第12話 迷宮都市ファズオラ 2
「こちらなどは如何でしょう!」
エリゼが普段から贔屓にしているというショップへとやってきていた。
「わぁ! やっぱりラビちゃんに似合うなぁ!」
エリゼと若い女性の店員が次々服を持ってきては代わる代わる着せ替えさせられていく。
「…………」
最初こそは面倒だなんだと抵抗していたラビリントスであったが現在は死んだ目して鏡の前で固まっていた。
シンプルな白いワンピースに赤いリボン。
「かぁわいいいい!!」
エリゼが鏡の前に立つラビリントスを見て興奮する。
ショップの店員が大人っぽい青いドレスを手にやってくる。
「お客様にはどことなく気品が感じられますのでこちらのドレスなんかもお似合いですぅ!」
「たしかに! でもやっぱりかわいい方がいいなぁ」
そう言ってエリゼが選んできたのは、ふんだんにフリルの付いた黒のゴシックドレス。
「きゃーーーー!! 最高! ラビちゃんかわいい!!」
「まぁ!お客様! まるでお人形さんみたいですぅ!!」
エリゼと店員は2人して興奮してテンションが上がっている。
「お客様は可愛らしいので何でもお似合いですわね!」
その後も何着も色々な衣装を着せ替えさせられてラビリントスは見るからにげっそりとしていた。
「…………グラよ」
「はいッス!」
「ショッピングというのはこんなにも疲れるものなのか……まだ英雄や英傑を100人相手にしてた方がよっぽどマシじゃ……」
結局、白いブラウスに黒いハイウェストスカートに落ち着いた。
エリゼ的にはゴシックドレスが良かったようだが、ラビが動きづらいと断固として拒否していたのだ。
「うむ」
ラビは満足そうに頷く。
「これならばまぁ悪くないか」
「はぁはぁ……とっても似合ってるわ」
エリゼと店員も鼻息荒く、どこか満たされた顔をみせていた。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
ショップを出た後は街を歩きながら様々な露店を見てまわる。
「ラビちゃんそういえばボゥモゥの串焼き食べてみようか!」
「串焼き!」
鼻腔をくすぐる美味しそうな匂いにエリゼが提案すると、食いついてきたのはグラだった。
「もーグラ先輩はちゃんと隠れていてね! 後でちゃあんと食べさせてあげるから!」
ラビリントスの胸元からにゅるっと飛び出してきたグラをエリゼが急いで押し戻す。
「おろろ〜んッス……」
「ふむ。 そういえば先程の服の代金もエリゼに出してもらっていたな。 待っておれ、今金を渡そう」
「えっ? いいって! てかラビちゃんお金持ってるの?」
ラビリントスが虚空へと手を突っ込むと、取り出した手には眩いばかりの金貨や宝石、ネックレスなどの装飾品が握られていた。
「わーわーわー!! ラ、ラビちゃん! こんな街中でそんなの出さないの! 見つかったら大騒ぎになっちゃうわ!」
無造作に財宝を取り出したラビリントスの掌をエリゼは慌てて隠す。
「それに、ラビちゃんの持ってる金貨はファズオラで見た事ないから使えないかも……」
「貨幣も時代で変わるものか……そうか、それならば……」
何かを思いついたラビリントスは辺りを見渡すと、人気の無さそうな路地裏へと入っていく。
「ラビちゃん? どこいくの?」
「まぁ、見ておれ」
そう言うと路地に光るゲートが現れる。
すると、直ぐに扉は開かれると……
「ラビリントス様、お呼びでしょうか」
ゲートから短い白髪を綺麗に撫で付け、黒い燕尾服を着こなした老紳士が現れる。
そして慇懃な態度で深くお辞儀をする。
「ヴァンスよ、お主に仕事を与える。 我の宝物庫から必要な分持って行って構わぬ、この都市で使える貨幣に変えてくるのじゃ」
「畏まりました、すぐに行って参ります」
ヴァンスはそう言うと光る扉を開き消えていった。
「はぇ〜ヴァンスさんってめちゃくちゃ仕事出来そうだよね!」
「うむ。 あやつに任せておけば問題は無いじゃろう。 さて、ヴァンスが帰って来るまで軽く食べ歩きと行こうか」
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
「ラビリントス様、当面の資金として5億ギールほど用意して参りました」
「ご、5億ギール!?」
戻ってきたヴァンスがその成果を口にすると、エリゼが大袈裟に驚いてしまう。
「それは多いのか?」
「お、多いなんてもんじゃないよ! だって5億だよ!?」
「そうですね。 ほとんどの物ならば買う事が出来る程の金額でしょう。 幸いにも迷宮都市というだけあって、宝物庫にあった財貨も迷宮からの出土品といえば問題なく買い取りして頂けました」
ファズオラは巨大な迷宮都市だけあり、今回ヴァンスが持っていった金銀財宝以外にも、魔物の素材や魔石、アーティファクトなどが日常的に持ち込まれている。
「ところでラビリントス様。 本日の宿などはお決まりになってますでしょうか?」
「いや、まだじゃな」
「それならば、私に妙案がございますので任せて頂けますでしょうか?」
「ほぅ。 妙案とは?」
「ではラビリントス様、私について来て下さい」
ヴァンスは一度深くお辞儀をするとニヤリと笑みを見せる。
「わぁ、こっち行くとファズオラに入っちゃいますよ?」
ファズオラは国ではなく、迷宮攻略者と商人達によって築かれた自治都市である。そのため周辺の土地には正式な都市区画として認められていない集落も多く、街は今なお外側へと広がり続けていた。
ヴァンスの後を付いてラビとエリゼは歩いて行くとファズオラと外縁部との境界である川にたどり着く。
川を渡るための巨大な橋の前には武装した兵士が屯しており、出入りする人々の列が見える。
よく見れば川の向こう側には兵士の詰所のような物も見える。 ここは関所の様なものなのだろう。
ファズオラの中へと入って行く人々は門番へと通行料を払っているようだった。
「3人です」
「さ、3人で9000ギールになります!」
兵士といっても荒くれ者の集まる街だ、自ずとガラの悪い若者達だったが、ヴァンスを前にすると直立して緊張しているようだ。
キッチリとした燕尾服を着た執事にシンプルだが品の良い服装の令嬢。 侍女は少し芋っぽいがお貴族様で間違い無かろうと普段は横柄な兵士達も襟を正していた。
「これでお願いします。 お釣りは結構です」
「あ、ありがとうございます!」
ヴァンスは兵士へ2万ギールほど渡すと兵士は喜び大きな声でお礼を告げる。
「ヴァンスさん、なんであんなに多く払ったんですか?」
「ああいった兵士達の心象を良くしておくのも後々何かの役に立つかもしれません。 金のある貴族だと思わせておけば色々と融通が利くようになりますからね」
「ふん。 それで我らはどこに向かっておるのじゃ?」
「先程換金の折に巡ってみたのですが……ラビリントス様、お屋敷を購入してみてはいかがでしょう?」
「屋敷じゃと?」
「ええ、このファズオラは多くの冒険者が集まる街。ここに拠点を持てばラビリントス様の英雄探しも捗るかと」
ヴァンスの進言にラビリントスは「なるほど」と呟きニヤリと笑った。




