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神威(カムイ)の流転と聖なる詩片  作者: カムイ ピリマ(神はひそかに教える)
第弐部 『時空を超えし幻の軍勢』ラーマーヤナ(一書)編――秘幻乃神謡 其之壱 昔日英雄乃詩――
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第12倭 乙女の想拳 絶望を超越せん

 己の十倍はあろうかと言う巨躯を前に、チュンダは怒り露わに言い放つ。


「チュンダさま、でもいくらなんでもその姿では……っ!」


 ミチヒメは、自身の刻のチュンダに衣を脱がされたのと同様に、気付く間もなく口を優しく塞がれる。


「ミチヒメちゃん、知らないかもしんねぇけど、わしゃにはこれがあるべさ。

 なんもさ、打ち直霊するのも、アイツさの頭ぶっ叩くのも、実はおんなじだべさ!」


 この、六百遡りし刻の彼女も、まさに同じ事を眼を輝かせてミチヒメに伝えてくる。


「全ての肝要さなるのは……『万象の理』だべさ!

 わしゃが今、理さ掴んでいる者の強さ、観せてやるべさ!」


 そう言ってチュンダは腕を大きく回し始める。

 すると、いつの間にか大槌が顕れて握り締められている。


「さぁ、思念金乃槌(イレンカ ハマル)、いっくべさぁっ!」


 迷わず突進してゆくチュンダ。

 ただし、その足捌きはミチヒメから観たらそれほど迅くはない。

 だが……。


「ぬ?

 小娘? どこへ消えたぁっ?」


 紅蓮の義眼を輝かせ、チュンダは鬼の死角から死角へと巧みに移動して、思念金乃槌を振り上げた反動で跳躍する。


「『大地之枷《じゅうりょく》』よ、極まると良いべさぁっ!」


 掛け声と共に、「思念金乃槌」は真輝銀の如く超重と化す。

 大地に引き寄せられるように、凄まじい迅さでドゥー・ラムの頭部を撃ち降ろす。


「ぬっぐぁああっ!!」


 大槌のあまりの重さに、彼は地中深く減り込む程に打ち据えられる。


「やったべさ!」


 目配せして親指を立てるチュンダ。

 しかし、大地が鳴動して激しく弾け飛ぶ。

 響き渡る、一本角の猛々しき咆哮。


「うぉぉっ!

 はぁ、はぁっ……。

 この、頑健なる昏餓鬼(ケム・ニトネィ)の逢魔色身体(イウェンテプ ケゥエ)。

 それに対し此処まで傷つけるとは……天晴と言っておこう。

 だが、此処までなり!」


 夥しく朱き滴を垂れ流し、ドゥー・ラムは地面を殴りつけて土煙を巻き上げる。


「こったらもん、わしゃの真理眼(シンノ=インカラ)なら一発だべさ!」


 彼女が紅蓮を輝かせ見据えようとすると、その眼目掛けて吹き付けられる紫煙の棘。


「し、しまったべさ!

 眼が……『生身』に還っちまったべさ」


 遺る左目で煙を窺う。


「その眼でこれが避けられるか、受けてみよ!」


 全身の魔闘氣を集束させた爪撃がチュンダを強襲する。


「くぁあっ!」


 咄嗟に「思念金乃槌」を挟み込むも、後方の民家の外壁に強烈に打ち付けられてしまう。


「あ、ぐ……っ」


 地を舐めるように倒れ込み、小刻みに痙攣するチュンダへ止めを刺さんと、ドゥー・ラムが咆哮と共に飛び掛かる。



「チュンダ殿ーっ!」


 ラーマとハヌマーンが必死に駆け寄るも、全く以って間に合わない。


 響き渡る衝撃音。

 舞い上がる土煙。


「ふははははっ!

