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最凶迷宮ラビリントス〜待ってても誰も来ないので迷宮自ら迎えに行きます〜  作者: いおなずん


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第18話 間話 重い雨


 僕は名前はグレイ。 今は亡き両親から受け継いだ農園を妹のエリゼと2人で切り盛りしていたんだ。 

 でもある日、道端で倒れていた不思議な女の子を助けた所から人生は変わっていったんだ──


 その女の子は実は太古の迷宮でとっても凄い女の子だったんだ! その後やってきた強盗達を簡単にやっつけていたから!!


 ちょっと自分でも何を言ってるか分からないけど……



 朝になれば畑へ出て、土を耕し、種を蒔き、伸びてきた作物の世話をする。

 そして……僕と一緒に大量のスケルトン達が黙々と働いている。


「そこ、スケ次郎とスケ三郎はもう少し深く掘ってください」


 スケルトン達を前にして指示を出しているのは、現在の僕の同居人であり、この農園の迷宮主でもあるヘビーレインさんだ。


「名前……付けているんですね」


 いつもは何を考えているのかわからないヘビーレインさんだけれど、スケルトンさん達に名前を付けているなんて、ちゃんと個体を区別してるんだと感心する。 僕には違いが分からないけれどいつか区別できるようになるかな?


「いえ、今適当に付けました。 あれ? あれはスケ太郎でしたっけ?」


「そうですか……」


 どうやら僕の勘違いだったようだ……


「カタカタカタ」


「はい、そこは良いですね。そのままお願いします」


「カタカタ」


 言葉が通じているのかいないのかは分からないけれど、スケルトン達は素直に鍬を振るっている。

 見慣れてしまえば、なんとも平和な光景だった。


「しかし……」


 僕はちらりと隣を見る。

 長い黒髪をキチンとまとめメイド服を着ている。 整った顔立ちはどこか儚げで、それでいて近寄り難い雰囲気を持つ美人。


 ヘビーレインさんは今日も淡々と農作業を続けている。


「どうかしましたか、グレイ様?」


「い、いえ! なんでもありません!」


 声をかけられ思わず背筋が伸びる。

 未だに慣れない、こんな美人と二人で暮らしているという事実に。

 僕の精神は一向に追いついていなかった。


「そうですか」


 ヘビーレインさんは特に気にした様子もなく、再び畑へ視線を戻す。


「……」


「……」


 僕も黙って作業を続ける。

 

 妹のエリゼはラビリントス様を追いかけて出て行ってしまったがこんな生活も案外、悪くない。

 そう思い始めていた、その時だった。


 ヘビーレインさんが突然顔を上げた。


「グレイ様」


「はい?」


「オークが三十六オークほど侵入して来ましたが、どうしますか?」


「……えぇ!?」


 僕は思わず鍬を落としてしまう。


「オーク!? オークが来たって!? っていうか、オークって単位はオークなんですか!?」


「はい、オークは一匹二匹と数えるほど小さくありませんし……一頭二頭だとブタさんみたいだし、ブタさんに失礼じゃないですか?」


「はぁ……」


「二足歩行するとはいえ、一人二人だと人間みたいですし……なので一オーク、二オークです」


「あのぅ、普通に一体二体じゃ駄目なんですか?」


「…………グレイさん、そういう所ですよ」


 グレイに指摘されヘビーレインは少し頬を膨らませるとジトっとした瞳を向けた。


「えっ!? えっ? 何がです!?」


 僕には何がいけなかったのか全く分からないけど、ヘビーレインさんのふくれた表情は珍しくてそんな顔も可愛いなと思ってしまう。


 そんな僕達の会話をよそに、畑の向こうから地響きが聞こえてくる。

 ズシン、ズシンと大地が揺れ、やがて木々の隙間から巨大な影が現れた。


「ブモォォォォッ!!」


「ほ、本当にオークだぁぁぁ!?」


 丸々と太った豚面のモンスターが次々と歩いてくる。 手には太い棍棒を持ち簡素な腰蓑を着けているだけだ。


「ヘビーレインさん! スケルトンさん達が!」


 オーク達が畑へ雪崩れ込んでくるとスケルトン達が応戦する。


「カタカタカタ!」


「ブモォッ!」


 スケルトンが果敢に立ち向かうが、オークの棍棒が振り下ろされた瞬間、一体のスケルトンが粉々に砕け散った。


「スケルトンさぁぁぁああん!?」


 続いて二体、三体と次々に砕かれていく。

 骨が飛び散り、土の上に白い粉となって落ちていく。


「ヘビーレインさん! スケルトンさん達がやられています!」


「ですね」


「冷静すぎません!?」


「骨粉になって畑の良い肥料になりそうです」


「いやいや、骨粉って! スケルトンさん可哀想!」


 僕が叫んでいる間にも、スケルトン達は次々と破壊されていく。



 いつも畑仕事を手伝ってくれているスケルトンさん達は12体のはず、もうすぐみんなやられてしまう!!


 ところが──


 ふと気付くと、畑の奥から新しいスケルトンさん達がゾロゾロと現れていた。


「……あ、あれ?」


 

 次々と地面からスケルトンが這い出してくる。


 カタカタカタカタ


 ヘビーレインさんを見ると、彼女は迷宮管理用の水晶へ指を伸ばし、何やら高速で連打していた。


「な、何やってるんですか?」


「スケルトンの生成です」


「生成?」


「スケルトンは生成に必要な魔力が少ないですからね。土地に蓄積された魔力だけでも、延々と生成できます」


「延々と!?」


「はい」


 新たに生まれたスケルトンさん達は、生成されたそばからオーク達に突撃していく。


「カタカタカタ!」


「ブモォォォ!」


 ガシャァン!

