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僕の婚約者は人生2回目なのかもしれない。  作者: 織子


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第二十一話ー回避③


「カッサンドラ候爵家はアレスター殿が継ぐのか?」


訝しげに聞くルカディウスに、オリヴィエは唇を引き結び首を振った。


「……ならば僕も次男だ。兄上が元気でいる以上、僕がエステルギアを継ぐことはないだろう」


分かっていた答えだった。ルカディウスも不思議そうな表情でオリヴィエを見ている。


「そうですか……」


オリヴィエは下を向いた。貴族家において、長男が家門を継ぐことは当然のことだ。よほどの理由がない限り。

そのまままた外を眺めて、会話が終わったと思ったのだが、ルカディウスが口を開いた。


「あー……先程の件だけど、オリヴィエ嬢は僕が皇都を出る事を知っていたのか?」

「……!ええ」


前を向き、思わず肯定してしまった。そうだ。領地に行かないで欲しいと説得をしなければ。


「ふむ……」


ルカディウスが人差し指で自身の顎を摩りながら思案している。オリヴィエはその光景をまじまじと見つめた。


(考え込む時の癖なのかしら?子供らしくない癖だわ)


しかしそのちぐはぐさが可愛くも感じる。


「……明後日発つ予定だったけど、日にちをずらす事にする」


その言葉に、オリヴィエは目を見開いた。

「本当ですか?」


安堵が心に広がって行く。

「良かった……!」


オリヴィエの喜びが大袈裟に映ったのだろう。ルカディウスの口元がわずかに緩む。気が緩んだオリヴィエは、思った事をまた口に出してしまった。


「あら……?ルカディウス様も微笑うのですね」

「なに?」

すぐさま気分を害した返事が来たので、あわてて謝る。

「すいません、不躾でした」


そうは言っても微笑むルカディウスを初めて見たのだ。驚いても仕方がない。


(おそらくこれでルカディウス様の事故は回避されるはず。会うことはもうないかもしれないけど、最後に笑顔まで見ることができてよかったわ……)




ルカディウスはカッサンドラ侯爵邸まで送ってくれた。別邸の前で降ろしてもらったが、本邸の前でない事を不審に思っている様だった。


(そうよね。侯爵家の長女が別邸で暮らしているとは思わないわね)


ルカディウスにお礼を言い、馬車が見えなくなると別邸へ戻った。

夕刻に近い時間になっていたので、門を開けるとエマが飛んで来た。


「お嬢様……!心配しましたよ……!」

「長い散歩でしたね」

アネッサも皮肉を言う。


一応『今日中には戻ります』と書置きを机の上に置いて出たのだが、心配をかけると思っていた。


「ごめんなさい……」


他の使用人たちも出てきて、皆安堵の表情を見せた。


アネッサが小声で言った。

「心配しましたが……なにやら明るい表情をしておられますね?」

オリヴィエがアネッサの耳にこっそりと話す。

「ええ。心配させてしまったのは申し訳ないけれど、重大な使命を果たしてきたの」


アネッサは呆れるように短く息を吐いたが、やがて微笑った。


「それはそれは、おつかれさまでした」




◇


オリヴィエの思惑通り、ルカディウスは事故を免れた。豪雨はやはり起こり、エステルギア公爵領は被害を受けたが、前もってルカディウスが対策の見直しをするよう数日前に呼び掛けていたらしく、回帰前の被害に比べると、大幅に減少していた。


被害があったことには心を痛めた。


(ルカディウス様の命を助けることが出来ただけでも良しとしなければ。望み過ぎてはいけないわ)


そうは思ったが、何もしない訳にはいかない。持っている数少ないアクセサリーを売り、被害のあった孤児院に匿名で贈った。



数か月経ったころ、ルカディウスが訪ねてきた。驚いたが、義理深い彼の事だ。今回のことを、直接お礼を言わなければ気が済まなかったのだろう。


皇城の庭園で会ってから一年も経ってないというのに、背は伸び、ぶっきら棒に感じられた態度も緩和しており、ガゼボの椅子に座る姿はおとぎ話の王子様の様だった。


オリヴィエは自身の貴族令嬢らしからぬ姿に気後れしたが、立ち居振る舞いだけでもと背筋を伸ばした。


そこで嬉しい報告も聞いた。ルカディウスに、エステルギアの爵位を継ぐ意思があるらしい。


この度の災害への対応で、彼もジークハントに見切りを付けたのだろう。


(良かった。ルカディウス様なら大丈夫だわ。立派な公爵になられるはず。公爵領の人たちも苦労せずに済む)




その年から、エステルギア公爵家は荒れた。次々にジークハントの不祥事が社交界で噂に上がり、社交デビューをしたその年に、女性関係で大問題を巻き起こした。ついには継承権も剥奪され、領地の奥に送り込まれるらしい。


オリヴィエがその諸々を知ったのは、エステルギアの豪雨から四年後。十六歳になる少し前のことだった。


この四年、アルフォンスの婚約者候補の選定は進まなかった。というのも、成人するまでは決定を見送るとアルフォンスが宣言したからだ。候補者達と定期的なお茶会をするだけで、他には何も要求はない。カッサンドラ侯爵もアルフォンスの成人までオリヴィエに構うことはなく、オリヴィエは平和な四年間を過ごした。


そして、オリヴィエが十六歳になる年、アルフォンスも十六歳となり、二人は成人をむかえる歳になった。





読んでいただきありがとうございます。


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