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それでも4月がやってくる

これで最後です。

 3月31日。緊張しながら就寝した恭子ははっと目が覚めた。目覚ましの音が鳴り響いている。枕元に手を伸ばして目覚まし時計を止めた。7時半だ。


 ちゃんと、次の年度になったかしら。


 恭子は1人で身支度を整えると、リビングに向かった。父はすでに出社してしまったようで、お手伝いさんしかいなかった。朝食を高速で済ませると、恭子は食器を運び出そうとするお手伝いさんに尋ねた。


「すみません。新聞はありますか?」


 もちろん、ないわけがない。恭子は新聞の日付を確認する。


「4月1日……」


 いつも、気づけば今までと同じ年度の4月1日になっていた。大学に問い合わせても、時報を聞いても、同じ1年が繰り返された。そのことに気付いた時は恐怖したものだ。


 年度の方に眼を動かしていく。そして、恭子は気が抜けて椅子に寄りかかった。


「良かった……!」


 ちゃんと、次の年度になっていた。つまり、ループを抜けたせたと言うことだ。時報も聞き、お手伝いさんたちにも確認を取り、ニュースも見てみたが、いつもの4月1日ではない。まだ、恭子が経験したことがない4月1日だ。エイプリルフールの上段でもないようだ。何が原因かはわからないが、ループから抜け出せた。よかった。


 すぐさま悠李に連絡を取る。朝8時過ぎに電話をかけたら、朝に弱い悠李はまだ寝ていた。半分寝ているような声で応対され、これはダメだと思い、碧にかけ直す。


「今日の日付、確認しましたか!?」

『ああ。抜け出せた、ようだな』


 碧はしっかり起きていて、ちゃんと確認も取っていたようだ。ならば、4月8日、月曜日には大学の入学式が待っている。つまり、一週間後だ。

『恭子。明日は暇か?』

「え? あ、はい」

『なら、一度集まろう。魔法医科大学の入学式は五日だったな。なら、敬も大丈夫なはずだな』

 碧は簡単にそう言い、明日の昼に喫茶店に来るように指示した。敬、紗耶加、晃一郎の3人は現在実家にいる。魔法医科大学に入学する敬は埼玉在住なので東京まで来ることはさほど難しくないが、静岡の紗耶加や茨城の晃一郎は無理だ。彼らとはオンライン通信になる。そのため、碧は個室に予約を入れたらしい。







 そんなわけで翌日、4月2日。碧と悠李が一緒なら、と言う条件で恭子は送り出された。指定された喫茶店の前には、相変わらず女顔の敬がいた。


「こんにちは。お久しぶりですわ」

「よう、鷺ノ宮。最近元気そうだな」

「はい。ドクター香坂のおかげでしょうか? 元気いっぱいです」


 恭子は敬に笑顔で答える。それから首をかしげてみる。

「碧と悠李はまだですか?」

「呼び出しておいて、まだなんだよなぁ。まあ、約束の時間まであと15分はあるし」

 敬が腕時計を見つつ、言った。おそらく、碧は悠李を連れ出しに向かっているのだ。プロムのあと、2人の関係がどうなったかはわからないが、付き合っていなくても、碧は説明係として悠李を迎えに行くはずだ。

「おはよう、恭子、ケイ」

「すまん。待たせたな」

 人ごみから悠李と碧が出てきた。碧が何故か2つ、鞄を持っているが、おそらく、一つは悠李のものだろう。だって、悠李が手ぶらだから。


「ん。まあ、言うほど待ってねぇし。入ろうぜ」

「そうだな。瀬那も、わざわざ呼び出して悪かった」

「いや。どうせ、実家からリニアで1時間くらいだし」


 敬はかっこよく言ってのけたが、やはり、顔は女の子にしか見えなかった。恭子は、彼は外見が女性的なので、わざとこんな口調にしているのではないかと思っている。ある意味悠李の逆バージョン。


「いらっしゃいませ~」


 昼時とあって忙しそうな店内だが、碧が予約していた旨を伝えると、すぐに奥の個室に通してもらえた。注文を早急に決め、頼んだものが来てから、碧はドアをロックした。さらに盗聴防止の結界もはる。

