただの盗賊じゃねえだろ」
「……」
盗賊たちは無言でヴァスケス達を見つめる。
と、突然一人の盗賊が馬房に向かって走り始める。
「チッ、馬が狙いだったっ!!」
ヴァスケス達が追いかけようとするが、すぐさま残りの三人が立ち塞がる。
「どけっ!!」
ヴァスケスが斬りかかるが、盗賊はまるで時間を稼ぐようにその剣を受け流す。
「くっ!!」
一人の盗賊が馬房に辿り着き、剣を振り上げる。
そして一番近くにいた馬に斬りかかる。
「やめてっ!!」
ニコが足元にあった桶を投げつける。
ガツンッ
盗賊は投げつけられた桶を斬り払う。
ニコは駆け出した。
腰の剣を引き抜く。
盗賊と馬の間へ滑り込む。
「馬を傷つけるなんてっ!!」
その剣幕に盗賊が思わず後ずさる。
ニコは片手で剣を構えたまま、もう片方の手で馬房の扉をあけ放つ。
「逃げてっ!!早くっ!!」
ニコの言葉が分かったのか、たった今斬られそうになった馬が馬房から走り出す。
その様子を見た盗賊の顔が歪む。
ニコはそれにかまわず、次の扉を解放する。
次々と馬たちが馬房から脱出する。
「お前の思い通りになんかしてやるもんかっ!!」
ニコは自らを奮い立たせるように大声で叫んだ。
◆
馬房から次々と馬が飛び出してくる。
その様子を見た盗賊の顔が歪む。
そしてすぐに指笛を鳴らす。
ピィィィィィィッ!!
「てめえ、何の合図だ?」
「……」
睨みあっていると、後ろの二人が背中を向けて森の方向に逃げ始める。
「くそッ」
ヴァスケスが斬りかかるが、盗賊は相変わらず、のらりくらりと剣戟を受け流す。
「アグネス、ニコに合流しろっ!!フロムは俺の援護をっ!!」
「はいっ!!」
アグネスが馬房に走り出す。
フロムが盗賊の利き手とは反対側へ移動する。
「てめえには聞きたいことが沢山あるんだよ」
その言葉に、盗賊の目が細められた。
◆
「ニコッ」
アグネスが駆けつけた時、ニコは盗賊と対峙していた。
「アグネスッ、こいつ、馬を手にかけようとしてたっ!!」
「馬を……」
その言葉を聞くとアグネスの雰囲気が剣呑なものになる。
「騎士にとっての愛馬がどれほど大切なものか知っての行いだな」
「……」
アグネスが剣を振り上げ盗賊に斬りかかる。
盗賊は即座にそれを受け止め、二人の間でつばぜり合いが始まる。
ギリギリッ
剣同士が声擦れ合う、耳障りな音が響く。
と、突然盗賊が剣を握る手の力を抜く。
渾身の力で押していたアグネスの体がたたらを踏む。
アグネスの無防備な背中が盗賊の前に差し出される。
「し、しまったっ!!」
盗賊の剣が上段に構えられる。
アグネスが覚悟を決めた瞬間、白い塊が突っ込んできた。
ドカッ!!
盗賊の体が跳ね飛ばされる。
「アルバッ!!」
それはアグネスの愛馬、アルバだった。
アルバが主人の危機を見て体当たりを食らわせたのだ。
跳ね飛ばされた盗賊は、痛む体を無理やり立ち上がらせる。
そして唖然としているニコに向かって斬りかかった。
「え、ええっ」
咄嗟に剣を受け止めるが、あまりにも体格が違い過ぎた。
ニコはあっという間に押し倒される。
盗賊がニコに馬乗りになる。
「悪く思うなよっ!!」
盗賊は剣を逆手に持ってニコの首目がけて剣を振り下ろす。
ニコはぎゅっと目を瞑る。
と、今度は真っ黒な塊が盗賊を思い切り蹴飛ばす。
ドガッ!!
「ぎゃああああっ!!」
盗賊の体が数メートルほど吹き飛ばされ、そのまま動かなくなった。
「ノワールッ!!」
ぶるるるるっ
その場で首を振るノワールは、無茶するなと怒っているように見えた。
「ノワール、ありがとっ」
ニコは涙でぐしゃぐしゃになった顔でノワールの首に抱きつくのだった。




