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神威(カムイ)の流転と聖なる詩片  作者: カムイ ピリマ(神はひそかに教える)
第弐部 『時空を超えし幻の軍勢』ラーマーヤナ(一書)編――秘幻乃神謡 其之壱 昔日英雄乃詩――
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第8倭 限られるも、頼もしき仲間

「……この辺りで落ち合うはずであるが……」


 ダンダカの森を少し南へ下りし処、少しだけ森を拓いてある野原。

 周囲の木々の上を飛び交う白い影。


「何者! 出てきなさい!」


 瞬時に風の氣力を纏うミチヒメの察知(ピリマ)。


「……ご安心下され。我等は敵ではござりませぬ」


 言葉と共に舞い降りる白き影達。

 その姿は、傷だらけであり、幾多の苦難を乗り越え此処に来た事が一目で伺える。


「お待たせして申し訳ございませぬ、英雄王(ラーマ)様。

 白猿之神威(ヴァナラ・ハヌマーン)、此処に帰還いたしました!」


 それは、従者の白猿二匹を連れた純白の猿神。


「ご苦労……。

 あまたの苦難ありしと観える、大儀なり」


 治ってはいるも、幾つもの傷跡を遺すハヌマーン達へのラーマの慰労《ピリマ》。


「実に有難き……御言の葉でござりまする!」


 ハヌマーン達は、脇侍の猿達と共に深々と長揖する。


「うむ。

 して、清廉王女《シータ》の行方は……?」


 悔しさ露わなヴァナラ・ハヌマーンの報告《ピリマ》。


「連れ去られしは……『魔の島(ランカー)』でござりまする!

 彼の、『天超飛翔神(カンナ=カムイ)威之城(・チャシ)』も、恐らくは彼の島へ飛び去った模様でござりまする……!

 申し訳ございませぬ……。

 清廉王女(シータ)様は未だこの掌にて救う事は叶わず……」


 彼等が何者か理解したミチヒメの驚き(ピリマ)。


「彼等の大軍も……いないのね……」


 思わずミチヒメは拳を握り締める。


「……左様でござる、希望の聖乙女(ピリカ・メノコ)ミチヒメ殿。

 某の事は『ハヌマーン』と呼んで下され。

 この世界《モシリ》にて、彼奴等の『記述』に抗う事叶いしは……。

 口惜しくも……弱められし某のみなり」


 彼は、敬虔なる真理への想いにより、管理者の改竄を免れたと言う。


「……もしかして、ハヌマーンさまは……。

 『書き換えられる前』、覚えてらっしゃるのですか?」


 驚きを隠せないミチヒメの質問《ピリマ》。

 静かに従者の猿を見つめ、愁いを帯びたハヌマーンの眼差し(ピリマ)。


「……この二匹こそ……猿王たる、太陽神之子《スグリーヴァ》と雷霆神息《ヴァナラヴァーリン》の成れの果てなり……!

 彼等もまた、類稀なる氣力《トゥム》にて消滅は免れしも、元の姿保ち難きなり……」


 ハヌマーンから告げられた残酷な現状《ピリマ》。

 一瞬青ざめるも、拳を握り締めて吐き出すミチヒメの鼓舞《ピリマ》。


「――良いわ! この位の危地、わたしが覆してみせるわ!」


 右腕の「氣力帯紐」を煌かせるミチヒメ。

 その想いに当てられたラーマも、己の熱く滾る想念《イレンカ》を放つ。


「流石は我が魂《ラマトゥ》の妹 (いもうと)なり!

 我等の抱きし、この折れぬ想いこそが、彼奴等の悪行を打ち砕かん希望之閃光となるであろう!

 白猿之神威(ヴァナラ・ハヌマーン)よ、いざ参ろうではないか!」


 二人の熱き想いに呼応して、ハヌマーンも自神を燃え上がらせて咆哮する。


「御意!

 然らばまずは王子授乳せし大地(クスターナ)に出向き、彼の高名なる『万象之鍛冶師(チュンダ)』殿の元へ!

 魔の島(ランカー)を覆い我等が征く手を阻む、闇黒の結界を打破せんが為に!」


 ラーマは頷き、雷鳥《フミルィ》へと視線を移す。


「……『神威之力《カムイ=マゥエ》』にて刻を超えん事……。

 その『飛翔』にて、この天之鳥船《アン・ヴィマナ》雷鳥《フミルィ》の氣力尽きしなり。

 彼女を飛翔させるは類稀なる『風の氣力』。

 其方等の『風』、今一度注ぎ込みてくれぬであろうか?」


「お任せを!

 我が風《レラ》の氣力《トゥム》、そのすべてを注ぎ込ませて頂きまする!」


 即座にハヌマーンが全力で放つ付与。

 しかし、真輝金の翼は、今の彼では、全力を以ってしても微動だにしない。


「――何たる失態! 此処迄弱らせられるとは……!」


 地面を打ち据えて悔しがり無念を顕すハヌマーン。

 ミチヒメは、彼の肩を優しく叩き歩み出る。


「ハヌマーンさま、氣力《トゥム》ならわたしに任せて下さい!

 身体痛める縛り無き今なら――全力で出せるわ。

 空《ニス》翔けるは強き風《レラ》!

