第11話 迷宮都市ファズオラ
ファズオラへと続く街道を少し外れた木立の中。
大きな切り株へ腰掛けたラビは、水晶玉を覗き込みながら満足そうに笑っていた。
「ラ、ラビちゃん、あの人達助かったんだね! 良かったぁ」
「フン、まぁまぁじゃな。 なかなか面白い奴らじゃ」
「あのおっさんは中々やるっスね! まぁオイラの敵じゃないっスけど」
グラが粘体をグググッと伸ばすとまるでシャドウボクシングの様な動きをする。
「くくくっ、若い女も男も良かったが、我が1番気に入ったのは…………若い男の方じゃな。 あれは面白い」
「あるぇ? やっぱりッスか? 実はオイラもそう思ってたっス!! いやぁ、それにしてもあの小娘ッチはまた余計な事しやがりましてっっスね! 今度会ったら先輩としてキッチリカッチリ説教してやるっスからね!」
グラの言う小娘とはもちろんニーアの事だ。
グラはラビリントスの第一の従者を自称している。 そのため、自分以外のラビに近しいニーアやヘビーレインの存在が気に入らないのだった。
「ははは、グラちゃんは先輩なんだねぇ。 ふふっ」
「そうッスよ! オイラの方がラビ様との付き合いが長いンス! なんせラビ様が最初に創造した原初のスライムとはオイラの事ッスからね! お前もラビ様の従者になるならオイラの後輩になるんスよ!」
「わぁ、凄いんだねぇ! じゃあグラ先輩って呼んでいいかな?」
「モチロンッス! フフン、お前はなかなか見所ありそうッスね!」
エリゼがグラを小さい子供の相手をするように優しく会話を合わせていると、グラは上機嫌になっていく。
ヘビーレインやニーアなどの迷宮内のメンバーはグラを先輩とは決して言わない為、ほぼ初めて先輩と言われたグラはその粘体を弾ませてピョンピョンと跳ねている。
「そういえばラビちゃん」
「なんじゃ?」
徐に空間に亀裂を生じさせ、水晶玉を迷宮内の宝物庫へと片付けたラビは既に街道をファズオラへと向かって歩き出していた。
「さっきの冒険者の人達は迷宮の攻略に失敗したって事なのかなぁ?って思って」
「ん? 何故じゃ。 生きて出ているし、何より試練をクリアしておる。 最後にチャチャが入ったが間違いなく攻略したと言って良いだろう。 まぁ、まだレベル1をクリアしたに過ぎん。 だが、中々の原石じゃ。 上手く育てれば良い所まで行くんじゃないか」
「やっぱりクリアで良かったんだね。 なんなクリア報酬とか渡してないからクリア扱いじゃないのかなって思って」
「んん? クリア報酬……渡したじゃろ? ほら、あの銀装…………あっーーーー!! そうじゃった! 最後に渡そうと思ってたがニーアの奴がちょっかいかけて来たからすっかり忘れておった!」
悠久の時を生きるラビリントスにとって人の一生などあっという間に過ぎ去るもの。
だからかラビリントスは時たま素質のある冒険者を試し、導き、育成する。
そして強力なアーティファクトを与え、人類にとっての希望──英雄や英傑、勇者として育った後に喰らい尽くす……それを暇つぶしとしていた。
「まぁ、良い。 どうせ、あやつ等にはまた直ぐに会うじゃろう。 その時にまとめて渡してやろう。 それよりもファズオラはまだか? 我はお腹が空いてきたぞ」
「あはは、もうお腹空いちゃったかぁ。 ファズオラはまだまだだけど、もう少ししたらお弁当にしようか!」
⭐︎⭐︎⭐︎
2日後──
ラビ達はようやく迷宮都市ファズオラの東側外縁部へと辿り着いていた。
「ほぉ……」
ラビは思わず感嘆の声を漏らす。
遥か彼方まで石造りの街並みが続いていて、巨大な城壁は存在しないが代わりに、住宅や商店が迷宮を中心として同心円状に広がり続け、今なお街は外へ外へと膨張していた。
「人が多いな」
「うん!」
エリゼが嬉しそうに頷く。
「ここが迷宮都市ファズオラ……の外縁部。 ファズオラの周りにどんどん人が住み着いて勝手に広がってるんだって」
「外縁部?」
「ファズオラは自治都市なんだけど、それでも明確に線引きがあって、この先に川があるんだけど、それよりも向こう側がファズオラ、こっち側はただの集落なんだって」
そう言ってエリゼが指差した先には巨大な荷馬車の列、武装した冒険者、露店で叫ぶ商人。
「こっち側でも充分そこらの街よりも大きいんだけどね。 私達の農園の作物もこっちに卸してるの」
「美味しそうな匂いがするッス! 後輩買って来るッス!」
グラがラビの横をぴょんぴょん跳ねる。
「あれはボゥモゥの串焼きだね……って、ああっ!」
エリゼが慌ててグラを抱き上げた。
「だ、駄目駄目!」
「どうしたんじゃ?」
「街でスライムが歩いてたら魔物が出たって大騒ぎになっちゃうよ!」
「あるぇ……」
グラがしょんぼりと縮こまる。
「ふむ、ならば我の服に入っておれ」
そう言ってラビはスカートを少し摘んで持ち上げる。
「ラビ様ぁ!」
グラは嬉しそうに飛び込み、そのまま服の中へ潜っていった。
「んっ……」
「それよりラビちゃん」
エリゼは改めてラビを見た。
現在はエリゼのお古のワンピースを着ているが土埃で汚れ、サイズも少し大きいようだ。
「服、新しくしよう?」
「服?」
「もっとかわいい服にしよう」
「服などなんでも良いだろう」
「そうも行かないの! ラビちゃんかわいいんだからサイズの合ってないそんな服じゃ却って目立っちゃうよ」
半ば強引に手を引かれ、ラビは服屋へと連れて行かれた。