 まずはひとり……! な、なんだと!?」


 懊悩焔者(ドゥー・ラム)の目にした光景……。

 それは、想うよりも先に、刻を置き去りにした迅さで彼女を救い、既に快癒呪をかけているミチヒメの姿。


「た、助かったべや……。

 したけども、それでこそミチヒメちゃんだべ……さ!」


 静かにチュンダを降ろし将軍へと向き直る。

 黄泉還る過去の惨状。


 彼が肩当に仕掛けた呪符……。

 召喚されし幻の軍勢……。

 己を喰らい尽くされ続ける、蹂躙の宴……。


 全てを奪われ、喪いし後の絶望の放浪……。

 そして、転機となった乙女の救出……。


 大きく息を吸い込んで丹田へと落とし込み、静かに吐き出す。

 息吹と共に調息を終え、ミチヒメは言う。


「将軍さま……。

 わたしは、誰かに霊力(ヌプル)を付与されないと、以前のあなたの足元にも及ばない位弱いです。

 それは此処できちんと認めます。

 ですがこの、師匠達、四獣王と『家族』となり、常に付与してもらえるようになっています。

 将軍さまも魔闘氣(ウェントゥム)で増強されているとお見受けします。

 今、此処に、互いのすべてを賭けて……尋常に比武せんとお願い申し上げます!」


 今の自分の半分にも満たない、小さく華奢な単なる民の乙女。

 その矮小なる存在が、威風堂々と、己を認めた上で尋常に比武を申し出てきている……。


「良いだろう……!

 互いの今在るすべてを賭けて、いざ此処に尋常に比武せんとしよう!」


 そう言うとドゥー・ラムは、激しく魔闘氣を昂らせてゆく。

 強力な気当たりを受け、後方に吹き飛ばされそうになるも踏み止まり、ミチヒメは叫ぶ。


「師匠達! わたしに霊力を!」


 真っ先に煌くは右腕に宿る白虎の「氣力帯紐」。


「任せとけぇっ! 付与霊呪(ラムハプル=ヌプル)!!」


 純白と漆黒が掌を取り合う、虚無の疾風が彼女へと注ぎ込まれてゆく。

 観る間に噴き上がる黄金の根源の氣力。


「よし! 次は風(レラ)を乗せ……っ!

 おい! ミチヒメ何をする!」


 微笑みを湛えながらミチヒメは氣力帯紐を外し静かに地面に置く。

 そして次々と「生命之法具」を外してゆく。


「ミチヒメ! いくらなんでも無謀すぎです!」


 玄武からの、彼女らしからぬ焦燥めいた助言(ピリマ)。


「……危うくば途中で割り入る故、存分に比ぶるが良い」


 武神たる青龍からの感心(ピリマ)。


「そうよね、その『想い』の強さこそミチヒメちゃんだわ」


 朱華の炎を噴き上げる朱雀の満足(ピリマ)。

 

「……何のつもりだ?

 我を愚弄するつもりか?

 巫山戯るのも大概に……!」


 言いかけた彼が口を噤む程、凄まじく研ぎ澄まされて征くミチヒメの氣力。


「……将軍さま。

 わたしは、わたしの中に眠るこの氣力と、師匠達より授かりし武の技を以って全力で闘います!」


 言い放った途端放たれる黄金の氣力。

 その峻烈なる波動。

 それだけで、昏餓鬼と化したオロチ族達が恐れをなして後ずさりする。


(……普段はこんなにも溢れる『恐怖』を……。

 ビャッコが直霊してくれていたのね……!)


 「氣力帯紐」を外した事により、正気に還り戦慄するミチヒメ。

 過ぎ去りし、刻み付けられし絶望、凌辱、屈辱……。

 未だ、自身の想いの中で、昏く淀み、心に巣食い呪縛する恐怖の源泉を、そしてその怨念に怯える身体を……。

 己のすべてを猛らせ湧き上がらせた、想念(イレンカ)の拳にて「叩き伏せる」。

 溢れ出す混濁した想いを、紙縒りの様に絞り込み、怨念と憎悪と憤怒を超克して純然たる闘志へと想い直霊する。

 堂々たる武人の想いを籠めて、巨大な鬼と化した先代将軍へと向き直る。


「我、刮目したり……!

 良い様に喰らい尽くされ、蹂躙されしあの刻とはまさに別人なり!

 ふはははは!