 ビャッコ!」


 右腕の「氣力帯紐」から巻き起こる、緇素《しそ》掌を取り合いし玄裳縞衣《げんしょうこうい》の旋風。

 その風に揺り起こされる様に、ミチヒメから莫大な風の氣力が湧き上がる。


「啊啊啊啊啊啊(やぁぁあああ)っ!

 付与生氣呪(ラムハプル=トゥム)!

 目覚めて天之鳥船《アン・ヴィマナ》!

 そして『再び羽ばたいて』!」


 ミチヒメの絶唱がダンダカの森に響き渡る。



 ――クォッ、コォオオオンッ!



 森を揺るがさんばかりに響き渡る、耳を劈く甲高い金属音。

 船体全体に精気が漲り激しく鳴動し始め、熱風が吹き荒れる。

 そして雷鳥の眼に輝きが宿り、静かに、しかし力強く開眼されてゆく。


「おぉ! 何と猛き風《レラ》!!

 ミチヒメ殿、忝き!」


 目覚める雷鳥の羽ばたきを受け、ハヌマーンが喜びを露わにする。


「流石は我が魂の妹 (いもうと)!

 希望の聖乙女(ピリカ・メノコ)なり!

 さぁ……ハヌマーンよ……。

 此度のミチヒメへの恩は、次なる刻に還さんと致せば良き事なり。

 今は共に彼の地へ参ろうではないか!」


 ミチヒメこそ「希望」を齎す「聖乙女」……。

 改めてそう確信を得たラーマは、ハヌマーンに諭すように告げる。


「そうですよハヌマーンさま。

 わたし達、きっとそれぞれにしか出来ない役割があっての今だと想います」


 息を荒げるも、ミチヒメは笑みを湛えハヌマーンへ拳を突き出して目配せする。


「まさに。

 其方が前の刻覚えし事も、偏に天の采配であろう!

 そしてそれが此の先、我等を救う事になるやもしれぬ」


 ラーマの想いを他所に、彼の口伝に啓示が齎される。


「……これは、まさに『神威之啓示《カムイピリマ》』……!

 ならば己が矮小さに落胆している刻ではあらぬ!

 参りましょう英雄王(ラーマ)様、ミチヒメ殿!」


 瞬時に「神威之啓示」であると悟り、想い改め己を鼓舞するハヌマーン。

 二人と一柱と二匹は、互いに拳を突き合わせ、天之鳥船へと乗り込んでゆく。


「……すごい……これは一体……。

 なんて言えばいいのかしら……」


 あまりに己の知りうる全てと隔絶した「天之鳥船」の船内に、ミチヒメは言葉を喪う。

 

「然らばミチヒメよ、我が権能にてすべてを見据えて観るが良い」


 青龍から齎される助言に、ミチヒメは彼と感応して神威之眼(カムイ・インカラ)を輝かせる。

 

「すごい……師匠、観えます!

 船室の中総てが黄金……。

 いえ、これは『あの城』と同じ『真輝金《オリハルコン》』!

 そしてこの彫刻……こんなの観た事もないわ……。

 そしてそのラーマさまの座……。

 その薄膜に映るのはもしかして……『外の景色』?」


「いにしえの根源神威遺しし、『神威之遺産』とだけ聴き及びしなり」


 ラーマが、中央の操舵の座にて掌を翳しながら応える。

 すると彼の頭の内にだけ、雷鳥の声が響いてくる。


(……空《ニス》の氣力《トゥム》、想念《イレンカ》波形認識……完了。

 魂《ラマトゥ》識別開始……完了。

 雷鳥《フミルィ》の操舵叶う想念者《マスター》と認識します……)


「……それでは新たなる『想念者(マスター)』、行先の想念(イレンカ)を入力してください……」


 船内に響き渡る冷静ながら清廉な女声。

 それは、雷鳥の船内上方から聴こえてくる。


「しゃ、しゃべった!?

 まさに……神威……なのねこの子……!」


 驚くも、四獣王同様の神威であると理解するミチヒメ。



「左様。

 彼女なくば、此度の旅路全うせん事など、とても叶わぬであろう。

 良し、ではフミルィよ……。

 余の想い、此処に伝えるなり。

 我等をクスターナへ、彼の鍛冶師住まう処へと運び給え!」


 想い籠めたラーマから彼女への依頼《ピリマ》。

 彼に応える雷鳥の了承《ピリマ》。


「……了解しました……想念者《マスター》。

 雷鳥《フミルィ》はこれより、王子授乳せし大地(クスターナ)に向けて飛翔します……」


 甲高い金属音がさらに高まりゆく。

 熱風を吹き上げるも、火花など微塵も出さずに天高く舞う。

 船室内の壁面全体に映し出される景色が、凄まじい迅さで流れてゆく。


「す、凄いわ!

 これはあの刻のわたしの翼……ううん、それ以上の迅さ!」


 飛ぶように流れゆく景色を眼に、思わず漏らすミチヒメの感嘆《ピリマ》。


「某が皆を抱え飛ぶ事叶わぬとも……。

 この翼在るならば、此度の旅、必ずや完遂なるでありましょう!」


 ハヌマーンも、在りし日の己を重ねる様に窓外の景色を見つめる。


 爆風を放つも森を一切傷つけず、中にいるラーマ達にも一切衝撃を与えない。

 真上より降り注ぐ陽光を浴び、黄金の光を放つ。

 まさに神威たる雷鳥の翼をはためかせ、一行は世界乃天蓋(パミール)を超えて飛翔していった。

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