第46話 舞踏会の違和感
王宮内舞踏会場。
フロムとニコが怪しい動きをする青年の後を追いかけている時。
一人の青年貴族が、飲み物を受け取るために、メイドの一人に近づく。
「すまないが、酒精の無いものを頂けるかな?」
彼はそう言って、一束だけ編み込んだ髪を撫でる。
その姿は細身で、かつ中性的な顔立ちが印象的だった。
メイドは思わず頬を赤らめながら、葡萄のジュースをグラスに注ぐ。
「こ。これなら酒精は入っておりませんので……」
「そう、ありがとう」
青年は軽く首を傾げて、片目を瞑って見せる。
「はうっ……」
メイドの動きが止まる。
その間に青年はグラスを持って会場を見つめる。
視線の先には、似たような背格好の青年を追いかける、フロムとニコの姿があった。
「悪いけど……失敗する訳にはいかないんだ……」
青年はそう言ってグラスの中身を飲み干すのだった。
◆
フラウセリアとレオンハルトが躍るワルツの曲が終わりを告げる。
フラウセリアとレオンハルトが互いに美しい姿勢で礼をすると、会場内から割れんばかりの歓声が巻き起こる。
レオンハルトはフラウセリアの手を取りながら、大きく良く通る声で会場内の観客たちに話し掛ける。
「今宵はわたくし達の為に御参集して頂き、深く感謝します」
「わたくし達と喜びを共有して頂くために、次の曲は皆さんと共に踊らせてください」
レオンハルトがそう言って、楽団の指揮者に合図をする。
指揮者が指揮棒を振ると、先程よりも軽快な曲が流れ始める。
レオンハルトがフラウセリアの前でダンスに誘うと、フラウセリアが体を預け、二人のダンスが再開される。
それと同時に、周囲の貴族たちも各々のパートナーを誘い、会場の至る所でダンスが始まる。
色とりどりのドレスが踊りの動きに合わせて華麗に靡く。
男性は女性をスコートしながら、ステップを踏む。
会場内にはダンスに興じる貴族たちの輪が広がっていく。
フロムとニコはダンスを踊る貴族たちに進路を塞がれ、思うように進むことができない。
「フ、フロムッ」
「ニコは持ち場に戻れっ!!」
「う、うん」
二人は踊る貴族たちを避けながらなんとか進んで行く。
そんな二人を、冷静に見つめる者がいる事に、二人は気付いていなかった。
◆
黒ずくめの男達が王城から王宮を目指す。
途中にいた近衛騎士達が、男達の接近に気付く。
「何奴だ、止まれっ!!」
しかし、黒ずくめの男達は一斉に剣を抜いて、騎士達に斬りかかった。
彼方此方で、剣戟が始まる。
「く、くそっ!! 強いぞ」
「応援を呼べっ!!」
近衛騎士団の騎士達は、一人一人の戦闘能力こそ高いが、このような想定外の状況への対応能力が低い。
「戦いづらい……このっ大人数で」
「貴様ら、正々堂々とっ……うぎゃあああっ!!」
一人、また一人と近衛騎士達が討ち取られていく。
「三人で一人にあたれっ、一対一では戦うなよっ!!」
リーダー格の男が、黒ずくめの男達に指示を出す。
「目的は騎士を倒す事ではないっ!! 王宮を目指すのだっ!!」
そう言って、黒ずくめの男達はあらかたの騎士を倒すと王宮目指して駆けだして行くのだった。
◆
舞踏会場。
多数の貴族が踊る中、フロムはやっとの思いで青年に追いつく。
「あ、あの、失礼ですが……」
フロムが青年に声を掛ける。
「はい?」
会場の隅で、フロムと青年が向かい合う。
「(見た事のない青年だ……)」
「何か御用ですか?」
青年は爽やかな笑みを浮かべてフロムに問いかける。
「率直にお伺いします……何故、会場をうろつき回っているのです……正直、動きが怪しいです」
フロムがそう言い切ると、青年は驚いた表情を浮かべる。
「いやいや、そんなつもりはなかったんだよ……こうして動き回っていれば、必ず女性に話し掛けられると聞いたものでね……」
「はい?」
「いやあ、事実こんな綺麗な女性に話し掛けられて……あの男の話は本当だったんだね」
「え……それは……どういう事……」
フロムの目の前の青年は、嬉しそうにフロムの顔を見つめる。
「そろそろ曲が終わりそうだ……どうだろう、次の曲はわたしと踊ってくれないか、綺麗なお嬢さん」
青年がフロムにダンスを申し込む。
その瞬間、フロムが会場の中央に振り返る。
フロアの中央では曲に合わせて踊るフラウセリアとレオンハルトの姿が見える。
そして曲が静かに終わり、二人が華麗なポーズをとってダンスが終わる。
周囲から盛大な拍手がまきおこり、二人が互いに礼をする。
其処へ一人の青年が二人に近づいていく。
フロムはその青年を見た瞬間、背中を冷たいものが伝い落ちる。
「まさか……あれは……アグネス……」
其処には、満面の笑みを浮かべたアグネスの姿があったのだった。