 ――参ろう、いざ尋常に比武せん!」


 掛け声と共に、ドゥー・ラムは瞬時に激しく踏み込んで間合いを埋める。

 チュンダの刻とは違い、振り被らず最小の動きで爪を集束させ、鳩尾目掛け撃ち抜いてくる。

 すぐさまミチヒメは合わせる様に右腕を滑らかに突き出して、将軍の腕の外側から纏わりつく様に廻天させる。

 だが、遥かに巨大で強大なドゥー・ラムの突きをいなし切れず、すぐさま右腕を内に廻すように伸ばす。

 そして半歩外に踏み込んで躱して地面に掌を突く。

 掌を軸にして全身を廻天させ、前方に流れ重心が浮き気味の将軍の左足を、地を這う蹴撃で全力で払う。


「崩れた! 今!」


 瞬時に踏み留まろうと振り向き直る将軍。

 左足を戻し構える前、刹那の間だけ観えた顎をミチヒメは逃さない。

 両の掌で地面を突き上げ、錐揉み状に身体を廻天させて全力で蹴り上げる。

 

「くっ! 半間遅かった!」


 左の掌を間に挟み込み、辛うじてドゥー・ラムは受け止める。

 蹴り上げた勢いで空中で身を翻す。

 そして、構えを取り直し、悔しそうな表情でミチヒメは彼を見据える。

 獣毛に覆われたドゥー・ラムの背中に、冷たい汗が流れ落ちる。

 間違いない。

 彼女の「武」は、正真正銘本物である。

 その証左として、護りし筈の左の掌を貫通し、彼の視界は未だ揺れている。


「素晴らしく、そして凄まじきなり。

 それが、其処な四獣王方から譲り受けし武であるか?」


 心底驚嘆したが、揺れを治す刻を欲す為である。


「そうよ。

 そして、次の技で……決めてみせます!」


(……大きく吸い込んで……丹田……その奥深くへと……)


 ミチヒメは更なる深き調息により、極限まで己の氣力を研ぎ澄まし高めてゆく。


「よかろう!

 見事放ってみせるが良い!」


 ドゥー・ラムは、先程以上の鋭さの、爪槍の連撃を放ってくる。


「素晴らしき! 一撃一撃皆『体《たい》』入りしなり!」


 練り上がりし彼の武に対する、青龍からの純然たる賞賛(ピリマ)。

 息つく間もない怒涛の連撃を、ミチヒメは穏やかな表情で最小限の体捌きで躱してゆく。

 そして緩やかに間合いを詰めてゆく。


「猪口才な! ぬぅん!」


 ドゥー・ラムは角度を変えて真一文字に薙ぎ払う。


「今!」


 ミチヒメは将軍の手刀に逆らわず、風に舞う羽の様に身を翻す。

 そのまま彼の右脇へと自然と回り込み着地する。

 そして、左掌底を密着させ寸勁を放つ。


「ぐはぁっ! 何の、こ、これしき――っ!!」


 同時に、右掌を上から重ね、全身を大きくうねらせる。

 激しく螺旋状に重心を加速させ、爆発的に吐き出す呼吸と共に、左右の掌から相反する螺旋勁を同時に放ち透徹させる。


「啊啊啊啊啊啊(やぁぁあああ)っ!

 双対渦勁《トゥ・モイ・コトゥィエ》!!」


 陰陽の螺旋が掌を取り合い、互いに共鳴して未曽有の振動を齎す。

 

「な、なんと、言う……凄まじき撃掌……ごぼぉっ!」


 その言葉を最後に、ドゥー・ラムは全身の穴より噴血し崩れ落ちる。

 ミチヒメの放った強烈で清廉な、黄金に輝く勁の波動。

 それは、彼に巣食う「禍々しき想念」をも打ち祓ってゆく……。

 懊悩焔者(ドゥー・ラム)の内に、ひとつ、またひとつ想い出されてゆく記憶。


 己の浅薄さが招いた惨事。

 彼女の絶望と惨状。


 そしてそれでもなお立ち上がり、今こうして緋徒ならざる存在となった自分を、尋常に打ち負かすまでに研鑽に努めてきた真寧なる想い……。


「――セイリュウ! 快癒……!」


 静かに差し出され、静止を促すドゥー・ラムの掌。


「其方の情けは……受けぬ……受けられぬ!

 克明に想い出ししなり。

 我の咎にて其方は、其方は……!」


 彼はすべてを想い出す。

 下伽耶大将軍となったミチヒメへの羨望、嫉妬。

 彼女の弛まぬ努力への賞賛、評価。

 そして……御使いを名乗る道化師の誘惑……。


「……お、愚かにも……。

 我が其方を羨み、妬みなどせねば……。

 あの、道化師の甘言に乗らなければ……!