「何か漏れたら困ることでも話す気か?」

「ああ。そんなところだな」

 と碧は敬にうなずいて見せる。敬は嫌そうな顔をしたが、気づかないふりで碧と悠李はそれぞれカバンからパソコンを取り出した。碧のものは一般的なノートパソコンサイズだが、悠李のものはかなりでかい。何を持ってきたんだ、この子は。


「香坂……それ、もうノートパソコンのサイズじゃねぇぞ」

「まあ、母のものだからね。これでもだいぶコンパクトになったんだよ」


 そう言いながら、悠李は猛然とキーをたたく。その間に、碧が紗耶加、晃一郎の2人とオンライン通信を開いた。


『久しぶり、恭子、ケイ君』

「あら。お久しぶりですわ」


 液晶に紗耶加が移り、恭子は笑みを浮かべた。隣のウィンドウには晃一郎が移っている。

「悠李。こっちの準備はいいぞ」

「ん。じゃあ、まず、ループの原因だけど」

 悠李がいきなり本題を語り始めようとする。この集まりはその解明の話しのはずだ。


「うちの母によると、今回の六度のループは、世界の修正力によるもの、らしい」

「……」


 沈黙。そう言えば以前、そんな話をしたなぁ、と思う。


「ミネルヴァ魔法学院でが感じていた違和感は、魔力が異常に集まっていたからだと思う」


 悠李の勘は鋭い。勘は勘の領域を出ないそうだが、基本的に人間の、しかも魔術師の勘は正しいことが多いそうだ。

 それにしても、彼女の口調に微妙に違和感があるのはなぜだろうか。

「普通、魔力がたまったところで魔法を使うと、暴発を起こすね」

 この言葉に、恭子たちはうなずく。悠李はさらに言葉をつづけた。


「その力で、透馬君たちは学校を爆発させようとした、らしいね。だけど、うまくいかなかった。今、学校にたまっていた魔力は、そのまま外に少しずつ放出されているようだだけど……みんな、の母の魔法は知ってる?」


 恭子と碧はうなずいたが、敬、紗耶加、晃一郎は首を左右に振った。自分が知っているのでみんな知っていると思っていた恭子だが、実は違ったようだ。


「多言しないでほしいんだけど、説明に必要だから言うね。母は第1級使用制限魔法の行使者だ。使用制限魔法は『熱溶解魔法』。これは超高温でプラズマを発生させる魔法で、いうなれば、巨大な電子レンジだ。もちろん、母はほとんどこの魔法を行使したことがないから安心してくれ」


 敬が物理的にも身を引いたので、悠李はそう付け加えた。しかし、敬の気持ちもわからんではない。


「母の能力は核爆弾に匹敵する最終兵器だと言われている。母が本気でこの魔法を使ったら、日本の国土の半分が溶鉱炉になるって言う説もある」


 ドクター香坂が好戦的な人でなくて良かった……と思っているのは恭子だけではないはずだ。その魔法、何度聞いても怖い。

 悠李は現在、6つのFCUを身に着けているが、ドクター香坂は常時10個近くのFCUを身に着けていると聞いた。いつも飄然としているのでわからないが。ちなみに、眼鏡もFCUの一種らしい。



 1人は最終兵器。1人は完全催眠が可能と言われる。難儀な母娘である。



「もしもこれが、魔力が集まった場所で使用されたらどうなるだろうか? シミュレーションしてみた」

 ぐるっと悠李がパソコンをこちらに向けた。紗耶加や晃一郎にも見えるようにした。

 悠李がパソコン上で行ったシミュレーションは恐るべきものだった。おそらく、魔力が集まった場所でドクター香坂がこの魔法を使えば、世界の半分は死滅する(かもしれない)。

「もちろん、母が魔法を暴発させるとは思わないよ」

 悠李は続けて言った。ちなみに、シミュレーションはドクター香坂に手伝ってもらって行ったらしい。


「だが、ミネルヴァ魔法学院で魔法暴発が起これば、それを引き金に次々と魔法を暴発させる魔術師が出てきても不思議ではなかったそうだ」


 そのために、世界が繰り返していたというのか? 多数の犠牲者を出さないために、その可能性がついえるまで、何度も?

