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僕の婚約者は人生2回目なのかもしれない。  作者: 織子


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第二十話ー回避②


「ルカディウス様」


オリヴィエの顔は安堵のあまり緩んだ。慌てて表情を引き締める。


「あ、えっと。いきなりすみません。ルカディウス様を探していました」


「――……?」

反応がない。(どうしたのかしら?)


「ルカディウス様?」


もう一度名を呼ぶと、ルカディウスが気まずそうに口を開いた。


「あ、ごめん。僕を探してたって?何故」


言われてオリヴィエは固まった。

 

(しまったわ……!私のばか……!)


会えさえすればと思っていたが、実際に会った時に何と言うか考えていなかった。


「えっと……誕生日パーティーのお礼を……」

「それは何度も聞いたからいいよ」


しどろもどろに話すオリヴィエにルカディウスがぴしゃりと言う。


(いきなりこんな事を言えば変人と思われるわよね……い、いえ変人と思われようが何なの!ルカディウス様は恩人よ)


早く伝えねば。ルカディウスはそっぽを向き、今にも立ち去ってしまいそうなのだから。


「そ、それとですね……あの、変に思われるかもしれないのですが、えっと……しばらく、皇都を出ずにいてほしくて……」


ルカディウスの眉が怪訝そうに動く。


「――何故」


オリヴィエの声はどんどん小さくなっていく。ぱくぱくと口を開け閉めするが、良い説明が浮かばない。


ぎゅっと口を引き結ぶ。ルカディウスの探るような視線に冷や汗が流れた。オリヴィエはゆっくりと口を開く。


「あの……道が…危険なのです」

「道?領地までの道か?」

「あ、えっと…雨が……」


エステルギア公爵領は、そろそろ雨季が終わる頃だ。帝国の中でもよく降る方で、大雨の対策は充分にしてあるだろう。しかしそれでもルカディウスが落石事故に巻き込まれた時の豪雨は凄まじかったと記事で見た。


(移動中の雨なんて想定内よね。どう言えば……!)


――今、ルカディウスを止めなければ、明日にでも出発してしまうかもしれない。


言葉が出てこず、後ろ向きな考えばかりが浮かんでしまう。


(止められなかったらどうしよう……)


知らず知らずのうちに視線が下を向く。ルカディウスの小さなため息が聞こえた。


(そ、そうよね……!急にこんなことを言われても困ってしまうわ)

泣きそうだ。もっと他の伝え方があったはずなのに、要領の悪い自分が嫌になる。


「オリヴィエ嬢」


しかしルカディウスの声は優しい声音だった。


「今日は一人で来たのか?」

「えっ…はい」


「そうか。用事が済んだのなら送って行くよ」


(……用事)

まだ済んでいない。ルカディウスに領地行きを止めさせることがオリヴィエの要事なのだ。


「いえ……」

(まだ帰れないわ)


「お気になさらず……」


やはりもう少し粘って、アルフォンスに会えるよう門番を説得してみようか。オリヴィエの言葉より、アルフォンスから伝えられた方が信憑性が高い。


オリヴィエが思案していると、


ルカディウスの唸り声が聞こえた。

「あ~……つまり、ぼ、僕も君に謝りたかったんだ」


オリヴィエは目を瞬いた。

(謝る?)


言いにくそうにルカディウスが続ける。

「あの時は、声を荒げて申し訳なかった。――だから、謝罪も兼ねて送らせてくれないか」



ルカディウスがゆっくりとオリヴィエに手を差し出した。気のせいだろうか。ルカディウスの耳が赤くなり、差し出されている手は少し震えている。


オリヴィエの思考は一瞬止まり、気付けば差し出された手を取っていた。





◇


先ほどまで辻馬車で移動して、そもそも馬車に乗る事自体久しぶりなのだが、エステルギア公爵家の馬車の乗り心地の良いことと言ったら。オリヴィエは密かに感動していた。


規則的に揺れる馬車の中から、ぼんやりと外を眺める。


(ああ、そうだわ。思い出してきた)


エステルギア公爵家は、ルカディウスを失ってから衰退の一途を辿る。

公爵領は借金で溢れ、ジークハントが公爵位を継いでしばらくすると、ついには経営が破綻した。

領地民は長く苦しむことになる。それでも上位貴族であるエステルギア公爵家そのものは、オリヴィエの知る限り、変わらぬ暮らしをしていた。



少し馬車が揺れ、オリヴィエは我に返った。


(わ、私、今意識を失ってた?)

あまりの心地よさに眠ってしまったのだろうか。前を見ると、腕を組み、外を眺めるルカディウスの姿がある。どうやらルカディウスはオリヴィエが一瞬だが眠ってしまったことに気付いていないようだ。


昼下がりの太陽に照らされて、ルカディウスの金の瞳が輝いている。


(ルカディウス様が、公爵家を継いだらいいのに)


オリヴィエはぼんやりと口を開いた。

「あの」

「な、何だ」

ルカディウスの身体がびくりと小さく跳ねる。



「ルカディウス様は、公爵位を継がないのですか?」


まだ頭が寝ぼけているのか、オリヴィエは思った事をそのまま口にしてしまった。ルカディウスが怪訝な目をこちらに向けたので、(しまった)と思ったが、もう遅かった。








読んでいただきありがとうございます。


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本日はいつも通りの時間に更新できました。

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