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神威(カムイ)の流転と聖なる詩片  作者: カムイ ピリマ(神はひそかに教える)
第弐部 『時空を超えし幻の軍勢』ラーマーヤナ(一書)編――秘幻乃神謡 其之壱 昔日英雄乃詩――
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第6倭 待ち受けし希望の英雄

 「予言聖者の乙女の泉」後にしたミチヒメ達は、ひたすらに想之浄土《ガンダーラ》を目指す。


「この帆掛け舟(ロクンテゥ)……本当にすごいわ!」


 砂の海を超えた後、世界乃天蓋(パミール)を超える際、この帆掛け舟は驚くべき事に、僅かながら宙に浮き山肌を登頂していったのである。

 今もまた、ミチヒメの氣力を遣い、滑る様に山肌を翔け降りて「理想之浄土」を目指している。


 その主たる都、「神智都《タクシャシラー》」にあるのが……。


「これが……純陀《チュンダ》さまより教えてもらった、伝説の『天地を貫きし叡智の聖塔』……!」


 修行の旅の果て、辿り着いた塔。

 見上げる塔の、荘厳かつ重厚で巨大な扉より降り注ぐ一筋の閃光。

 それは、見目麗しくも精悍な青年。

 彼は、近づいてくるミチヒメを、彼女に連れ添っている青龍と感応し、「神威之眼(カムイ・インカラ)」を顕し直霊して見据える。


(怨恨……憎悪……憤怒……虚無……絶望……。

 研鑽……祈祷……比武……!

 左様であるか……!

 そこまで到りし故の邂逅……因果の導きである、か。ならば……)


「待っていたぞ。余は英雄王《ラーマ》なり。

 彼奴等の元へ共に参ろう、希望の『聖乙女《ピリカ・メノコ》』、ミチヒメよ!」


 良く焼けた褐色の肌、同色のうねる髪に紺碧の瞳を湛え、ラーマは力強い笑みを浮かべ掌を差し出す。


「どうしてわたしの名を!? あなたは一体?」


 ミチヒメが漏らす英雄王《ラーマ》の不可解さへの警戒《ピリマ》。

 掌を差し伸べたまま齎す彼の導き(ピリマ)。


「四獣王達へ、清廉王女《シータ》賜りし『神威之啓示《カムイピリマ》』を告げ、其方を探しに征かせし者こそ余なり」


「ミチヒメ、コイツこそオマエの希望になるだろう、『あの方』ことラーマさまだぜ!」


 白虎の、恐らくは拳を握り締めたつもりの、前足を曲げて伝える説明《ピリマ》。


「案ずるでない。白虎の申す通りである。

 此処にて英雄王《ラーマ》さまと其方を引き合わせる事こそ、我等の使命の一つなり」


 青龍から齎されるミチヒメを慮った安心《ピリマ》。


「ビャッコ、セイリュウ師匠……。

 わかったわ。

 ラーマさま、わたしも共に……。

 みんなの……仇を……!」


 ミチヒメは音を立てて拳を握り締め、彼の掌を取る。

 

「うむ! では、早速だが……」


 ラーマが言うには、『五大』すべての氣力《トゥム》を、門に刻まれし五つの紋章に奉納しなければ、この『聖塔の扉』は開かないらしい。


「そなたは……余へ、四大すべてを付与せん事を願う!」


「四大すべてを……。

 やる、やってみせるわ!」


 それは、「生命之法具《イノトゥイノマ》」を得た後、初めての試み。


 あれ以来、ひたすらに磨き練り上げてきた自身の氣力。


「――心配するな! 今のオマエなら間違いなく出来るぜ!」


 ミチヒメの右腕に巻き付く、漆黒と純白が織りなす紋様を湛える帯紐。

 生命之法具「氣力帯紐(カエス=トゥス)」より響く白虎の鼓舞《ピリマ》。


「じゃぁ……早速やってみるわ!

 いきます! ――迅き事白虎の如く!」


 ミチヒメは意を決し白虎を自身の内へと呼び込む。


「お受け取り下さい! 付与生氣呪(ラムハプル=トゥム)・風《レラ》!」


 猛き虚無の漆黒と、清廉かつ峻烈な純白の織り成す旋風。

 その風が、ラーマが秘めし権能を呼び覚ます。


「よしっ! 次をっ!」


「はい! 神妙なる事青龍の如く! 付与生氣呪・水《ワッカ》!」


 入れ替わる様に今度は青龍が入り込む。

 流麗なる紺碧の波動がラーマへと注ぎ込まれてゆく。


「くっ! 次! 参るが良い!」


「いきます! 勇敢なる事朱雀の如く! 付与生氣呪・火《アペ》!」


 代わって朱華(はねず)の炎、朱雀が舞い降りる。

 猛り狂う朱華の猛炎が、ラーマを焼き尽くさんばかりに襲い掛かる。


「ぐっぁぁああっ! 最後! 来るが良いっ!」


「これで最後です!

 頑張ってぇっ!

