そして始まる
本当はもっと詰め込む予定だったのですが、申し訳ありません。気力が尽きてしまいました。
悩んだ結果、勝手ながら今回の話で完結させていただく事に致しました。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
空を見上げれば雲一つとしてない、どこまでも澄み渡った青色が広がっている。
まさに、絶好のお出掛け日和である。
右にはどことなく目を輝かせて街中を見つめるリカルドが並んでおり、その隣にはこれまた微笑ましい表情を顔に浮かべているリカルドのお爺ちゃん。
目立つからとの理由で護衛の一人すら付けずに街にやってきたわけだが、その代わりとでも言うように付き添ってきたのがお爺ちゃんである。
偶には散歩でもしようかという理由だが、他にも何か目的があるような気がする。
しかし、建物もそうだが僕の国と大分文化が違う。なんて言うか、僕達の方がゴツゴツした装飾を家の外装に多く取り付けているのだ。
こうしたところに国民性が表れるのかもしれない。あれはなんだ、これはなんだと言った具合にお爺ちゃんに質問すれば、全て分かり易く説明してくれる。
リカルドにはそんなことも分かんねーのかよとか馬鹿にされたけど、国が違うのだから当然だと思う。
僕には新鮮な物が多くて、たった1日だけの外出だったけれど実にいい勉強になった。
早く兄さんや母さんに教えてあげたい。父さんに言えば王族の人の耳にも入って、もしかしたら僕の国にも取り入れてもらえるかもしれない。まあ、そこら辺は少しの可能性しかないから、あまり期待はしないでおこう。
なんだかんだで充実した遠征だった。そのほとんどが勉強に費やされたものだけど、リカルドやお爺ちゃんと過ごす時間はとても楽しかった。
僕にとっては大切な時間だったのだ。
明日の朝にはここを発たないといけないものだから、余計に寂しさに苛まれてしまう。出来うることならもう少し滞在していたいが、我が儘を言ってお姫様達を困らせてはいけない。何より、僕の失態は一族の恥扱いにされかねないのだから、用心しなければ。
「なあ、ほんっとーに明日帰っちゃうのか?」
「うん。いつまでもここにいるわけにはいかないからね」
リカルドの機嫌は朝から最悪である。眉間の皺がずっと消えることなく刻み付けられている。
そんなにくっきりと皺付けてたらとれなくなるんじゃないだろうかと、あり得ない心配をしそうになるくらいだ。
むっと口を尖らせるその姿は不機嫌そのものである。
「なんで帰るんだよ」
「いやだって僕の家向こうだし」
「じゃあこっちに運べばいいだろ」
「なんだその発想は」
うんいいよなんて言うと思ったの?
おかしい。
普通にないでしょ、それ。
でもこうして僕が帰ることを惜しんでくれるのが内心嬉しかったりする。
じゃあまたねー、なんてあっさり見送られたらいくら僕でもへこむ。友情はどうしたんだよと心の中で涙を流す。
「なんで帰っちゃうんだよ」
「だから僕の家が…」
「こっち運べ」
「おい!」
何回このやり取りをすれば気が済むの。無理なものは無理だ。残念だけど。
「普通に考えようよ、リカルド。無理だから」
「分かってるっつーの。馬鹿じゃねえの」
「理不尽にもほどがあるでしょ」
何故僕が罵倒それなきゃいけないんだ。まったく。
そうしている内に、一通の手紙がお姫様の本に届けられた。僕の母さんからだ。
もう一週間ほど僕を預かってもらえないだろうかという内容のもので、なんなら見習いでもいいからリカルド専用の教育係りにしてもらえないだろうかというお願いをされたお姫様は、母さんがそう言うのなら、と快く了承の返事を直ぐに書いたらしい。
それを聞いてどや顔のまま万歳をするリカルド。
対して、シリアスな気持ちをぶち壊されて呆気にとられる僕。
なんていうか、うん。
母さん、凄い。