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僕の婚約者は人生2回目なのかもしれない。  作者: 織子


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第十二話ー繰り返す惨事



「まぁ。オリヴィエ嬢の御髪は、本当に闇夜のようですのね」

「悪い意味ではありませんのよ」

「ご兄弟は皆さん見事な金髪ですのに……」


会場に入るなり、数人の令嬢に囲まれた。

悪い意味ではないと言うが、良い意味でもないのだろう。オリヴィエは心中で嘆息した。


「皆さまごきげんよう。私の髪色は祖母から受け継いだものですの。祖母の実家は隣国の公爵家……遡れば魔術大国アドバン皇室のものになります。仰る通り、見事な闇夜の色でしょう?」


オリヴィエはつらつらと述べた。前半は事実、後半は嘘のようなものである。オリヴィエたちの住む、バレンティン帝国の隣にある魔術大国アドバン。他国の名を出すと、歴史を知らない子供たちは口を噤む。

下手な事を公の場でいう訳にはいかず、嫌味を言いにオリヴィエの元へ集まった令嬢達は散りじりになった。


(あら……)


ちょっと静かになればと思い言ったことなのだが、解散させてしまうとは。


(うーん、やっぱりこの顔かしら?眉間に力が入らないよう気を付けないと)


オリヴィエとしては、脅していないつもりでも、相手にとってはそうではない。ツリ目と暗い髪色、威圧的な言葉遣い。どうしても萎縮させてしまう。


この一年間、悪評が変わらなかったのは、オリヴィエの態度にも原因がある。普段部屋に籠って会話らしい会話もしないので失念していた。


やはりこの言葉遣い、直さなくてはならないわ。



「カッサンドラ侯爵令嬢でいらっしゃいますか?」


振り向くと、どの家門か分からないが、見覚えのある令嬢が立っていた。その令嬢はオリヴィエをまっすぐ睨んでいる。隠すこともしていない、あからさまな敵意を感じた。


(どなた?)


ちらりと令嬢の後ろを見ると、数人の令嬢と令息が固まってこちらを注視している。興味深そうに見ている者。心配そうな視線を向ける者。


(何かしら?何かしようとしている?)


下へ視線を向けた瞬間、思い出した。回帰前、パーティーで揉めた令嬢だ。


(リアナ・コーディ子爵令嬢。前とドレスの色が違うから気付かなかったわ)


手には赤い飲み物の入ったグラスを持っている。今日のパーティーは家門の後継者も招かれている。中には幼い子供もいるため、配慮して色のない飲み物が準備されていた。


(回帰前は気付かなかったけれど、コーディ嬢は初めから準備してたのね……!)


オリヴィエは狼狽えた。このままでは回帰前と同じ事が起きてしまう。リアナ・コーディに至っては自業自得なのかもしれないが、オリヴィエは知っていた。彼女がメロディにそそのかされて行動したことを。



オリヴィエが謹慎中、メロディに会いに邸宅を何度も訪れ、門前払いをされていた令嬢。


『今、体調を崩しているの。また後日招待するわ』


メロディはそう言い、リアナを帰していたが、メロディがその後彼女を招待することはなかった。


リアナはそのまま皇都の社交界に居場所がなくなり、社交会デビューをする前に領地に戻っていった。子爵も、妻と娘と共に領地へ戻った。コーディという名が悪名として広まったので、新規事業どころではなくなったからだ。

(もともと、お父様はコーディ子爵家の新規事業を煙たがっていた)



コーディ子爵家が始めようとしていたのは、子爵領で産する上質な毛皮の売買だった。

実はこの毛皮事業には、オリヴィエの父であるカッサンドラ侯爵も目を付けていた。しかし、品質では明らかにコーディ子爵領の毛皮のほうが上だ。


そこでカッサンドラ侯爵は、子供同士の諍いを利用した。

新聞社に手を回し、まるでコーディ子爵に非があるかのような記事を書かせ、子爵の評判を落とし毛皮事業を妨害しようとしたのだ。


(このままではお父様とメロディの思惑通りになってしまう)


オリヴィエはとっさにリアナの手をグラスごと掴んだ。


「えっ?」

回帰前、皇女殿下のドレスを台無しにしたのはこのグラスだ。以前はオレンジ色の液体だったが、どういう訳か赤い液体に変わっている。


(こんなものを皇女様にぶちまけては血みどろの大惨事だわ。下手をすれば衛兵に首を切られてしまう)


皇族に危害を加えたと捉えられたら命はない。


オリヴィエは辺りを見渡した。皇女殿下の姿はない。


(たしか、私とコーディ嬢が口論していると、その騒ぎを諫めようと近づいて来られたのよね。ならこの場から離れましょう)


「は、離してくださる?カッサンドラ嬢」


突然掴まれたリアナは困惑している。オリヴィエは少し強引に近づいた。


「リアナ・コーディ子爵令嬢ですわね?私に話があるのなら、あちらで伺います」


オリヴィエも焦っていた。声は低くなり、眉間に力も入っている。リアナの表情が怯えに変わった。


「は、離してくださいっ」


リアナが渾身の力でオリヴィエを振り払う。

丸一年、部屋に籠っていたひ弱なオリヴィエは、あっさりと押しのけられ、後ろに身体が傾いていくのをゆっくり感じていた。


(い、一番良くない展開になりそうだわ……)


頭上に赤いしぶきをあげるグラスが見えた。


そのまま後ろに倒れ、オリヴィエは後頭部を打ち昏倒した。


その場にいた者は、オリヴィエが大量の血を流し、倒れたようにしか見えなかった。その傍には、震えながら立ち尽くすリアナ・コーディ。オリヴィエは薄れる意識の中でリアナにかけよる父親を見た。


(あら……?この人もどこかで見たような……)

そこでオリヴィエの意識は途切れた。









読んでいただきありがとうございます。


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