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第1話 騎士団の責任

 王宮での騒動から数日後。

 ニコ、アグネス、フロムは、ヴァルキュリア騎士団団長アレクシアの執務室へ呼び出されていた。


 部屋に入ると、アレクシア団長、ヒルデガルド副団長、そしてヴァスケスとコリーナの姿がある。


 窓際には午後の光が差し込み、重厚な執務机の上には書類が山のように積まれていた。

 しかし室内の空気は静かで、妙に張り詰めている。


 ニコは思わず背筋を伸ばした。


「整列」

 ヒルデガルドの号令が飛ぶ。


 五人は即座に一列へ並ぶ。


「休め」

 それでも誰一人、気を抜く者はいない。


 ヒルデガルドは一度全員を見回してから、静かに口を開いた。


「先日の王宮抜刀未遂事件について、処分を言い渡す」


 ニコの喉がごくりと鳴る。


「まず、コリーナ」

「はい」

「現場の収拾、及び上官への迅速な報告は評価する。しかし、本来であれば、あの状況そのものを未然に防ぐべきだった」

「……はい」

「よって、その功績を鑑み、コリーナへの懲罰は無しとする」

「はい」

 コリーナは静かに頭を下げた。


「次、アグネス、フロム」

「「はい」」


「お前たちは、ニコレットの暴走を制止可能な位置にいたにも関わらず、それを行わなかった。また、騒動発生後も、より早く鎮静化できた可能性がある」


 アグネスとフロムが黙って聞いている。


「ただし、ヴァスケスの行動については、お前たちの実力で制止可能だったとは判断しない」

「……」


 ヴァスケスが露骨に眉をひそめた。


「よって、両名には三日間の自室謹慎を命じる」


 ニコが思わず二人を見る。

 だが、ヒルデガルドは続けた。


「ただし、遊ばせておくつもりは無い。その期間、厨房勤務を命じる」

「「はい」」

 アグネスは平然としていたが、フロムはほんの少しだけ嫌そうな顔をした。


「次、ヴァスケス」

「はいよ」

「返事は“はい”だ」

「……はい」


 ヴァスケスが面倒臭そうに言い直す。


「抜刀を未然に防いだ功績は認める。しかし、お前の実力ならば、あそこまで手荒な真似をせずとも制圧できたはずだ」


 ヴァスケスの視線がわずかに逸れる。


「手首を骨折させた件は明らかに過剰。加えて、騎士団同士の抗争へ発展しかねない危険行為だった」

「……」

「よって、俸給二割返納を命じる」

「はい……」


 不服そうな声だった。


「そして――ニコレット」

「は、はいっ」


 ニコの肩が跳ねる。


「今回の騒動の発端は、お前の挑発的言動にある」

「うっ……」

「たとえ相手側に非があろうと、騎士である以上、冷静に対応すべきだった」


 ニコは俯く。

 反論できなかった。


「ヴァスケスの暴走については、アグネスとフロム同様、制止困難だったと判断する」

「……はい」

「よって、ニコレットには一週間の自宅謹慎を命じる。その間、騎士団への出仕を禁ずる」


「えっ」


 思わず声が漏れる。

 一週間。

 騎士団へ来られない。


 それは思っていた以上に重かった。


「加えて、俸給一割返納。以上だ」

「……はい」


 ニコは小さく返事をした。


 ヒルデガルドは全員を見回し、最後にアレクシアへ視線を向ける。

 すると、アレクシアが静かに口を開いた。


「諸君への処分は以上です」


 穏やかな声だった。

 だが、その場の全員が背筋を伸ばす。


「今回、最悪の事態を回避できたのは幸運も大きかった。以後、ヴァルキュリア騎士団の名に恥じぬ行動を心掛けなさい」

「「「「「はい」」」」」

「解散」


 五人は一礼し、部屋を後にする。

 扉が閉まり、静寂が戻った。


 部屋に残されたのは、アレクシアとヒルデガルドだけ。

 ヒルデガルドが小さく息を吐く。


「……疲れた」

「まだ終わってませんわよ」


 アレクシアが書類を手に取る。


「ヒルデガルド」

「はい」

「今回の監督不行き届きについて処分を下します」


 ヒルデガルドが苦笑する。


「やっぱり来るか」

「副団長である貴女には、俸給二割の自主返納を命じます」

「了解した」


 そしてアレクシアは、自ら右手を胸へ当てる。


「ヴァルキュリア騎士団団長、アレクシア・バートレッドは、今回の監督責任を取り、俸給三割を自主返納することを誓います」

「……」


 ヒルデガルドは少しだけ目を細めた。

 言い終えたアレクシアが、ふっと笑う。


「妥当な線かな……」

「ええ。近衛騎士団に大きな貸しを作れましたもの……向こうは当分、強く出られないでしょうね」

「その代わり、確実に恨まれたぜ」

「結構ですわ」


 アレクシアは楽しそうに微笑む。


「あの程度で崩れるようなら、最初から騎士団など率いません」


 ヒルデガルドは呆れたように肩を竦める。

 そして二人は顔を見合わせ、静かに笑い合うのだった。



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