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神威(カムイ)の流転と聖なる詩片  作者: カムイ ピリマ(神はひそかに教える)
第弐部 『時空を超えし幻の軍勢』ラーマーヤナ(一書)編――秘幻乃神謡 其之壱 昔日英雄乃詩――
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第5倭 掴みし「佰之永劫」、打ち直霊されし四獣王

――刹那の絶望 永劫の希望へと詠い直霊す――


「――はぁっ! スザク! 火を猛らせ地を燃やし穿て! 朱炎蹴撃爪《アペ・シ・チカプ》!」


 ミチヒメは、一瞬、朱華《はねず》の翼を拡げ炎を纏う蹴撃を放つ。

 岩塊が蜜蝋のように融解して弾け飛ぶ。


「よしっ! この『刹那』ならスザクの氣力《トゥム》も遣える!」


 炎を鎮めたミチヒメが軽く握り拳を造る。


「次は我が撃を放つ故……しかと受け止めるが良い……!」


 子龍の言葉に、ミチヒメは頷いて氣力を付与する。

 観る間に巨躯の龍人が顕れる。


「……紙縒り練り上げん大海《アトゥイ》の槍を以ってすべてを貫かん……!」


 咄嗟に響く玄武の絶叫《ピリマ》。


「青龍ダメです! まだ時期尚早です!!」


「エパタイ(バカヤロ)めぇっ!」


 子猫姿の白虎が、渾身の力でミチヒメを突き飛ばす。



 激しい地鳴りの後、一瞬遅れて響き渡る轟音。


「はぁ……はぁっ……! い、岩山が!

 あ、あなた達が本気を出したら……こんなに途轍もないの……?」


 愕然としたミチヒメの視線の先……。

 観えるのは、あるはずだった岩山が、円形に撃ち抜かれている姿……。


「青龍、あなたの『至高の技』は、まだワタクシの『防楯』を以っても防げません」


 わずかに声を荒げつつも冷静に窘める玄武の助言《ピリマ》。


「さ、左様であったか……。

 この青龍、強さの見切りを誤る事など久しく無きし故……いや、忝き」


 子龍の姿に戻り恐縮する青龍の謝罪《ピリマ》。


「言いたい事は解るぜ。

 でもなぁ、それはコイツが……。

 オレらの権能《チカラ》を『ゼンブ遣えた』刻の強さだ!」


 白虎が言うには、彼等四獣王の権能を遣いこなしきれば、今の青龍の技すら凌げるらしい。


「……ゼンブ……遣い……」


 ミチヒメは、白虎の言葉を噛み締めて反芻する。


(……とてもじゃないけど……二柱でも同時は困難を極め――もしかして!)


「みんな! もしかしてこれって……どう?」


 ミチヒメから四獣王への真寧なる提案《ピリマ》。


「さすがミチヒメちゃん、考えましたわね!」


 真っ先に理解した朱雀からの感心《ピリマ》。


「ナルホドな! それなら、『刻』自体がまさに『永劫』に観じられると思うぜ!」


 自神の権能の大胆な遣い方に対する、白虎の納得《ピリマ》。


「……成程である。我が携わればその動き、流麗さ極まりしなり」


 深々と頷く青龍の理解《ピリマ》。


「素晴らしいですミチヒメ。

 それでは、最後ワタクシが貴女の身体を護りその想いに禅定を授けます」


 理解と共に納得し感心した玄武からの賞賛《ピリマ》。


「じゃぁ……早速やってみるわ! いきます! ――迅き事白虎の如く!」



 ミチヒメは意を決し白虎を自身の内へと呼び込む。

 すると瞬く間に、彼女自身の想いと動きが極みの迅さとなる。


(――すごい! まるで『世界《モシリ》の刻が凍り付いている』ようだわ……!)



「神妙なる事青龍の如く!」


 入れ替わる様に今度は青龍が入り込む。

 絶え間なく流れる清流の如き流麗さが全身に染み渡ってゆく。


(わかる……指の先までこの上なく滑らかに……!)



「勇敢なる事朱雀の如く!」


 青龍の後に朱雀が舞い降りる。

 迅さと流麗さに力強さと勇猛さを朱雀が齎す。


(滾る……! 漲る……! 荒ぶる……!!)