 バキィン!

 ザラザラ……


「スケルトンさぁぁぁああん!?」


 僕の叫びも虚しく、スケルトン達は次々と骨粉になっていく。 まるで自殺しに行ってるようだ。 


「……あぁ」


 思わず膝をつく。


「スケルトンさん達……いつも畑仕事を頑張ってくれていたのに……あれ? そもそも、このスケルトンさん達って誰かの死体とかから作ってるんですよね?」


「誰かの死体?」


 僕の質問にヘビーレインさんはキョトンとした顔で首をかしげる。


「はい」


「いえ、スケルトンはスケルトンですよ」


「……え?」


「スケルトンとして生まれ、スケルトンとして働き、スケルトンとして死んでいく。ただのスケルトンです」


「スケルトンとして……生まれる?」


「はい」



 ラビリントス様の眷属というのは、どうも僕の常識では測れないらしい。

 僕は考えるのをやめた。


「……そういうものなんですね」


「そういうものです」


 とりあえずそれで納得することにした。

 しかし、そんな僕の諦めを嘲笑うかのように、オーク達はスケルトンを次々と倒しながら農園の奥へと進んでくる。


「ヘビーレインさん!」


「はい」


「オーク達が奥まで入って来ました!」


 僕は水晶を覗き込む。

 数体のオークが既に畑の中央まで侵入していた。


「他にもっと強いモンスターとか出せないんですか!?」


「出せない事はありませんが……」


 ヘビーレインさんは困り顔で少し考える。


「オークごときに強いモンスターを使うなんて、ここを任せて頂いたのにラビ様に顔向け出来ません。 今ある戦力で撃退します」


「いやいや! 言ってる場合ですか!? こっちまで来ちゃいますよ! 今ある戦力って……スケルトンさん以外には……」


 ふと、視線を感じて顔を上げるとヘビーレインさんが僕をじぃーーーっと見ている。


「僕!? いやいやいやいや!無理無理無理無理! 僕、剣も持った事ないですもん!」


「いえ……」


 ヘビーレインさんは困ったように眉を寄せる。


「本当はクソ迷宮になってしまうので嫌なのですが……」


「クソ迷宮?」


 ヘビーレインさんは大きく息を吐くと諦めた様に肩を落とす。


「はぁ……雑魚モンスターしか出ない迷宮だったのに、ボスだけは異常に強い。 そんなの攻略する側からすれば、ただの初見殺しです」


「そ、それは確かに……」


 いや、でもそんなことを言っている場合ではない。


「私が出るしかなさそうですね」


「へ、ヘビーレインさん、戦えるんですか?」


「こう見えて私、ラビリントス様の迷宮の守護者をやっているんです」


 守護者とは、ミノタウロスやニーアの様な階層主とは違いラビリントスや迷宮自体を守る者達だ。


 ヘビーレインさんは静かに歩き出すとオーク達の前へ姿を現した。


「ブモ?」


「ブモォォォォッ!!」


 巨大なオーク達が一斉に吠える。

 その光景を、僕は離れた場所にある管理水晶を通して見ていた。


「……はぁ」


 ヘビーレインさんが小さくため息を吐く。


「豚畜生が私の手を煩わせるなんて……」


 彼女は右手を空へ掲げた。


【沈め、沈め、昏きを抱いてとこしえに這いつくばれ】


 瞬間。

 空が暗くなった。

 雲が発生したわけではない。

 空中に巨大な黒い球体が浮かんでいた。

 それはまるで、世界に開いた穴のようだった。

 次の瞬間、黒い雨が降り始めた。


 ポツリ──


 一粒の雨がオークの肩に触れる。


「ブモ?」


 オークの動きが鈍くなる。


 続けて二粒、三粒──

 黒い雨は瞬く間に豪雨となり、農園一帯へ降り注いだ。


「な、なんだ……これ……」


 雨粒が触れるたび、オークの身体が沈んでいく。

 一粒触れるごとに、その重量が増しているようだ。

 

 無数の雨粒が降り注ぐ。

 やがてオーク達は立っていることすら出来なくなり、呻き声だけを上げて地面に這いつくばる。


 それでも雨は止まない。


 黒い雨が大地を叩き続ける。

 そして……雨が止んだ。


 ものの数分だっただろう──そこには、何も残っていなかった。


 オーク達がいた場所には、黒い染みだけが残っている。


「…………」


 僕は水晶を見つめたまま固まっていた。

 しばらくして、ヘビーレインさんが戻ってくる。


「終わりました」


「……はい」


「では、畑仕事を再開しましょうか」


「……はい」


 ヘビーレインさんは何事も無かったように作業を再開する。


 僕は黙って鍬を拾った。

 相変わらず、この人は何を考えてるのか分からない……


 でも――


「……ヘビーレインさん」


「はい?」


「あの……ありがとうございました」


「?」


 ヘビーレインさんはキョトンと首を傾げた。


「私はラビリントス様の迷宮を守っただけですよ?」


「両親が残してくれた農園です」


 僕が笑うと、ヘビーレインさんは少しだけ目を細めた。


「……そうですか」


 ほんの僅かだったけれど、彼女も少しだけ笑ったように見えた。


 そして僕達は、再び畑仕事へ戻った。

 スケルトン達が撒き散らした骨粉。

 そしてオーク達の残した養分。

 それらを吸い込んだ畑の土は、以前よりもずっと豊かになっていた。


「……よく育つと良いですね」


「はい!」


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