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僕の婚約者は人生2回目なのかもしれない。  作者: 織子


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第十九話ー回避①


『何もこんな日に』

『何だよ。せっかく誘いに来てやったのに。お前は行かないのか?』

『行くけど……』

『じゃあまずは服を貸してくれ。こんな辛気臭い服、早く脱ぎたい』

『辛気臭いって……喪服なんだから仕方ないだろう』


(喪服?誰か亡くなったのかしら……)

柱の陰に隠れていたオリヴィエはぼんやり考えた。


回帰前、オリヴィエがまだ本邸に居た頃だ。昼間は使用人の目が気になり、オリヴィエは自室に籠っていた。みんなが寝静まった頃、部屋の外に出て邸宅内を散歩していた。

夜の邸宅は静かで落ち着いていて、オリヴィエにとって限られた自由な時間だった。たまにこうして意図しない来客が来れば、柱の陰に隠れてやり過ごす。


ジークハント・エステルギアは、こうして先ぶれなしで来訪し、アレスターと共に夜の街へ出かけていく事が常だった。


(彼がエステルギア公爵家の後継者だなんて。公爵家の行く末が心配ね)


オリヴィエはそう思いながら、膝を抱えて二人が出て行くのを待った。


翌々日の新聞だっただろうか。朝刊の見出しを見てオリヴィエは息を呑んだ。




◇


「――うっ……!」


オリヴィエは跳び起きた。ベッドから這い出て、机の上にある昨日の新聞を確認する。


(帝国歴724年……!今年じゃないの!)


夢の中で見た朝刊の日付と、昨日の日付はもう一週間も差がなかった。


(――大変……!大変だわ)


混乱した頭で無理やり思考を整理する。

オリヴィエが回帰前のルカディウスの事をあまり覚えていないのも、成長したルカディウスに見覚えがないのも当然だった。彼は亡くなっていたのだ。


目をぎゅっと閉じて回帰前に見た新聞の内容を思い出す。


(たしか、領地に帰る際、落盤に巻き込まれたと書いてあったわ。ジークハントが喪服を着ていたのが、朝刊を見る三日くらい前だったから……ああ…!正確な日付が分からない)


もしかしたら今日かもしれない。そう思うと、胸の奥に鉛を詰め込まれたように心が沈んだ。動悸を手で抑え、オリヴィエは呟く。


「ど、どうしよう。どうしよう」


まともに話したこともない。はっきりと顔を見たのも、パーティーでのあの一件だけだ。


(――でも、私はあの子に死んでほしくない)


そう思うと、少し動悸が収まった。


(アネッサも助けることが出来た。きっと公子も助けられるはずよ)


オリヴィエは息を整え、エマを呼ぶためのベルを鳴らした。





◇


エマに着替えを手伝ってもらい、「中庭を少し散歩するわね」と言って部屋を出た。そのまま裏門を通り、辻馬車の乗り場へ向かう。カッサンドラ侯爵邸から、一番近い馬車寄せでもオリヴィエの足ではずいぶんかかった。小一時間歩き、ようやく馬車寄せに着いた。


(どうしよう。そもそも、どこに行ったら会えるのかしら。公爵邸に行っても取り次いでもらえないわよね)


ふとアルフォンスの言葉を思い出す。


(頻繁に会っていると言っていたわよね)

アルフォンスの側近候補として、授業や剣術指南も一緒に受けていると聞いた。


(皇城に行ってみよう。運が良ければルカディウス様に会えるかもしれないし、アルフォンス様でもお会いできれば、頼みを聞いてもらえるかもしれないわ)




しかしオリヴィエの思惑は空しく砕けた。侯爵家の令嬢である証明を何一つ持っていないオリヴィエは皇城の中にも入れてもらえなかった。


(やっぱり駄目ね。いくら侯爵令嬢と言えど、今は身なりもとても上位貴族の令嬢には見えないもの)


エマに部屋の中で一番上等なドレスを選んで貰ったが、丈も短く、デザインもオリヴィエに合っていない。


(私が持っている上質なドレスは、メロディが気に食わないと言って押し付けて来るものばかりだもの)


城への入り口で追い返され、とぼとぼと門まで歩く。城への入り口から門までの道は庭園のようになっており、花が咲き誇るこの時期は開放されていて人通りが多い。


城に役職のある者達は、馬車で違う門から出入りするが、この時期は庭園を見ながら行き来する者も多いようだ。


(ここで待ってれば、ルカディウス様に会えないかしら?)

一縷の望みにかけるような確率だ。辻馬車乗り場からも遠く、オリヴィエの歩きなれていない足はあっという間に靴連れができていた。


「ふう……」

中央の噴水に腰かける。

回帰前、王太子妃教育で皇城に通っていた頃もこの庭園は開放されていた。しかし今のようにゆっくり眺めたことはない。


(こんなに綺麗な場所だったのね……)

飛んで来た花弁が水面に落ちた。揺れる水面を眺めながらオリヴィエは思案する。


(でも、今日会えなければどうしましょう。お手紙を出す?)

思考を否定するように、首を振りながら呟く。


「……いえ…それでは間に合わないかもしれないわ……夜になったら忍び込んで……無理があるかしら……」



「――オリヴィエ嬢?」


まさかと思い顔を上げると、蜂蜜色の瞳を大きく見開いたルカディウスが立っていた。




読んでいただきありがとうございます。


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毎日投稿が厳しくなってきました。数日ごとの更新になるかもしれません。

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