「完璧なる事玄武の如し!」


 最後玄武が盤石の護りと楔として撃ち込まれる。

 授けるは、禅定なる心と明晰な判断力。


(そう、そうなのね……こう『想い廻らせ』ればいいのね……!)



「……カラダはどうだ? ミチヒメ?」


 白虎がまず心配する。


「――観ていて! はぁっ!」


 ミチヒメは音も無くその場から姿を消す。


「ひゅぅっ! まさに迅きこと……だぜ!!」


 観ると遥か上空、一足飛びでミチヒメは宙に舞っていた。


「ここ! はぁっ! 『虚空移動(ニス・アプカス)』!

 ――弐っ! ――参っ! やぁっ! 『旋渦水槍(モィ=イペオプ)』!!」


 虚空に顕れた岩塊を足場に、ミチヒメは自在に飛び回る。

 跳躍から続けて、渦巻く水の槍が岩山目掛け放たれる。

 岩塊を削り散らし大きく穿つ。


「か、かはぁっ!」


 再度踏み込み跳躍しようとした瞬間、ミチヒメは喀血してその場に崩れ落ちる。


「ミチヒメぇっ!」


 子猫が飛び込んでくる。

 続けてきた子龍がミチヒメヘ促す。

 即座に必死にミチヒメが唱える。


「トゥ……快癒呪(トゥサレ=イノミ)……!」


 紺碧の霊力がミチヒメへ流れ込み快癒の神呪が発動する。

 焼き切れんばかりに焦げ付いた「眞理乃命脈」が癒し直霊されてゆく。


「はぁっ、はぁっ……あ、危なかったわ……ありがとうセイリュウ……」


 大きく息を吸い、氣を整えてゆく。


「……途中までだったけど……きっと今の練り上げ方なら……!」


 ミチヒメは手応えを観じ軽く握り拳を造る。


「エパタイ(バカヤロ)!

 あんなの続けたら眞理乃命脈(シンノ・クスル)焼き切れちまうだろっ!」


 白虎の、心から彼女を心配する怒声《ピリマ》。


「……ごめんねビャッコ……心配してくれてありがとう……でもわたしは……!」


 その刻に早鐘の音が鳴り響く。

 それは、純陀《チュンダ》からの合図。


「む、あれは純陀《チュンダ》殿からの……ミチヒメ、一旦戻るとしよう」


「はい……!」


 青龍に続き一同工房へと駆け付ける。



――其之弐 魂で打ち直霊せん 純陀《チュンダ》――



「来たべか! こっち来るべさ」


 純陀《チュンダ》に誘われ工房の奥へ向かう。


 作業台の上を観ると……「法具」と思しきものが四つ置いてある。


「コイツが……ミチヒメちゃんの衣を打ち直霊した法具だべさ!

 オメェさん達は、コイツの中さ入ってくれれば良いべさ!」


 純陀《チュンダ》が、例によって途轍もない事を簡単そうに述べる。


「ちょっと待って?

 百歩譲ってわたしの衣がこの形に変貌したのは納得するとしても……。

 『中に入る』って!?」


 純陀《チュンダ》は不敵な笑みを浮かべる。


「したから、これがコイツ等の新しい身体《ケゥエ》になるべさ!

 これで姿顕す為、『四氣之誓約《しきのうけい》』によって、勝手に取らさる氣力の消耗さ防げるべさ。

 きっともって今まで以上に権能《チカラ》さ出るようになるべさ!」


 不敵に笑い握り拳を造る純陀。


「なんだか良く解らねぇけど、これでミチヒメの消耗が減るならオレ様は……やるぜっ!」


 真っ先に名乗り出るは白虎。


「さすがだべさ。オメェさんこそが一番の『鍵』になるべさ。

 いわばこいつぁ……『神威降臨乃儀《カムイトゥス》』。

 その……無理筋さ徹す為の『希望の道筋』こそ、オメェさんさ直霊する『氣力帯紐(カエス=トゥス)』だべさ!

 したら……いくべさぁっ! 思念金乃槌《イレンカ ハマル》!!

 此処さ在《あ》る四獣王、『白虎』の魂《ラマトゥ》さぁっ!

