↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神威(カムイ)の流転と聖なる詩片  作者: カムイ ピリマ(神はひそかに教える)
第弐部 『時空を超えし幻の軍勢』ラーマーヤナ(一書)編――秘幻乃神謡 其之壱 昔日英雄乃詩――
91/102

第9倭 飛翔せん神威之遺産、顕る万象之鍛冶師

其之壱 驚愕の神威之遺産


「……流石本家の天之鳥船(アン・ヴィマナ)ね!

 この大きさなのに、わたしが全力を籠めて疾走《はし》らせてきた帆掛け舟(ロクンテゥ)よりも遥かに迅いわ!」


 窓の外を眺め、まさに飛び去ってゆく景色を眼にするミチヒメの感動(ピリマ)。

 船内に視線を戻すと、また別の感嘆を漏らす。

 恐らく十名ほどは問題なく収容可能な広い船内。

 品格を漂わせる彫刻を施された調度品。

 そして、ラーマの座を円柱状に包み込む薄膜……。


「こちらからも観える……。

 間違いない、これは外の景色だわ!」


「左様……。

 どうやら此処に座する者の頭の内には、薄膜に映るすべてが映し出されしなり」


 高さ、空の圧する強さ、翔ぶ迅さ……。

 それらが常に目まぐるしく変わりながら映し出されているらしい。


「……この様に顕す事も叶うなり」


 ラーマの声と共に格調高く繊細な彫刻の施された壁面が、瞬時に「消え失せる」。


「ちょっ! ラ、ラーマさまっ!

 壁が無くては流石に危ない……あ、あら?

 壁があ、ある、わ……?」


 ミチヒメの掌に触れる冷たく心地良い感触。

 消失したのではなく、壁面も膜様画面同様に、外の様子を事細かに顕している。


「……まさに『神威之遺産』でありますな!

 某も神威の端くれなれど……。

 実《げ》に解し難き、凄まじき絡繰りでありまする。

 遥かなる古代の世に、根源神威《イザナギ》様がお造りになられたとだけ聴き及んでおりまする」


 己の知り得る理を遥かに超えた「天之鳥船」に対する白猿之神威(ヴァナラ・ハヌマーン)の感嘆《ピリマ》。


「根源神威《イザナギ》……さま……。

 あの、すべてを産み直霊された……方……?」


「……左様。

 この雷鳥(フミルィ)の他、もう一対、『翼』を産み直霊していたとも聴きしなり」


 突如ミチヒメの頭の内に浮かび上がる光景。

 狂喜に身を委ね、星々之海(カンナ・アトゥイ)を翔び回る白銀の殺戮神……。


「なに? 今の? もう一対は『触れても想ってもならぬ禁忌』……なの?

 そしてさっきのラーマさまの様な……真輝銀(シキンナカネ)の美しい長髪……」


 軽く眩暈を覚えながらミチヒメは呟く。


「……『神威之啓示《カムイピリマ》』やもしれぬな。

 恐らくはそれこそが……すべての父神、根源神威《イザナギ》であろう……」


 ラーマは語る。

 イザナギこそが、世界の総てを産み直霊した、原初の「神謡者(カムイ・ユカラ)」だと。


「そう、そうなの、ね……。

 でも、あれはとてもじゃないけど……。

 『みんなのおとうさま』には観えなかったわ……

 同じ真輝銀でも……ラーマお兄さまとは大違いだわ

 あの翼もそうよ。

 雷鳥(フミルィ)……?

 あなたの方がずっとずっと素敵で頼もしいわ」


 頭を軽く左右に振り、ミチヒメは微笑んで雷鳥を見つめる。


「……ありがとうございます……。

 おそらく、雷鳥《フミルィ》とは籠められた想いに相違があるのだと推測します……。

 先程の話に出た帆掛け舟(ロクンテゥ)と同様だと想われます……。

 あの素材で、あそこ迄フミルィ達の機能を再現した純陀《チュンダ》鍛冶師、その技、そして『想念(イレンカ)』は、驚嘆に値します……」


「籠められた……『想い』……。

 やっぱり、何事もそこが大切なのね……」


 納得し、噛み締めるように頷いてミチヒメは拳を握り締める。


「左様なり。

 故、我等が正しき想い抱きて歩む限り……」


 力強く微笑んで頷くミチヒメの確信《ピリマ》。


「どんな逆境でさえ、翻り直霊す事は叶う……そう言う事ね!」


「左様。

 その『想い』であるぞ、誇るべき我が『魂の妹 (いもうと)』よ!