 『我等』が祖国、下伽耶(アラカヤ)を滅ぼされる事、防げしなり。

 実に、浅はかで卑しき、我が想いなり……」


 昏餓鬼となった彼の眼から、止め処なく流れ落ちる熱い贖罪の滴。


「……将軍さま、あなたのした事は……許される事じゃないわ。

 でもね、そんな想いですら……抱いてしまうのが……」


 静かに歩み寄るは、自身も過ちを抱え歩むラーマ。


「左様。

 神威ならぬ、緋徒(フィト)であり民衆(ウタラ)である。

 許されはせぬ。

 しかし、気付きし今ならば……。

 悔いて善かれの想念(イレンカ)で生きてゆく事……。

 それがきっと叶う……っ!」


 ラーマが言い終える前に彼を撃ち抜く漆黒の稲妻。

 虚空より響き渡る嘲笑。


「ヒヒッ! 壊れた玩具なんていらないんだよねぇ!

 ――完全抹消(ロウ・レベル)!

 これで消滅(きえ)ちゃぇ! ヒャハハハハ!」


「セイリュウ! 快癒呪(トゥサレ・イノミ)!」


 ミチヒメは即座に快癒呪を放つ。

 だが……彼の「消滅」は青龍の快癒でさえ免れない。


「そ、そんな……。

 せっかく気付けたのに、これからなのに……」


 彼に齎される不条理な消滅。

 その絶望を目の当たりにして、すべてを奪われ喪った心境が、ミチヒメの胸中に黄泉還りかける。

 彼女の憂う顔を観て、ドゥー・ラムは消えかけた腕で必死にミチヒメを掴む。


「存じておるであろう……?

 想い折れて、絶望に屈する事こそが、真の敗北なり、と――っ!」


 非情なる終の一撃が、虚空より齎される。

 最後、声を上げる事もなくドゥー・ラムは消滅させられる。

 虚空に亀裂が入り浮かび上がる幻影。

 それは、絶望を齎した城を操りし道化師。

 彼は残念そうに、忌々し気に呟く。


「往生際悪いんだよねぇ。

 そしてやっぱり、タダの民で成人男性(ニシパ)じゃダメみたいだねぇ。

 霊力(ヌプル)が足りなさ過ぎて、せっかくの『有用な権能』も、全く遣い熟せなかった様だよ」


 静かに彼の掌に還りゆく昏き玉。

 彼は、その場の誰にも目もくれず、ただ独り喋り続ける。


「全く以って興ざめだよ。

 まぁ、良い『試し』にはなったねぇ。

 あぁ……英雄王(ラーマ)くん?

 済まないねぇ。

 次の催し物はもっと面白いから期待してくれたまえ!

 ヒャハハハハ!」


 激昂したミチヒメが、朱華の翼で虚空に浮かぶ道化師へと跳び上がる。


「あなたって、あなたって……! 赦さない! スザク!」


 道化師の幻影は直前に消え去り、放たれた炎の蹴撃は虚しく空を斬り裂く。


『……『城』で待っているよ。

 無事に辿り着けたらだけどねぇ! ヒャハハハハ!』


 響き渡る煽情的な「神威之啓示」。

 ミチヒメは、彼が消え去った虚空を睨む。


「――今に観てなさい! 必ず……!」


 今は彼の視界にすら入らず、歯牙にもかけられぬ自分。

 必ず振り向かせ過ちを認めさせてみせる……。

 ミチヒメは、その想いを籠めて拳を握り締める。

 そして我に還り地上へと向き直る。

 僅かに立ち昇る、「将軍」であった土煙。

 無常感に苛まされるも、「無常観」へと想い還し、ミチヒメは師匠へ尋ねる。


「セイリュウ師匠……。

 彼も……無事に輪を廻れる……?」


 自身の左腕へと直霊した「青龍乃籠手」が輝く。


「……案ずる事無き。

 しかるべき境涯を潜り、精霊神(ヤオヨロズ)となるであろう」


「……良くやったべさミチヒメちゃん」


 元の巨躯の神威、オーディンへと還りしチュンダからの慰労(ピリマ)。


「左様でござりまする!

 まさに極みつつある武。

 真寧なる想い……!

