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第52話 王の裁定


 事件から一か月が経過した。


 ニコの傷も癒えて、そろそろ騎士団への復帰も取り沙汰されてきた頃。


 そんな折、国王陛下より今回の反乱及び王宮襲撃に関する信賞必罰が発表されるとの告知があった。


 発表は王宮の謁見の間で行われ、出席者には国王陛下より直々の出頭要請が発せられた。


 その出頭要請は、ニコの元にも届けられる。


 王からの使者がニコの自宅を訪問し、直々に親書を手渡す。


「くれぐれも遅刻などせぬように願いますぞ」


 使者は何故かニコを見てそう言ってきた。


「(……なんて答えれば良いんだ……)」


 ニコはぎこちない微笑みを浮かべながら使者に答える。


「はい……必ず時間厳守で出頭します」


「うむ……では」


 ニコは使者を見送りながら、立派な蝋封についた親書を持て余すのだった。


 ◆


 そして当日。


 ニコは現在、療養のため休職中なので制服を着るか、ドレスを着るかを迷った挙句、ドレスを着用する事にした。


 ちなみにこのニコの判断を一番喜んだのは、侍女のマリアだった。


「お嬢様はもう少し、身嗜みに気を使った方が良いですよ」


「着飾ったって変わんないよ」


「そう云うものではありません。貴族の子女として当然の振る舞いなんですよ」


「そうかな……」


 ニコの脳裏にヴァスケス班長とフロムの顔が浮かぶ。


「今日は国王陛下に謁見するのでしょう? 腕によりをかけてお嬢様を美しく仕上げますよ」


「……ほどほどで良いからね」


 そう言ったものの、ニコはたっぷりと時間を掛けて、貴族の子女らしい姿に仕上げられてしまうのだった。


 ◆


 屋敷の前に迎えの馬車が到着する。


 これも王家が用意したものだ。


 馬車には父親も同乗する。


 これは、父親が近衛騎士団に在籍しているからで、エスコート役という訳では無い。


「お父様……何でそんなに浮かない顔をしているんです?」


 あまりにも沈んだ表情の父親の顔を見て、思わずそんな言葉が口から出てしまう。


「お前は知らんだろうが……今日の評定では、色々と重大な決定が下知されるのだ」


「お父様は御存知なんですか?」


「全て知っている訳では無いが……今日ばかりは王城へ行きたくない」


「(あらま……お父様が子供のような事を言っている……やっぱり今日はヤバい事が起きるのかな……)」


 ニコと父親をのせた馬車は、二人の気持ちなどお構いなく、定刻通りに王城へ到着する。


 父親が先に馬車から降りて、ニコに向かってそっと手を差し伸べる。


 ニコは一瞬躊躇したが、諦めて父親の手に自分の手を重ねる。


 その姿は、傍から見れば仲の良い親子の理想像に見えた。


「では、ニコレット。此処からは別行動だ……しっかりするのだぞ」


「はい、お父様」


 ニコはその場で美しいカーテシーを見せる。


 その姿を見て安心したのか、父親は近衛騎士団の詰め所の方へ向かって歩いていく。


 ニコはその背中を見送ると、自分が呼ばれている謁見の間へと足を進めるのだった。


 ◆


 謁見の間に入ると、ヴァルキュリア騎士団の面々が既に待機していた。


 その中にフロムの姿もあり、フロムはニコを見つけるとすぐに駆け寄ってきた。


「ニコッ」


「フロムッ」


 二人は固くお互いを抱きしめあう。


「心配かけやがって……もうすっかり良さそうだな」


「うん。この間最後の包帯も取れて、元気いっぱいだよ。ただ、ちょっと手が動かしづらいけどね」


 ニコはそう言って左手を開いたり閉じたりして見せる。


「そうか…‥って、何で制服着て来ないんだよ?」


「だってまだ休職中だし……正式に辞令を貰わないのに制服着るのもどうかなって思って」


「そうか……ふふふ、馬子にも衣裳だな」


「なんだとー」


 ニコとフロムがじゃれ合っていると、ジェシカ班長が二人に近づいてきた。


「こらこら、いい加減にしなさい。王城だぞ?」


「「はーい」」


 二人の声が重なる。


 するとジェシカがニコの目をじっと見つめながら口を開く。


「ニコ、お前は良くやった。お前がいなかったら王女殿下がどうなっていたか分からなかった……元気な姿を再び見る事が出来て良かった」


「ジェシカ班長……ご心配をおかけしました」


 ニコとジェシカが話をしていると、侍従長が姿を現す。


「間もなく、国王陛下、王妃陛下が参られます。皆さま、整列を願います」


 侍従長の声に、謁見の間にいる者たちが、綺麗に整列をする。


 そして再び、侍従長の声が謁見の間に響く。


「国王陛下、王妃陛下のおなりである。一同の者頭を下げよ」


 ザザッ


 全員が揃って跪いて頭を下げる。


 暫くの静寂の後、国王陛下の声が響く。


「皆の者、頭を上げよ」


 しかし、誰も頭を上げようとしない。


 もう一度、国王陛下の声が響く。


「皆の者、頭を上げよっ」


 ザザッ


 全員が揃って頭を上げる。


 いよいよ国王陛下による、信賞必罰の下知が始まるのだった。


 ◆


 謁見の間に厳粛な空気が広がる。


 侍従長が最初の一人の名前を読み上げる。


「近衛騎士団、団長ゲルファルト・ドースン。前へ」


 その言葉にゲルファルトが王の前に出て傅く。


「ゲルファルト・ドースン。此度の王城、王宮警護では賊の侵入を許し、近衛騎士団にも多大な損害が発生した。貴公はこの責任を取り、この騎士団団長の職を辞してもらう……異存はないな」


「……はっ……」


 ゲルファルトの顔が苦渋で歪む。


「後任には近衛騎士団副団長が団長代行を務めよ。正式な人事については後日相談の上、決定する……以上だ」


 ゲルファルトは大きく頭を下げると、そのまま謁見の間から出て行く。


 ニコはその姿を横目で見ながら思う。


「(最初からこれはキツイよ……)」


 しかし、評定は始まったばかりなのだった。


 ◆


 侍従長が二人目の名前を呼ぶ。


「ヴァルキュリア騎士団団長、アレクシア・バートレッド。前へ」


 アレクシアが王の前に出て傅く。


「アレクシアよ。貴公の働きにより、反乱を早期に鎮圧できたことには感謝しておる。しかし、舞踏会場への賊の侵入を許し、ヴァルキュリア騎士団の騎士達に少なからず損害が出た事の責任は貴公にある。よって、自宅での蟄居三か月、俸給の四分の一を返納せよ」


「御意」


「ヴァルキュリア騎士団の団長代行にはヒルデガルド副団長が当たる事。以上だ」


「……」


 アレクシアは静かに頭を下げると、近衛騎士団長と同様に謁見の間を後にする。


「(アレクシア団長まで処分されるの? ひょっとしてあたしも処分されるのかな……)」


 ニコの背中を冷たいものが伝い落ちるのだった。


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