 そなたの刻と変わらず、王子授乳せし大地(クスターナ)の街より離れし、岩に囲まれし渓谷こそが、彼の者の住処なり。

 いざ参らん!」


 雲の海の上へと、天を突き抜けて雷鳥は飛翔する。

 陽光煌く蒼天を、真輝金の翼を輝かせて、雲の海を斬り裂いて征く。


「……この分ですともうじき雲の下へと降りて征くでありましょう」


 ハヌマーンが現在の位置を風から観じ取る。

 世界乃天蓋(パミール)、砂の海、それらをすべて飛び越えて雷鳥はクスターナを目指す。



其之弐 顕し直霊す万象之鍛冶師


 雷鳥は再び雲の海を斬り裂き、地上へと舞い降りてゆく。

 上空から眺めると、猶更信じがたい光景が広がる。

 四獣王不在により、死せる砂の海と化した周囲とは隔絶された、生命溢れる大地。

 古より神威に護られし瑞々しい緑。

 そして、清冽なる恵みの河を湛えるクスターナ。


「……この刻もわたしの刻も……。

 ここの緑と河は変わりないのね」


 切り立った、巨大な岩壁が織り成す渓谷の横にある洞窟。


「……とても永く生きられるのね、大地之石鍛冶(ドゥウェールグフ)って」


 遥かなるこの、「六百遡りし刻」から自分の知る刻迄健在な「彼女」。

 その姿を想い出したミチヒメの感心(ピリマ)。

 突如響き渡る空を斬り裂く金属音。


「……空(ニス)が、震えているわ……あそこね」


 雷鳥から降り立った瞬間、ミチヒメはそれを観じ取る。

 それは、風によるものなどではない。

 大地を揺るがす程の、強烈に脈打つ振動によって齎されていると。


「左様でござりまする。

 この音こそ、彼の方が槌打つ音でござりまする」


 ハヌマーンに先導され、良く観知った街外れの岩壁に穿たれた洞へ赴く。

 

「ラーマお兄さま、観じませんか?

 ここはものすごく『熱い』わ」


 清涼な空気を携える緑の地において、あまりに異質な「熱」。

 

「恐らくは、鍛冶に遣いし火《アペ》の熱故と想われしなり。

 そして、火床への気遣い故の岩場に造りし洞であろう」


 無骨な扉を開けると、最奥にある朱き咆哮を上げる炉が眼に入る。

 その灼熱の炉の前で、洞全体を震わせ、己のすべてを注ぎ込むような「想い」で槌振る姿。

 それは……ミチヒメよりもずっと小柄ながらも、彼女よりも遥かに逞しさを観じさせる、あの刻とまったく変わらない背中。

 違いは、変わらぬ無造作に切り揃えた尼削ぎの髪に、金属製の兜を被っている事。

 体格に不釣り合いな籠手を嵌め、自身の身の丈ほどもある巨大な槌を、全霊で飛び跳ねて打ち付ける。 


「……本当に変わらないのね……不思議……」


 チュンダの背中を観て、思わず漏らすミチヒメの感嘆(ピリマ)。

 彼女は一心不乱にそれを見据え、兜を被り直し前掛けを整える。

 そして、不敵な笑みを浮かべ、仕上げの一撃を振り下ろす。


 

――ガキィィンッ!



 暗がりの中、鮮烈な火花を咲かせる。

 地響きが鎮まり、世界の刻が凍り付いたような静寂が訪れる。

 彼女は満足げな表情で無造作に槌を置く。

 手近な樽から一掬いした水を、最高の美酒を味わうように飲み干す。

 

「……この一杯、やっぱなまら美味いべや。

 誰かと想えば、白猿之神威(ヴァナラ・ハヌマーン)かい。

 と、言う事は、その後ろさいる『バグ』が、例の王さまさんかい?

