第13話 嫌な予感
その後は特に問題もなく、ニコたちは夕食を終え、今は就寝までのわずかな自由時間だった。
「あたし、ちょっとノワールの所に行ってくる」
ニコがアグネスとフロムに声を掛けた。
「明日でも良いんじゃないか?」
「まあね。でも、ノワールの顔を見てこないと、明日機嫌が悪くなっても困るし」
「あいつは我儘だからな」
フロムが少し意地悪な口調で軽口を叩く。
「一緒に、アルバとセレステの様子を見てくるよ」
「頼むよ、ニコ」
アグネスは剣の手入れをしながら返事をする。
「うん。じゃあ、行ってくる」
ニコは愛用のブラシを持つと、ノワールの元へと走って行った。
◆
仮組とはいえ、立派な馬房に馬たちが繋がれていた。
ニコたちの愛馬たちも、一緒に大人しくしていた。
見張りをしていた年輩の騎士がニコが近づいてきたことに気付く。
「お嬢さん、こんな時間に何か用かね?」
白髪混じりの髭を蓄えた年輩の騎士、その声音は穏やかだった。
「ちょっとだけ、馬の世話をしたいんですけど、良いですか?」
「馬の世話?……そんなのは馬丁にまかせれば良いのじゃないかね」
「そうなんですけど……うちの子はちょっと特別で……機嫌を損ねると明日が大変なんですよ」
「ふはははは、そう言う事か。構わんよ。ただ、休んでいる馬もいるので静かにな」
「はい」
ニコは大きく頷いてから、ノワールを探す。
ノワールは馬房の一番奥で、ふてくされた様に森を見ていた。
「ごめん、ノワール。遅くなっちゃたね」
ニコはそう言って持ってきたブラシを見せる。
「あんまり時間ないけど、ブラシかけてあげる」
ぶるるるるるっ
ノワールは近づいてきたニコに頭をぶつける。
「痛っ、ごめんて」
ニコは苦笑いしながらノワールにブラシをかけ始める。
「今日は色々あったんだよ。テント張ったり、竈作ったり……あ、でも草刈りが一番しんどかったかな」
ブラシを掛けながら今日の出来事を話して聞かせるニコ。
ノワールもまるでニコの言葉を理解しているかのように、その言葉を聞いていた。
暫くそんな事をしていると、先程の年輩の騎士が近づいてきた。
「ほお、良く慣れているな。それに賢そうな馬だ」
年輩の騎士はノワールを見てそんな事を言う。
ニコは自分が褒められたような気がして、何となく嬉しい。
「折角の逢瀬の時間を邪魔して悪いが、そろそろ就寝の時間だ。お嬢さんも戻らないと拙いだろ」
「え、もうそんな時間なんですね。ありがとうございます」
そしてノワールにもう一度話し掛けようとした時だった。
急にノワールが森の方を見て、耳をパタパタと動かし始めた。
「ん?どうしたの、ノワール」
すると、馬房の中の馬たちも急にそわそわと動き出すものが現れた。
年輩の騎士の目が細められる。
「お嬢さん、何か悪い予感がする……仲間に知らせておいで」
「えっ、は、はい」
ニコは小さく頭を下げてから、自分たちのテントへと向かうのだった。
◆
テントに戻ると、ヴァスケスが戦装束に身を包んで腕を組んでいた。
「遅い。何かあったんだろ」
ヴァスケスがニコに尋ねる。
「はい。馬房に居たんですが、急に馬たちが騒ぎ出して……年輩の騎士の方が、『悪い予感がする、知らせておいで』って」
ヴァスケスはニコの言葉を聞くと、目をすわらせる。
「偶然だな……オレも先刻から嫌な予感がしてんだよ……」
ヴァスケスはそう言ってから顎に手をやり、何かを考え始める。
「(オレが敵だったらどうする……夜襲を掛ける?……夜襲を掛けてどうする……)」
ヴァスケスが考えているうちに、アグネスとフロムも鎧を身に着けてテントから出てきた。
「何があった?」
アグネスが尋ねてきた。
「まだ、何も。でも、馬房の馬たちが騒ぎ出して……」
「それは拙いかも……馬は危険に敏感な生き物だからね」
ヴァスケスは一つの答えを導き出す。
「(夜襲で不眠を狙う……それとも兵站か……あそこは警備が厳重だ……となると機動力を削ぐっ!!)」
ヴァスケスが顔を上げた。
「ヴァスケス班は馬房に向かうっ!!ついてこいっ!!」
「「「はいっ!!」」」
ニコはフロムに渡された装備品をワタワタと身に着ける。
「もうすぐ襲撃が始まる。が、それは陽動だっ!!」
ヴァスケスはまるで戦場が見えているように叫ぶ。
「ちっ、何が盗賊退治だよっ!!」




