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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
【改稿中】四章 保元二年(一一五七)一月~十二月

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鶴千代殿の思い(四)




「鶴千代殿が、大きな強みをお持ちだというお話です」

「強み……? でも、私は無力で……」

「『鶴千代殿は、ご自身の良い所はいかなることと思われますか?』」

「私の? ……っ!」


 目が覚めたらしい。私の問いが、初昇殿のあの時と同じことに気づいたのだろう。


「『しきたりを正しく知っていること』ですか?」

「そのとおりです。それから、関白殿のご子息、ということも」

「それは……っ」


 鶴千代殿の顔が曇る。


「よいですか」


 私は師のように、ゆっくりと言葉を送る。


「たとえ私が、鶴千代殿と同じく礼儀正しくしたとて、多少の評判になるだけです。その訳は、私の父が従五位上ゆえ」

「……はい……」


 家格の違いにはっきりと返答しては申し訳なく思うのか、ためらいがちに頷く鶴千代殿。


「されど、鶴千代殿の父君は朝廷の一の方でいらっしゃいます。そのご子息でいらっしゃる鶴千代殿が、殿上童として礼儀正しくいらしたらいかがでしょう?」

「……えぇと……多少は、注目される……?」

「多少どころではありませんよ」


 鶴千代殿の目を、見通すように見つめる。


「鶴千代殿の名を上げることは、すなわち父君の名を上げることとなります」

「そこまで……」

「はい。これは客観的事実です」


 決して贔屓目に見ている訳ではない。


「ゆえに鶴千代殿は、これまでどおりに。西宮記にて学んでいらしたこと、この半年で身に着けてこられたことを、大内裏の方々に見せてさし上げてください」

「それだけ……?」

「はい。特別なことはしなくてよいのです。ありのままの鶴千代殿が素晴らしいのですから。かような愛らしさが加われば、さらに名が上がることでしょう」


 これも贔屓目に見ている訳ではない。〝関白の子〟と驕ることなく、誰に対しても礼儀正しい鶴千代殿が、名を上げぬわけがないのだ。


「冗談は、やめてください」

「冗談などではありませんよ」


 私は目の前の黒髪を撫でた。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、5月8日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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