 ん? ないだって其処のお嬢ちゃんは誰だべさ?」


「純陀様、いかにも。

 彼こそが世界の希望、空《ニス》の遣い手でありまする」


 抱拳の礼と共にハヌマーンが応える。

 軽く頷く彼女の右眼は眼帯に覆われている。

 剝き出しの左眼は、愛嬌を醸し出しながらも、世界の裏側まで読み取るかの如く鋭い。


「……こちらの刻では初めまして。

 遥か先、『六百進みし刻』のあなたに言われて参りました。

 わたしはミチヒメと言いま……っ!」


 丁重にミチヒメが挨拶をしようとすると、チュンダは血相変えて彼女の左手を掴む。


「ないだって!?

 こりゃ、わしゃが常々思い描かさっていた、『生命之法具(イノトゥイノマ)』でないかい!

 しかもその中さ入らさってる魂《ラマトゥ》さ……。

 この地から喪わらさった四獣王たちでないかい?」


 瞬間、ミチヒメの肢体が紺碧に輝き、チュンダの拘束から流れる様にすり抜ける。


「な、なんてチカラ……!

 セイリュウ師匠にお願いしないと抜けられなかったわ……。

 チュンダさま……。

 わたし、ただの民衆《ウタラ》の乙女《メノコ》よ?

 ……もっと優しくしてくれないと……痛いわ」


 「青龍乃籠手(テク・ウンペ)」を「貫通して」つけられた、掌握痕を観せるミチヒメの苦笑《ピリマ》。


「こりゃ、わしゃとした事が……。

 なんまら興奮しすぎてやっちまったべさ!

 ミチヒメちゃんごめんだべさぁっ!」


 我に還ったチュンダは、両の掌を重ね合わせて深々と拱手する。


「良いわ。

 万象を見極める事に夢中になるのがあなただもの。

 その飽くなき探る心の果てに、師匠達の打ち直霊が叶ったのだと想うもの」


 チュンダに向けた咲き誇らんばかりのミチヒメの笑顔。

 そして彼女は、自身が身に纏う、四獣王を宿した「生命之法具」について事細かに説明する。

 チュンダは真寧に耳を傾けて頷いている。

 一通り聞き終えると、意を決したように右眼の眼帯をずり上げる。

 

「あ!

 この刻からそっちは義眼……。

 『真理眼(シンノ=インカラ)』なのですね?」


 一瞬意表を突かれるも、チュンダはすぐさま先世の自身との邂逅を解し微笑む。


「んだべさ!

 こいつぁ、わしゃがずっと前さ……。

 『大いなる真理』を解する事さ欲して祈り捧げた刻、自分の右眼の代わりに頂いたもんだべさ」


 瞬く間に紅蓮の光が一筋伸びてきて、ミチヒメとラーマを隈なく照らす。


「なぁーるほどだべさ!

 しっかしミチヒメちゃん、こいつぁ大変だったべさ……。

 アッチのわしゃが、少しでもチカラさなれたみたいで良かったべさ」


 そう言うと、チュンダはミチヒメの左腕を滑らかな手つきで撫でる。


「あっ……! な、治ったわ!?

 そ、そうなのね、これも『理』を掴む一端……!」


 「んだべさ」と微笑みながらチュンダはラーマへ向き直る。


「して、さっきから突っ立らさってるあんちゃんが英雄王(ラーマ)さんかい?

 おめぇさんも……大概エパタイ《バカ》だべ?

 わやな無理筋さ徹したっけ、眞理乃命脈(シンノ・クスル)が焦げ付いてるべさ!」


 呆れるも、好意露わにチュンダは豪快に笑う。

 すると、奥の部屋から何か持ってくる。

 それは、髪を束ねる布、「承露」。


「これは髪を纏める布……。

 その中央に実に美しき宝珠が三つ!」


「んだべさ。

 ラーマさん、おめぇさんも民衆(ウタラ)だべ?

 したっけ、顕したい権能に対し、きっともって霊力(ヌプル)さ足りねぇべ?

 そこでこいつだべさ!

 この三つの宝珠さ、オメェさんに足りねぇ霊力の入れ物さなってくれるべさ!

 真ん中のおめぇさんの瞳の様な紺碧が水(ワッカ)。

 右の深碧が風(レラ)。

 左の紅蓮が火(アペ)。

 で、全部さ霊力(ヌプル)入らさると、地(モシリ)も入らさるべさ」


 チュンダの言葉に戦慄を覚えるラーマ。


「ま、まさにこれは『神謡者(カムイ・ユカラ)』を顕す為に必定なるもの!