 完璧なる事玄武の如し! 付与生氣呪・地《モシリ》!!」


 最後、玄武の盤石の護りが、彼の生命を繋ぎ止めるかの如く撃ち込まれる。

 重厚なる山吹の岩塊が圧し掛かる。

 圧倒的に巨大な存在が、彼の内へと、無理矢理に押し入りゆく。


「ま、負けぬッ! 必ずや徹しきらんっ!!」


 肩で息するミチヒメに映る姿。

 それは、己が現身の様な、無理筋徹す「神聖なる雄姿」……。


(な、なんて壮絶な、強き想い……!)


「此処である!

 四獣王よ、余へ其方等全ての霊力《ヌプル》をっ!!」


 四獣王達は一斉に頷き、迷わず全力で付与霊呪を放つ。

 受け取った彼の全身より迸る、透明に輝く眩い気勢。


「――あれは『空《ニス》』!

 ラーマさま、あなた『空』の氣力《トゥム》を遣えるの!?」


 ふらつくミチヒメの眼に飛び込んできたのは、ただの民衆《ウタラ》と思しきラーマが、なんと「空」の氣力を放出する姿。

 そして、燦然と腕に輝く二つの黄金の腕輪に願う彼の絶唱《ピリマ》。


「――今昔二軸の刻を顕す『金剛法輪《イレンカアカム》』よ!

 此処に豊饒乃大地(コーサラ モシリ)の王、ラーマが願い給う!

 『今一度』、我に刻を超えんが為の権能を授け給え!」


 彼の腕に煌く黄金の腕輪が、眩いばかりに輝きを放つ。

 そしてミチヒメが放った四大の氣力を極限まで錬り上げてゆく。

 「風」は「大凬《レラ》」へ、「水」は「大海《アトゥイ》」へ、「火」は「大焔《アペヌィ》」へ、「地」は「大地《モシリ》」へと磨き直霊されてゆく。


「ミチヒメよ! 余へ、更なる追い風を!」


「はぁ、はぁ……わ、わかったわ!

 啊啊啊啊啊啊(やぁぁあああ)っ! 吹き荒べ、ビャッコッ!!」


 産み出された猛り狂う暴風を、ラーマは自身の胸中に受け止める。


「はぁぁぁああっ! 目っ覚っめっよっ! 虚・空(ニ・ス)ーッ!!」


 ラーマは、全身の毛細血管が破裂するも一切構わず無理筋を貫き徹す。

 

「ラ、ラーマさまっ!」


「構わん!

 そなたを連れてゆかねば、決して彼奴等の野望、止める事叶わぬ!

 此処に、今昔二軸の刻を掌りし我のすべてを賭けん!

 扉よ、我等が前に道を拓け!!」


 限界を超えたラーマの絶唱。

 一瞬、彼の髪が真輝銀《シキンナカネ》に煌き、瞳に紅が宿る。

 刹那の刻だけ叶いし、凄絶なる供犠の果ての「神謡者(カムイ・ユカラ)」の権能……。


 伝説の扉へと神謡者の『五大』が奉じられる。

 遥かなる刻、封を解かれる事無く外界のすべてを拒み立ち塞がっていた、石造りで厳かな装飾を施された巨大な扉。

 それが今、大地を激しく割らんばかりにその身を震わし、ミチヒメ達を認めるかの如く開闢《ひら》かれゆく。



 内部に入り歩を進める二人を待つ存在……。

 それは、聖塔の管理を担う塔主。

 不可思議な宙に浮く、様々な絵が映し出された筒に囲まれる異形。

 観ると手元には何やら細かな突起物が数多く立ち並んでいる。

 それは、「真輝金」に輝く、面妖な椅子。

 ミチヒメ達を歓迎する様に、彼の掌から瑞光が放たれる。

 すると、観る間に二人の身体が癒し直霊されてゆく。

 驚く二人に対し、満足気な笑みを湛える塔主の歓待《ピリマ》。


「ラーマよ、よくぞ再び扉を開きしなり。

 我こそはこの聖塔の主、梵天王之代行者(モンタサ・ブラフマー)なり。

 歓迎しようミチヒメ。

 そなたは、今を生きる緋徒《フィト》や民衆《ウタラ》の中、はじめてこの『塔』へ入れし存在なり」 


 話によればこの塔主こそが、真なる聖塔の管理者。

 彼は語る。

 遥かな過去に一度だけ、自分でも気づかぬうちに、この『塔』、そして塔と対となり、天を超え征く究極の船である、『天超飛翔神(カンナ=カムイ)威之城(・チャシ)』の制御を担うこの『座』が奪われてしまいし事あり、と。


 故に今の世、未だ「城」は「ラーヴァナ」達が所有すると言う。


「……『彼の刻』の運命変わりし刻……。

 この今の刻も、因果の帰結によりて変化が齎されん……」


 「梵天王之代行者」が静かに告げるは、刻の因果が齎す真理《ピリマ》。


「『彼の刻』って……あの刻セイリュウ師匠が言っていた、清廉王女《シータ》さまのお話の……?」


 少しだけ申し訳なさそうなラーマの微笑《ピリマ》。


「……すまぬ。

 ミチヒメよ実は……。

 今より、そなたの生きる『この世』の『刻』を離れ、余と四獣王の生きる刻……。

 そなたから観る、『六百遡りし刻』のいにしえへと、『余と共に』来てはくれまいか?」


 ラーマの真寧なる願い(ピリマ)……。

 それは、ミチヒメに、此処に在るすべてを、棄てるが如く置き去りにする事。

 そして見果てぬ彼方へと「共に刻を超えて」来てもらう事……。

 一瞬固まるも、即座に発すミチヒメの返答《ピリマ》。


「――行きます!