 その素晴らしき事、しかと拝見仕りしでございまする」


 彼女の武に対して感動したハヌマーンからの感嘆(ピリマ)。


「まさに。

 因縁の相手に、非の打ち処無き比武。

 流石は我が魂(ラマトゥ)の妹 (いもうと)なり!」


 最後、敢えていつもの振る舞いで応えるラーマの気遣い(ピリマ)。


「みんな、ありがとう……。

 最後、悔しいけど、出来る限りは……」


 ミチヒメはそこまで言い掛けると、静かにラーマに抱きしめられる。


「……其方が背負う事では無き。

 尋常なる比武の果て……。

 そう想っておけば良い。

 故……常々『魅せられし』其方の姿……。

 咲き誇るような笑顔、『兄』に再び観せてはくれまいか……」


 今は一介の民であるラーマの真寧なる想い。

 白虎が応える様に氣力帯紐を煌かせる。


「ミチヒメちゃん、安心するべさ……。

 今しがた、『葬送神女(ヴァル=キョウサ)』から聴こえてきた伝令(ピリマ)だべさ。


 『懊悩焔者(ドゥー・ラム)とされし者 英霊乃館《ヴァル・ホル》に集いて 己を磨かん』


 したからもう泣くんでないべさ、ミチヒメちゃん」


 オーディン曰く、遥か彼方に浮かぶ星の一つに、彼が見初めた英霊達の住まう館があると言う。


「みんな霊体だべ?

 したっけもう輪を廻る事もないべさ。

 あそこで、自分さ磨からさって極まりしヤツぁ、『自力』で神威之色身体(カムイ・ケゥエ)さ成って今世に顕現だって叶うべさ!」


 力強い笑みを浮かべオーディンは拳を握り締め、優しくミチヒメの拳と突き合わせる。


「オーディン……ううん、チュンダさま、ありがとう……!」


 ミチヒメはゆっくりと立ち上がり面を上げる。

 それは、春先の冷たい雨を浴びた後、晴れ間から差し込める陽光を浴びて輝く山桜(カリンパニ)そのものの笑顔。


「ないだってまぁ、本当は乙女のわしゃでさえ、惚れちまうほどのめんこさだべさ!」


 そう言ってオーディンはその大きく広い肩にミチヒメを座らせる。


「ほりゃ、英雄王(ラーマ)さんもこっちさ座ると良いべさ」


 抱え上げられ驚くも見つめ合うふたり。


「ふふ、お兄さまお待たせしてごめんね。

 はい! これで……どうかしら?」


 ミチヒメは、最愛の兄に向かって精一杯の想いを籠めて笑みを浮かべる。

 幾多の艱難辛苦を超えた末であっても、今なお抱(いだ)ききる純真無垢な心。

 短い刻だが、儚くも清廉に想いの丈を顕して咲き誇る、可憐な華の如き笑顔に、ラーマは魂の奥底より魅了されて動けなくなる。

 

「お兄さま……?」


(手折らず咲き誇るからこその……。

 清廉にて可憐なる美しさ……。

 まさに聖乙女(ピリカ・メノコ)なり……)


「ないだって、ミチヒメちゃんがなんまらめんこすぎて、ラーマさん動けなくなっちまったべさ!」


 その屈託のないオーディンの言の葉に、想わず笑わされてしまうハヌマーン。


「まったくでござりまするな!

 我等が『聖乙女』様の可憐さには、我が王も形無しでござりまする」


 ハヌマーンもつられ、口伝に漏らしてしまった意外な想い。


「え? えぇ! そうなの?

 ラーマお兄さ……っ!」


「後生である。

 それ以上は言の葉に出さぬよう願いしなり……」


 困り果てて苦笑いするラーマを観て、ミチヒメは、何故か解らずに、小さく拳を握り締めて笑みを浮かべる。


(……うれしい……のかしら、わたし……?)


「さぁ、一つ壁さ超えたけんども、此処は敵地。

 けっぱり過ぎちゃぁだめだけども、程よく氣さ引き締めて、ぼちぼち行くべさ!」


 静かに二人を地面に降ろし、オーディンは彼の城を見据える。

 ミチヒメも、ラーマも、ハヌマーンも。

 

「皆、参ろう!」


 異体同心の絆を深め、「希望之閃光」達は昏き蒼穹を輝く紺碧に直霊せんと進んで征く。

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