 しかし純陀《チュンダ》殿……何故斯様な物を……?」


 遠い昔日を想い還し、遠くを見つめ微笑むチュンダの返答《ピリマ》。


「あんさん達のもっとずっと前さにも、『誰かの為』さ無理筋徹す『エパタイ《バカ》』がいたんだべさ。

 その……『熱い想い』顕す奴の為さ造ったもんだべさ……。

 無理筋徹して民衆(ウタラ)を『善かれへと導かん』、最っ高に面白いエパタイだべさ!」


 瞬間、ラーマとミチヒメの頭の内に過ぎる神威之啓示(カムイピリマ)。

 それは、真輝金(オリハルコン)の翼を湛え宙を舞う者。


「こ、これって、まさかあの金翅鳥(ガルダ)!?

 じゃぁ……根源神威(イザナギ)……さま……?」


「い、いや、異なる者なり……。

 この者は、恐らく余達同様……民衆(ウタラ)なり……!」


 閃光のように奔った映像。

 恐らくは……身命を賭した刹那の奇跡。


(ふたり共、『観え』ちまったべか……)


 一瞬険しくなるチュンダの表情。

 すぐさま素知らぬ装いで、彼女は話を続ける。


「して、今ラーマさんが言ったように、『神謡者』さ顕し直霊出来るものでもあるべさ。

 したっけそん刻ぁ……。

 真なる『虚空《ニス》』呼び覚ます大凬《レラ》、

 神威と成らんが為の莫大な氣力《トゥム》、

 神威さ超えんが為の極みの霊力《ヌプル》……。

 こいつ等を受け切る器にもなるべさ……。

 して、すべてさ超えんが存在へと、『産まれ直霊』する事すら叶うべさ!」


 チュンダは、力強く親指を立てて笑みを浮かべる。

 その言葉を聴いて、白猿之神威(ヴァナラ・ハヌマーン)は驚きを隠せない。


「チュ、チュンダ殿!

 それはまさか彼の伝説の……!」


 チュンダは深く頷く。

 そして、さらに不敵な、しかし愁いも帯びた笑みを浮かべる。


「んだべさ。

 きっともって一刻の間だけだと想うけんど……叶うべさ」


「純陀(チュンダ)殿?

 この『承露』を遣いこなしきらんとする刻……。

 今まさに余達の頭の内に浮かび上がりし権能が、齎されしと言うのであるか?」


 自身の啓示とふたりの話を聴いたラーマの質問(ピリマ)。


「……なるべくなら遣わない方が良いべさ……。

 ただ、想い貫く為……『何が何でもな刻』にだけ想い出すと良いべさ」


 その静かな口調に、並ならぬ代償を観じ取る。


「いいわ……!

 ラーマお兄さまがそんな権能《チカラ》遣わなくても……。

 わたしが、この拳で道を切り拓いてみせるわ!」


 右腕の「氣力帯紐」から、緇素《しそ》掌を取り合いし玄裳縞衣《げんしょうこうい》の旋風を巻き起こし、ミチヒメは力強く拳を握り締める。


「んだべさ!

 まんず今の処、ラーマさんの眞理乃命脈(シンノ・クスル)さ護る物……。

 そう想っておいてくれれば良いべさ!


 ん?

 ……ラーマさん……その弓さ……!」


 チュンダが戦慄いて不敵に笑う。


「真実を知るも、険しさに抗い、此の旅路を征く者……。

 わしゃとハヌマーン。

 ラーマさんとミチヒメちゃん……それだけじゃないべさ!

 よしゃ! わしゃもいっちょついていくべさ!

 いっくべさぁっ! 神威顕現(カムイ=エウン)!」


 その言葉と共に、チュンダは右眼の紅蓮を眩い程に輝かせる。

 放たれた紅蓮の光は、工房全体を覆い尽くしてゆく。


「な、何?

 ――光の中から途轍もない氣力《トゥム》が!」


 ミチヒメは、己の肌に向かって叩きつけられてくる、凄まじくも洗練された鋭い氣力に戦慄く。


 光が収まり、顕し直霊する姿。

 あり得ない程の巨躯、紅蓮に輝く隻眼の神威。


「チュ、チュンダ……さま……?」


 そのあまりの衝撃に、ミチヒメの「刻」が完全に凍り付く……。


「能ある『鷹』はと申すべさ……!