 この法具へと宿り直霊させてけれ!」


 掛け声と共に跳び上がり、純陀は法具の一つを渾身の力と想いを籠めた大槌で叩く。

 声を上げる間もなく白虎は第壱之法具、「氣力帯紐(カエス=トゥス)」へ吸い込まれてゆく。


「……。よしゃ、いいべさ! ミチヒメちゃん、この『紐』で、拳揮う腕さ縛り上げて欲しいべさ!」


 純陀が指し示すのは外側の肘。拳撃の経絡。


「――わかったわ! 来て、ビャッコ! わたしの中へ!」


 迷わずミチヒメは叫ぶ。


「行くぜミチヒメ!」


 声と共に、一条の帯紐に変貌した白虎は、鋭くミチヒメの腕に突き刺さる。

 得も言われぬ、未知の感触に見舞われるミチヒメ。

 「生命之法具《イノトゥイノマ》」故、痛みはない……。


「ぁあぅっ! もっと……深くわたし(の拳)と一つに重なり直霊して!」


 頬を紅潮させるミチヒメから、氣力と共に身体を廻る朱の滴も吸い上げてゆく。

 その煌きは、彼女の黄金に輝く根源の氣力を、「朱金之光」へと精錬してゆく……。

 そして心の中に潜む、「襲われる恐怖」を「比武への歓喜」へと「想い直霊」させてゆく。


「……これでこの『拳』だけは、『極み』の氣力《トゥム》へと『詠い直霊』されたぜ!」


 氣力帯紐(カエス=トゥス)から聞こえる白虎の自信《ピリマ》。


「よしゃ! 次! 此処さ在る四獣王『玄武』の魂さぁっ!」


 玄武は第弐之法具、「肩乃楯(ヤイ=キッカラ)」へ吸い込まれ、ミチヒメの左肩へ導かれてゆく。


「か、身体中に……玄武の護りの強さが……!

 そしてこの穏やかに燃える想い……!」


 玄武との融合は、彼女の心を鎮め全身を観えない地《モシリ》の衣で覆ってゆく。


「これで貴女自身の氣力に、己の命脈を焼かれる恐れは限りなく低くなりました」


 肩乃楯(ヤイ=キッカラ)から聞こえるは玄武の安堵《ピリマ》。


「どんどんいくべさっ! 此処さ在る四獣王『青龍』の魂さぁっ!」


 青龍は第参之法具、「青龍乃籠手《テク・ウンペ》」と同化し、彼女の左前腕に装着されてゆく。


「……わかる……全身の経絡……骨……筋……すべてが滑らかに……!」


 青龍はミチヒメの全身の繋がり、氣力の流れを、極限まで流麗にして征く。


「斯様に流麗なれば、我が業を、『我同様の位階』にて揮う事も叶いしなり……!」


 紺碧に輝く籠手より響く青龍の悟性《ピリマ》。


「これでお仕舞いだべさ!

 したけども、コイツぁちぃときっついから、ミチヒメちゃん、けっぱるといいべさぁーっ!」


 最後朱雀が第肆之法具、「朱雀外套《チカプ・ウル》」に吸い込まれてゆく。

 すると突然工房自体が灼熱に包まれゆく。


「覚悟は宜しいですわね?

 ミチヒメちゃん、どうかわたくしめも……受け入れて下さいまし!」


 暴れ狂う灼熱の奔流。

 三つの法具に護られし、今のミチヒメの身体ですら白熱して、鈍色の煙を噴き上げる。


「ぁぁああっ!! 熱い! 身体が……あぁっ!

 ま、負けない!

 この熱さを……想いの『情熱』へと詠い直霊してみせるわぁっ!!

 啊啊啊啊啊啊(やぁぁあああ)っ!!!」


 響き渡るミチヒメの絶唱《ピリマ》。

 想いの丈で朱雀の権能を受け止めねじ伏せる!

 朱雀が齎すのは……刹那の間の、「限界を超えた氣力の猛り」。

 全員を纏ったミチヒメを観て純陀《チュンダ》は戦慄の笑みを浮かべる。


「見事成し遂げたべさ!

 したら……こいつが仕上げの……一撃……だべさぁっ!!」


 事もあろうに、純陀《チュンダ》はミチヒメに対し思念金乃槌《イレンカ ハマル》を掲げ、跳び上がって渾身の力で叩きつける!


「至高にして至純なる神威、四獣王達よ……。

 此処に今、新たなる『器』さ宿り直霊すると良いべさっ!