「……悠李は、これに気付いて殺されたのですか?」

 震える声で尋ねたが、悠李は「いや」と首を左右に振った。


「私が殺されたのは、仁科先生が魔術師主義の過激派に関わっていたことを知ったから殺されたそうだ」

『……なんで伝聞系なのよ』

「私も聞いた話だからね。結局、だれに殺されたのか思い出せなかったし」


 悠李は、紗耶加に苦笑して答えた。どうやら、悠李が自身にかけたプロテクトは強力だったらしい。


 ドクター香坂の予想ではあるが、何となく、ループの理由は理解できた。原理は理解できないけど。ただ、魔術師だけで時間を操るのは不可能なので、何となく理解できる説明ではあったということだ。

「サー・ウィリアム・スペンサーを知っているか?」

「ああ、知ってるぜ。イングランドの魔法理論学者だろ」

 敬がうなずいて言った。紗耶加が残念そうな顔をしている。答えたかったのだろうか。質問した碧が今度は原理について(推測の)話をしてくれた。


「サー・ウィリアムによると、魔法と言うのは、世界を切り離し、本来起こるはずだった事象を書き換え、それがあたかも、世界のもとからの流れだと言うように継ぎ直す事なんだそうだ」

「?」


 恭子が首をかしげた。何を言ってるのかわからん。悠李が苦笑して「つまりね」と説明し始める。


「世界と言うのは一本のレールのようにつながっているわけではなく、断続している、と言うことだよ。魔法は、その中のある部分を取り出して、変更し、また元に戻すもの。もちろん、魔法で変えられた現実は元の世界とは違うね。だから、その未来さきも変わってくる。また魔法が使われれば、また変わる。つまり、世界は連続しておらす、過去と現実と未来が必ずしもつながっているわけではない、と言うわけだ」

「もしかして、完全な予知能力者がいない、と言われていたのはそのためですか?」

「たぶん、そうだろうね」

「なるほど」


 恭子がまじめな表情でうなずく。自分の解説で理解されなかった碧はちょっとしょげた顔をしていた。隣に座っている悠李が肩をたたいて慰めていた。

「つまり、成原が言いたいのは、世界は断続的に続いているからこそ、ループもありうるってことか?」

「……まあ、そう言うことだな」

 敬にも簡単にまとめられ、碧は仏頂面でうなずいた。いや、表情がないのはいつものことだが。

 魔法によって未来が変わる。完全予知が存在しないのはそのためだ。こまごまと変わる世界に、予知がついて行かないのだろう。イングランドの的中率90%越えの予知能力者が最も『あたる』予知能力者か。


 つまり、恭子たちは、自分自身の能力でもある魔法によって6度もループを繰り返したということになる。

『……まあ、理由も原理もどうあれ、元の流れに戻れてよかったよね』

 晃一郎が苦笑気味に言った。聞き役に徹していた晃一郎だが、ちゃんと話についてきていたらしい。あまりにも静かだったので、存在を忘れかけていたのは内緒だ。


 とりあえず、もう少し様子見だな、と言うことで4月8日の入学式を迎えた。新しいスーツに身を包んで魔法大学まで来た恭子は「うん」と1人でうなずいた。ちゃんと、時間が進んでいる。


 人数が多いので、文系と理系は別々に入学式だ。文系は午前、理系は午後。学科ごとに分かれるので、恭子は1人だ。


 ちょっとさみしい気もしたが、前に進んでいる気がする。恭子は微笑み、入学式に集中することにした。




ここまでこの作品におつきあいくださった方、ありがとうございます!


謎が謎を呼んだ気もしますが、ここでこの作品は終わりです。本当にありがとうございました!

この続編を考えていますので、続き、謎の答え、碧と悠李の関係が気になる方はその続編でできるだけ描写しようと思っていますので、そちらもよろしくお願いします。


でも、まだ続編は構成段階なので、先に別の作品を投稿します。


それでは、ここまでお付き合いくださった方、本当にありがとうございます!

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