第二十六話ールカディウスの要望
「オリヴィエ!メロディはどこにいる?」
オリヴィエがホールへ戻ると、カッサンドラ侯爵が血相を変えて聞いて来た。
「メロディですか?」
メロディはオリヴィエ達より早くホールに来ているはずだ。
メロディはアルフォンスの婚約者候補を、オリヴィエではなく自分に変えてくれと何年も父に言い続けている。そのたびに侯爵は『お前にはもっとふさわしい場所があるから』とメロディを諭していた。
いつも納得のいかない顔をしていたが、その言葉で引き下がっていたのだ。しかしいよいよアルフォンスの成人が近づいてきて、メロディはなかなか引き下がらなくなってきた。侯爵も相手をするのが億劫になっていた。
婚約者が正式に決まるであろうこの日にメロディに騒がれてはたまらないので、長兄のライボルトにエスコートさせて先に行かせていた。
「お父様、わたしはここよ」
振り返ると、メロディが眉を吊り上げて立っていた。ピンク色のドレスにはたっぷりとフリルがあしらわれ、所々に宝石が散りばめられている。十五歳にしては幼いデザインのドレスだが、メロディにはよく似合っていた。
メロディの視線がオリヴィエのドレスへ向かう。今日は深みのある青色の、スレンダーラインのドレスを身に着けている。カッサンドラ侯爵の用意した真っ赤なドレスは、「アルフォンス様は派手なドレスを好まれません」と言ったら、着なくて良いと言われた。
メロディが口角を歪めた。
「オリヴィエお姉さま。相変わらず顔色が悪いのね。髪色のせいかしら?ドレスだけでも華やかなものを纏えばよろしいのに」
ここ数年でメロディはオリヴィエに対して嫌悪感を隠さなくなった。
(誰が聞いているかも分からないのに)
回帰前のメロディは、人前ではこういう面を徹底的に隠していた。そこも今世で違うところだ。
「メロディ……貴方は少し、年齢に対してドレスが幼過ぎるのではないかしら?よく似合ってはいるけれど」
オリヴィエも言われっぱなしでは済まさない。メロディの顔が赤くなり、握った拳が震えている。
(すぐ逆上するのだから……)
これではアルフォンスにも相手にされないだろうと内心でほっとする。
「ドレスなんて今はどうでもいい。メロディ、今から邸宅に戻れ」
カッサンドラ侯爵が焦るように言った。
(どうしたのかしら?)
オリヴィエは眉を顰めた。メロディも何故そんなことを言われるのか分からないようだ。
「どうして?いやよ。参加しないなんて、お友達に笑われちゃうじゃない。今日はルカディウス様の晴れ舞台でもあるのに」
(ルカディウス様はやっぱり人気なのね……)
カッサンドラ侯爵は辺りを見渡し、家族だけに聞こえるよう小声で言った。
「その公子がお前の事を狙っているかもしれないんだ。こんな公の場で求婚なんてされれば断ることが出来ない」
「「えっ」」
メロディは歓喜の声を、後ろに居たライボルトは驚きの声を上げた。
オリヴィエはすぐには声が出なかった。
(ルカディウス様が……メロディを?)
「父上、それは本当ですか?あれだけ浮名がない男が……」
ライボルトが怪訝な顔で言う。
「本当だ!さっきここを通る際に耳打ちされたのだからな。だから早くメロディは家に……」
カッサンドラ侯爵はメロディの肩を掴み、扉の方へ向かおうとする。メロディは侯爵の腕を払った。
「ええ?どうして?私は帰らないわ」
メロディは微笑んで言った。その笑みには毒々しささえ感じる。
「困ったわね。私は皇太子妃になりたいのに……でも公爵夫人も良いわね。どうしよう」
メロディはそう言い、恍惚とした表情で首を傾げた。
「――皇帝陛下のおなりです!」
ホールの人々は壇上に注目した。
ルカディウスは皇帝の前に堂々と立っている。先ほどのバルコニーでの距離が嘘のように遠く感じた。
(手を差し伸べたら?)
先ほど言われた事はどういう意味なのか。メロディと婚姻を結ぶから、カッサンドラ候爵家の内情に口を出せるとでも?
ルカディウスが、メロディを選ぶとは全く考えていなかった。
高貴な、聡明な、自分では手も届かないような女性を選んでほしかった。
オリヴィエは泣いてしまいそうな自分に驚き、眉間に力を入れた。
(ルカディウス様の隣に、メロディが立つ?)
それは、耐えられるか分からない。
(夢であってほしいわ)
ぼんやりとオリヴィエは思った。
「――では、一つお願いがございます」
壇上から聞こえるルカディウスの声に、オリヴィエは意識を戻した。
「オリヴィエ・カッサンドラ侯爵令嬢に、求婚する許可をいただきたい」
「――え」
静まり返ったホールに、オリヴィエの間の抜けた声が響いた。
読んでいただきありがとうございます!
オリヴィエサイドなので話が止まったままで、申し訳ありません!
明日も読んでいただけると嬉しいです!