 たとえ二度と此処へ戻れなくても!

 そこにあいつ等がいるなら……いるなら……!

 絶対に『この拳』を撃ち込んでやるわ!」


 ミチヒメは、音を立てて拳を握り締める。

 眼に浮かぶは悲しみではない。

 復讐の怒り。

 それは彼女の魂の奥底から沸き上がる、昏く激しき獄炎。


 「英雄王《ラーマ》」は想い詰める彼女の握り締めた拳に、優しく自身の掌を重ねる。


「……復讐の『執念《イレンカ》』を、よくぞ『直霊《なおひ》せんが為』の『想念《イレンカ》』へ練り上げしなり……!」


 ラーマが発した言の葉……。

 それはまさに世界が定めし事象の如く、ミチヒメの心を燃やし尽くす獄炎を、「彼の魔王に、『過ちを認めさせんが為』の決意の想い」へと「詠い直霊」して征く……。


「……そう、そうよ。

 わたしは……あの魔王に……。

 そしてあの『城』を操る道化師に……!

 絶対に「過ちを認めさせて」みせるわ!!」


 ミチヒメの眼に、尋常に比武せん想いが、輝きを放ち宿り直霊する。

 昏き闇が、黄金の氣力へと直霊されて噴き上がる。

 ラーマの眼に浮かぶ、溢れんばかりの熱い滴。

 それは、重ね合わせた掌より、痛いほど伝ってくる彼女の想いによるもの。

 「成人女性《カッケマッ》」になりたてである、幼さを残す彼女の、健気で直向きで真寧なる「想念《イレンカ》」。


「……案ずる事はない。

 すべて成し遂げし後、必ずや『この世の刻』へとそなたを還さん事、この英雄王《ラーマ》、此処に『大いなる真理』に身命を賭して誓わん!」


「……ラーマさま……」


 四獣王達に続き、下伽耶《アラカヤ》の滅亡以来張りつめていた、ミチヒメを呪縛する「執念」が、優しく解かれてゆく。


「……左様である。

 今後、余を『兄』のように想い、慕い、頼って貰って構わん」


 ラーマが言い終える前、自分でも気づかぬ内にミチヒメは彼へ抱きつく。

 彼は観じる。

 彼女の余りに華奢で儚げな、小さく脆い乙女の肢体の柔らかさを。


(斯様な民衆《ウタラ》の乙女《メノコ》の身で……。

 如何程の想い貫きて成し遂げしか……!)


「どこまでも……お供して参ります……。

 この『想い』をあなたと交わせるのなら」


 「他者を全面的に信頼し委ねる」……。

 それは、彼の刻以来ミチヒメから喪われていた「想念《イレンカ》」。

 薬草を取りに来ていた幼い乙女、四獣王、そして今眼前の若き成人男性(ニシパ)……。

 彼等の存在により、「喪われた想い」が静かに癒し直霊されてゆく。


「――あぁっ! す、すみません!

 英雄王《ラーマ》さまって……。

 その、呼び名からも……王族ですよね?

 なんて御無礼を」


 一頻り想いを委ねた後、我に還り己の振る舞いに気付いたミチヒメの跳躍《ピリマ》。


「今更であるぞミチヒメ……。

 いや、我が『魂《ラマトゥ》の妹 (いもうと)』よ。

 気遣うでない。

 此度より共に旅する『仲間』であり、『家族』と想い振る舞うが良い」


「――はいっ! ラーマ……『お兄さま』!」


 全幅の信頼を以って、陽光(トカㇷ゚チュㇷ゚)を受け咲き誇る、山桜《カリンパニ》の如きミチヒメの湛えし笑顔《ピリマ》。


「咲き誇らん笑顔同様、良き想念《イレンカ》なり!」


 自国の無念を晴らす為、そして塔主たる彼にも頼まれ、四獣王と共に刻を超え征く。


「しからばミチヒメよ、余と共にいざ参ろう!

 征くぞ雷鳥《フミルィ》!

 此処に二つの刻の『金剛法輪』を以って、刻を超え征く真なる権能を顕せ!

 神威之力《カムイ=マゥエ》! 『流転反魂《カリ・ラマトゥ》』!!」


 限界を超えた英雄王の絶唱《ピリマ》。

 瞬間、真輝銀に輝く瑞光を放つ。


「か、『神威之力《カムイ=マゥエ》』!!

 ははっ! ラーマさま、わたし以上に途轍もないわ!」


 浮かび上がり煌き飛翔する中……。

 ミチヒメは、世界を救わんと、己を超える無理筋を徹して刻を翔け廻る、熱き英雄の背中を、眩しそうに焦がれんばかりの想いで見つめていた。

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