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第47話 舞踏会に忍び寄る影

 

 

 舞踏会場の外側。


 円形に繋がる廊下に、近衛騎士団の騎士達が警戒をしている。


 其処に中庭の方から、何やら喧騒が聞こえてきた。


「おい、何かあったのか?」


「分からんが……剣戟の音も聞こえるぞ」


「まさか、王城に賊が侵入したのかっ?」


「それはあり得ないだろう。各城門には騎士以外にも衛士達がいるんだ」


 廊下にいる限り、中庭の状況は分からない。


 小隊長は一瞬だけ迷った。


 持ち場を離れるわけにはいかない。だが、放置するわけにもいかない。


「三人連れて中庭を見てこいっ!!」


 小隊長クラスの騎士が集まった騎士達に指示を出す。


「はっ」


 指示を受けた騎士が、隣にいた騎士を誘い中庭に向かって駆けだして行く。


 彼らの背中を見送りながら、小隊長の胸には一抹の不安が過るのだった。


 ◆


 王城の中庭は近衛騎士団と黒ずくめの男達の戦いで、死屍累々の惨状になっていた。


 個々の力量では近衛騎士団が上だった。


 だが、黒ずくめの男達は一対一では戦わない。


 常に三人で一人を囲み、確実に数を減らしていく。


「くそっ、卑怯だぞっ!! 一対一で戦えっ!!」


 そう叫ぶ騎士の背後から、槍が突き出される。


「ぐああああっ!!」


「後ろからとか……卑怯者めっ……」


 そう言いながら騎士が崩れ落ちる。


 しかし、近衛騎士団もここを突破させるわけにはいかなかった。


「王宮には絶対行かせるなっ!!」


「「「おおっ!!」」」


 其処に舞踏会場の警護をしていた騎士達が駆けつける。


「な、何だこれはっ!?」


「味方が押されているぞっ!!」


「加勢しろっ!!」


 駆けつけた騎士達が抜刀して黒ずくめの男達に斬り掛かっていく。


「くっ……敵の数が増えたかっ」


「こうなれば……おい、舞踏会場に向けて一気に突き進むぞっ」


 黒ずくめの男達は、小さく頷くと増援の騎士達に向かって駆けだす。


「せめて王族の一人にでも、鉄槌を下すのだっ!!」


 彼らは戦いながら、王宮の入り口へと押し込んでいく。


 ◆


 アグネスは手を叩きながらフラウセリアとレオンハルトに声を掛ける。


「素晴らしいダンスでした。そしてご婚約おめでとうございます、フラウセリア王女殿下、レオンハルト様」


 そう言ってアグネスは綺麗な貴族の礼をする。


 二人は突然話しかけてきたアグネスを訝しむが、そんな表情も見せずにレオンハルトが礼を言う。


「ありがとう。貴殿は?」


「私はフランツ侯爵嫡男リヒターと申します」


「今宵の様なめでたい日に、王女殿下とダンスをして頂く栄誉を与えて戴けませんでしょうか?」


「まあ……そんな」


 フラウセリアは驚いた表情でレオンハルトを見る。


 レオンハルトはフラウセリアに優しく微笑む。


「そうだね……今宵はフラウセリア嬢が臣下と触れ合える最後の日……私は構わないよ」


「レオンハルト様……」


 フラウセリアは少しだけ不安そうな表情を浮かべる。


 そんなフラウセリアの手を、レオンハルトが優しく握る。


「大丈夫。君の自慢のヴァルキュリアの騎士達も見守っているのだろう? 行っておいで」


 その言葉にフラウセリアが小さく頷く。


「ありがとうございます……末代までの語り草にさせて戴きます……」


 アグネスは深々と頭を下げると、右手を差し出した。


 フラウセリアが、その掌にそっと手を重ねる。


 その瞬間、楽隊の指揮者が指揮棒を振った。


 次のワルツの曲が舞踏会場に響きだす。


 ◆


 舞踏会場内の貴賓席。


 国王陛下と王妃陛下がダンスを踊る貴族たちの姿を見ている。


 其処へ侍従長が静かに歩み寄り、国王陛下の耳元に囁く。


「王都内で反乱が発生した模様です……しかも、一部の賊が王城に侵入した模様です」


 その言葉に国王は侍従長の顔をじっと見つめる。


「騎士団たちは何をしておる?」


「はい。王都内の反乱には第一騎士団とヴァルキュリア騎士団が、王城内では近衛騎士団が対応にあたっておりますが……状況が芳しくありません」


「うぬぅ……」


 国王はぎゅっと拳を握りしめる。


「……陛下……状況によりましては避難して頂くやも……」


「駄目だっ!!」


 国王は侍従長を一喝する。


「この場には外国からの使節団も来ておる……避難などという無様な事が出来るかっ!!」


「……しかし」


「くどい……何としてでも鎮圧せよ……そして気取られるな」


「御意」


 侍従長はそう言って奥の扉の向こう側へ姿を消す。


 その様子を横目で見ていた王妃陛下が小さくため息を漏らす。


「(会場内はヴァルキュリアの騎士達に頼る事になりそうね……)」


 王妃陛下は表情を崩さず、ダンスに興じる貴族たちを見つめるのだった。


 ◆


 ニコが持ち場に戻った時、会場の音楽が止む。


 フロアの中央を見ると、フラウセリアとレオンハルトが向かい合って、お辞儀をしている所だった。


「ああ……フラウ、幸せそうだな……良かった」


 その時、フラウセリア達に一人の青年貴族が近づいて行くのが見えた。


「あれ……フラウたちには近づけない様に先輩たちがガードしている筈じゃ……」


 慌てて周囲を見回すと、先輩騎士達は何故か会場の隅に居て、貴族の青年に話し掛けられていたり、困ったような表情を浮かべている。


「(えっ……何が起きているの……)」


 ニコの胸に強い不安が過る。


 そうこうしているうちに、貴族の青年がフラウセリアに手を差し出す。


 フラウセリアが手を重ねると同時に、会場内に音楽が響き始める。


「あ、あれっ……まさかっ」


 ニコはフラウと踊る青年の顔を見つめる。


 その中性的な顔立ち、髪の色……男性の姿をしていても、見間違えることが無い。


「……アグネス……何で……」


 ニコの呟きは音楽でかき消されるのだった。



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