 『探求之神威(オーディン)』、此処さ顕現だべさ!


 鷹? そうだべさ。

 ついでにおめぇさんも顕し直霊すれ! 封風之鷹(ヴェズルフェルニル)!」


 静かに隻眼を向ける先に住まう鷹。

 彼が見つめると、なんと鷹は、翼ある巨人へと顕現してゆく。


「……直霊されし暴喰乃虚無(フレース=ヴェルグ)。

 おめぇさんもついて来るべさ。

 よしゃ! 最後!

 こっちさ来ると良いべさ! 八脚神馬(スレイプ・ニール)!」


 その掛け声と共に天空を斬り裂いて顕し直霊する巨大な神馬。

 八本の脚を軽妙に操り、無人の野の如く、天を翔け征く。


 ラーマとミチヒメが羽ばたかせし雷鳥。

 その翼に並走して空を翔けるのは、八脚神馬(スレイプ・ニール)を駆るオーディンと化した純陀。

 そして巨大な鷲の巨人暴喰乃虚無(フレース=ヴェルグ)……。

 ミチヒメとラーマは何度も目を凝らし、顔を見合わせてしまう。


「わしゃがこの姿顕し直霊したら、なんも心配いらないべさ!」


 純陀(チュンダ)であったオーディンは、巨躯を揺すらせ叡智を宿した紅蓮の瞳を輝かせる。

 そして絶対の自信を籠めて力強く笑う。


「もう言葉が出ないわ……みんな途轍もなさすぎだわ!」


 どう受け止めて良いのか、最早解らなくなってしまったミチヒメの苦笑《ピリマ》。


「その掌があったでござりまするか!

 有事まで己が権能を潜めておけば……!

 斯様な失態を被る事を免れしでありましたか……!」


 チュンダの叡智に感服すると共に、己が不甲斐なさに歯噛みするハヌマーンの無念《ピリマ》。


「ミチヒメ、ハヌマーンよ、余もまさに……。

 しかも、神威遣わぬ身にて、伝説に詠われる鍛冶の御業、『打ち直霊』せんか……!」


 ラーマは言葉を喪うも、彼女のこれまでの生きざまに、強く背中を押される想いを抱く。

 そう、神威ならぬ緋徒(フィト)として権能を揮い民を救い続けてきた彼女。

 その姿はまさに、ラーマとミチヒメ、ふたりが目指すもの。


「お兄さま……。

 きっと清廉王女(シータ)さまも助け出して、豊饒乃大地(コーサラ)も、王城である『難攻不落乃都城(アヨーディヤー)』だって取り戻せるわ!」


 力強く握り締めるミチヒメの小さな拳を、英雄王(ラーマ)も、自身の掌で優しく包み込む。


「参ろう……まさに少数精鋭なり。

 例え万の軍が相手であろうと、必ずや渡り合えるであろう!」


「はい! まずはシータさまの行方を!」


 一瞬、ミチヒメの胸を貫き疾る、棘の様な痛み。

 胸を抑えて不思議がるも、彼女は首を横に振り祓うように力強く応える。


「それならばもう解っているべさ! 暴喰乃虚無(フレース=ヴェルグ)?」


 オーディンと反対側から、雷鳥を挟み飛翔する巨人が応える。


「封風之鷹(ヴェズルフェルニル)として世界を飛翔せんが刻、見つけ出ししなり。

 魔の島(ランカー)に舞い降りし、『天超飛翔神(カンナ=カムイ)威之城(・チャシ)』の中なり」


「カンナ……!

 あの……城ね……!」


 込み上げてくる戦慄と畏怖を、勇猛さと闘氣へ直霊してミチヒメが叫ぶ。


「参りましょう! 魔の島(ランカー)へ!」


 一行は南へ舵を切る。

 奪われし王城アヨーディヤーを横目に、コーサラ國を過ぎ去りて、更なる南の果てにある魔の島(ランカー)へと、黄金の光を階梯の様に放つ陽光(トカㇷ゚チュㇷ゚)を目掛けて飛翔していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。