鶴千代殿の思い(四)
「鶴千代殿が、大きな強みをお持ちだというお話です」
「強み……? でも、私は無力で……」
「『鶴千代殿は、ご自身の良い所はいかなることと思われますか?』」
「私の? ……っ!」
目が覚めたらしい。私の問いが、初昇殿のあの時と同じことに気づいたのだろう。
「『しきたりを正しく知っていること』ですか?」
「そのとおりです。それから、関白殿のご子息、ということも」
「それは……っ」
鶴千代殿の顔が曇る。
「よいですか」
私は師のように、ゆっくりと言葉を送る。
「たとえ私が、鶴千代殿と同じく礼儀正しくしたとて、多少の評判になるだけです。その訳は、私の父が従五位上ゆえ」
「……はい……」
家格の違いにはっきりと返答しては申し訳なく思うのか、ためらいがちに頷く鶴千代殿。
「されど、鶴千代殿の父君は朝廷の一の方でいらっしゃいます。そのご子息でいらっしゃる鶴千代殿が、殿上童として礼儀正しくいらしたらいかがでしょう?」
「……えぇと……多少は、注目される……?」
「多少どころではありませんよ」
鶴千代殿の目を、見通すように見つめる。
「鶴千代殿の名を上げることは、すなわち父君の名を上げることとなります」
「そこまで……」
「はい。これは客観的事実です」
決して贔屓目に見ている訳ではない。
「ゆえに鶴千代殿は、これまでどおりに。西宮記にて学んでいらしたこと、この半年で身に着けてこられたことを、大内裏の方々に見せてさし上げてください」
「それだけ……?」
「はい。特別なことはしなくてよいのです。ありのままの鶴千代殿が素晴らしいのですから。かような愛らしさが加われば、さらに名が上がることでしょう」
これも贔屓目に見ている訳ではない。〝関白の子〟と驕ることなく、誰に対しても礼儀正しい鶴千代殿が、名を上げぬわけがないのだ。
「冗談は、やめてください」
「冗談などではありませんよ」
私は目の前の黒髪を撫でた。
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次回更新は、5月8日23:00頃を予定しております。
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