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第53話 友のもとへ


「第一騎士団第一分隊長、スティーブ・レイクランド。前へ」


「(あっ……スティーブ分隊長だ……処分されちゃうのかな)」


 ニコは王の前で傅くスティーブを見てそう思った。


「第一騎士団第一分隊長、スティーブ・レイクランド。貴公の中央広場での活躍の報告が上がっておる。騎士の数を遥かに上回る反乱者たちによくぞ立ち向かった」


「よって貴公の分隊長の職を解き、第一騎士団副団長代行に任命する。励め」


「御意っ」


「(あれっ……処分じゃない……初めて昇進者がでた……)」


 ニコがさりげなく視線を動かすと、何故かコリーナ小隊長も嬉しそうだった。


「(……ああ、そう言う事か……いくらあたしが鈍くても、その位は察するよ)」


 そして其処からは、功績のあった者が次々と呼ばれて行く。


 ある者は昇進し、ある者は俸給が上がったりしていく。


「(そうか……近衛騎士団とヴァルキュリア騎士団のトップが責任を取る事でバランスをとるのか……食えないお方だな、国王陛下は)」


 そしてヴァスケス班長が呼ばれる。


「ヴァスケス・ロングナイフ。貴公の働きにより、今回の反乱の首謀者を捕縛する事が出来た。これは非常に大きな勲功である。よって、貴公をヴァルキュリア騎士団小隊長に任命する。励め」


「御意」


 ヴァスケスが改まった態度で一礼する。


「(ヴァスケス班長が小隊長だって……まじかよ)」


 フロムがニコに囁いてくる。


「(絶対に行きたくない小隊決定だな)」


「(フロム、聞こえるよ)」


 そんな事を言っていたフロムも、ジェシカ班長と共に名前を呼ばれる。


「ジェシカ・ハーベイ。フロム・ガーネット。両名の働きにより、貴賓客が被害もなく避難できたことを評価する。特にジェシカよ。貴公の具申には心を打たれた……よくぞ余を諫めた……感謝するぞ」


「ありがたきお言葉……」


「よってジェシカ・ハーベイをヴァルキュリア騎士団小隊長に任命する。そしてフロム・ガーネットよ。貴公のおかげで娘は救われた……感謝する。貴公には俸給一年分の褒賞を与える」


「御意」


 そして気づいてみれば、この場で名前を呼ばれていないのはニコだけになっていた。


 ◆


「ヴァルキュリア騎士団騎士、ニコレット・フォン・アスターハイム。前へ」


 最後にニコの名前が呼ばれる。


 ニコはドレスを身に纏っているので、国王陛下の前でカーテシーの姿勢をとる。


「ニコレットよ。よくぞ、娘を助けてくれた……聞けば、そなたは娘を庇い重傷を負ったと聞く……感謝する」


 そう言って国王陛下は椅子から立ち上がる。


 横に座っていた王妃陛下も一緒に立ち上がり、二人がニコの前まで歩いてくる。


「(えっ……何? 聞いてないよ、こんなのっ!?)」


 パニックになるニコをしり目に、国王陛下はニコを立ち上がらせると、その両手をしっかりと握りしめる。


「そなたには感謝してもし足りないほどの恩義が出来た。これは言葉に出来ないものだ」


「ありがとう、ニコレット。貴女のおかげで娘は無事に帝国へ嫁ぐことが出来ました」


 そう言って国王陛下夫妻がニコに感謝の言葉を述べる。


「そ、そんな……フラウ……フラウセリア様の為ですから、当然のことをしたまでです」


 ニコはあたふたしながら答える。


 すると国王陛下が優しく微笑みながら、ニコに語り掛ける。


「そなたの望むものを言って欲しい……余に出来る事なら何でも叶えてやるぞ」


「え、本当ですか? 何でも良いんですね」


 ニコが思わずそんな事を口走る。


「構わんよ」


 それを聞いて、ニコはしばし考え込む。


 そしてゆっくりと口を開いた。


 ◆


「国王陛下……わたくしが負傷したことは御存知の事と思います。実はこの傷跡で父と揉めまして……」


 周囲にいた者たちがぎょっとした表情になる。


 ニコがとんでもない事を言い始めたからだ。


 しかし、ニコは話すのを止めない。


「それで、こんな傷跡のある娘に良縁は無いから、修道院に行けと言われてしまいました」


 ニコがあっけらかんと話すが、国王陛下の顔に怒りが滲む。


「そんな酷い事を……そなたは何も心配する事はない。余が必ず良い伴侶を見つけてやろう」


「あ、いえいえ、そうではないのです。体に傷のある女性が疎まれるのも事実ですし」


 そう言うと王妃陛下が悲しそうな表情でニコを見つめる。


「そこで、王国内では良縁に恵まれないのなら、このまま騎士を続けるのなら……わたくしをフラウセリア様の元に送ってくださいませ」


「……フラウセリアの元へ……とな」


「はい。わたくしを『友』と呼んでくださったフラウセリア様の元に、わたくしを遣わせてください……それがわたくしの望みです」


 ニコははっきりと言い切った。


 国王夫妻はニコの言葉を聞いて驚いていたが、やがて穏やかに微笑むと二人が同時に頷いた。


「良かろう。そなたをフラウセリア付きの騎士と認め、早急に帝国に遣わす事を約束しよう」


 国王陛下の言葉が謁見の場に静かに響く。


「ありがとうございます。身命を掛けて、フラウセリア様に仕えます」


 ニコが頭を下げると、謁見の間に盛大な拍手が巻き起こった。


 ニコは振り返り、拍手をしてくれる人達に見事なカーテシーをして答えるのだった。


 ■エピローグ


 王都の城門。


 ニコは今、愛馬ノワールの背中の上に居た。


 周りにはジェシカ小隊長とフロムを中心に、二十人ほどのヴァルキュリア騎士団の騎士達が整列していた。


「ニコ……離れていても、お前はヴァルキュリアの一員だ……忘れるなよ」


「帝国は遠いからな……すぐには助けに行けないぞ?」


「大丈夫だよ。それよりフロムの方が心配だよ……フロム班長代行」


「ばーか」


 そう言ってフロムは背中を向ける。


 よく見るとフロムの肩が小刻みに震えている。


 そんなフロムの頭を優しく撫でるジェシカ小隊長。


「フラウセリア様に仕えるのだぞ……がんばれ」


「ありがとうございます……行ってまいります」


 ニコは馬上で騎士の礼をとる。


「ヴァルキュリア騎士団、騎士ニコレット・フォン・アスターハイムの帝国への旅立ちを祝し、全員抜刀っ!!」


 シャキンッ


 ジェシカの掛け声で、騎士達が一斉に剣を引き抜き、頭上高く掲げる。


 太陽の光が剣で反射し、キラキラと輝く。


「行ってまいります」


 整列する騎士達の中央を、ノワールに乗ったニコがゆっくりと進んで行く。


 騎士達の隊列を通り過ぎても、ニコは振り返らない。


 ただまっすぐに、道の向こうを見据える。


「待ってて。今から行くからね、フラウ」


 ニコの新しい旅が始まるのだった。



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