 打ち直霊するべさぁっ! 『法具転生《アシリパワヌプ》』!!」



――ガキィィンッ!!



 訪れる世界の刻がすべて凍り付いたかのような静寂……。

 直後、四獣王が宿った「生命之法具」が、脈打ち始める!


「なっ! こ、これは……『生きている』……!?」


 ミチヒメが脈打つ法具に驚愕する。


「ふぅ……。あったり前だべさ! 『生命之法具《イノトゥイノマ》』っしょ?

 『生命』なくてどうすっべさ!」


 純陀《チュンダ》は大一番を終えた安堵と共にそう応える。

 そして横の樽から至純之水《シパセ・ワッカ》をすくい上げ、一気に飲み干す。

 

「何はともあれ良くやったべさ!

 その法具は……緋徒《フィト》ですらねぇ、民衆《ウタラ》の身で無理筋さ徹して征く『覚悟の証』だべさ!

 これがありゃ……。

 きっともって、さっきミチヒメちゃんが想い付いたアレ……。

 間違いなくうまくいくべさ!」


 満面の笑みで目配せする純陀《チュンダ》の断言《ピリマ》。

 そして力強く親指を立てて突き出す。


「あ、ありがとうございます! 純陀《チュンダ》さま!」


 まさに彼女ごと「打ち直霊」されたかの如き気配《けわい》……。

 ミチヒメは、まさに生まれ変わったような感触を観じる。

 拳に宿る氣力、身体の護り、節々の動き、揮いし権能……。


「……打てる! 放てる! 唱えられる! これなら出来る……出来るわ!」


 想いのまま動ける事に対する、ミチヒメの歓喜と驚嘆《ピリマ》。


「したけども無駄に疲れるこたぁないべさ。これさ遣うと良いべさ」


 純陀が用意してくれたのは……一艘の小さな帆掛け舟(ロクンテゥ)……。


「た、確かに『砂の海』とは言うけど、一体これでどうしろって……?」


 最高に不敵な笑みを浮かべて放つ純陀《チュンダ》の自慢《ピリマ》。


「聴いて驚くべさ!

 こいつぁ、乗り手の氣力《トゥム》で動く船だべさ!

 伝承さ伝わりし『天之鳥船《アン・ヴィマナ》』……。

 ソイツさをもとに、わしゃが『打ち直霊』した船だべさ!

 コイツが凄いのは……」


 驚くべき事に、「予め氣力を際限なく籠めて於ける」と言う。


「じゃ、じゃぁわたしが最初に全力で……!」


「んだべさ!

 ミチヒメちゃんの『今の全力』ならまちがいないべさ。

 きっともってこの『砂の海』……。

 行ったり来たり何回か出来るくらい滑走《はし》れるべさ!」


 見た目はただの木で出来た帆掛け舟。

 それすら純陀《チュンダ》の「打ち直霊」にかかると、まるで神代の鳥船の如く産まれ直霊する……。


 改めてミチヒメは彼女の凄さを実感すると共に、両膝を着き、想い籠めて深々と長揖を捧げる。


「なぁに、『綴られし管理の記述』に虐げらさる民衆《ウタラ》に、みぃんなが持ってる『無限乃希望(カムイ=レンカ)』さ、自信さもって振り翳して欲しい……それだけだべさ!」


 不敵な笑みと共に、天に向かい純陀《チュンダ》は拳を突き上げる。

 見据えるは……天を超えし遥かな虚空……。


「……もう、感謝を言葉になんてとても出来ないわ……!」


 ミチヒメは感極まり純陀《チュンダ》に抱きつく。


「……四獣王《コイツら》から聴かさった事で一つ。

 これは、ミチヒメちゃんへの……『神威之啓示《カムイピリマ》』だべさ……。

 『彼の刻のわしゃにも助けを請うが良い』

 コイツぁ……忘れちゃだめだべさ!」


「彼の……刻……? は、はいっ!

 しかと魂《ラマトゥ》の奥底に刻んでおきます!

 本当にありがとうございます!!」


「なんもさ! 還りになんまらうまいお菓子でも、土産さ持ってきてくれればそれで良いべさ!」


 自身に眠る力を遣いこなせる希望を抱き、ミチヒメは更なる西を目指す。

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