第3倭 闇を斬り裂く希望の閃光
「エパタイ! そっちじゃねぇっ!
ソイツの急所は首の後ろだ!」
「――はぁっ! ビャッコ! 『虎爪斬』!!」
身を躱し宙に舞うミチヒメ。
翻り放つ、空を斬り裂く純白の爪撃!
激しくのたうち暴れまわる怪物。
「『潜土蛇竜』と違い、この『潜砂蜥蜴龍』はかんばせではなく、首にある帯……その後方が急所なり」
砂の海に潜む怪異、「潜砂蜥蜴龍」。
彼等は、旅人の身体に宿す「水」を求め襲い掛かってくる。
「……オレ様達がこの『砂の海』から引き剥がされちまってから……六百の刻が廻っちまってる。
その間にはこんな危ない奴等も蔓延ってる訳……だ!」
白虎は、ミチヒメから付与された氣力で、音も無く一撃を繰り出す。
即座に、苦しんでいた潜砂蜥蜴龍が鎮まり還る。
「我が身護る為とは言え……『輪を廻らせる』のは心苦しきなり。
さりとて無闇に苦しませるのもまた無慈悲なり」
セイリュウは静かに浮かび上がり冥福を祈る。
すると、身体から霊体が抜け出て、輪の中へと還っていくのがミチヒメにも観える。
「ありがとうございますセイリュウ師匠。わたしもそれが出来ればいいのだけど……」
静かに笑みを湛えて青龍が応える盟主の矜持。
「……万物を輪の中へ還す事、それも我等『自然の盟主』の務めなり」
「まぁ、民衆のオマエは、『自分自身』が輪を廻らねぇように気をつけておけばそれでいいぜ!」
不器用だが彼女を慮る白虎の助言。
「白虎の風を、あれだけ遣いこなしたこと……誇っても良いと、わたくしめは思いますわミチヒメちゃん」
自神同様扱いの困難な、「陽」の霊力の扱いを讃える朱雀の賞賛。
「ミチヒメ、貴女は生身です。
この『砂の海』と化した西域……唯一確実に遺る、瑞々しく緑茂る地……。
『王子授乳せし大地』を目指しましょう」
生身の彼女を心配する玄武の提案。
確かに、これまでと違い、この「砂の海」には集落が殆どない。
先ほど「彷徨える湖」で汲んだ水もいつまで持つか……。
「でもゲンブ、目指す処はまだ……遥か先だと、それこそあなた達から聞いているわ。
一体どうすれば……?」
四柱はこぞって不敵な笑みを浮かべる。
「昼はあまりに熱き故おすすめ致しませんが……夜の間に……『わたくしめ』を遣い、素早く移動すると良いかと思いますわ」
そう言うや否や、朱雀は彼女の背後から融合し始める。
「あ、熱っ! あぁっ! せ、背中に翼が……!」
観るとミチヒメの背に、朱華色の炎のように揺らめく翼が顕れる。
「わたくしめと……白虎が『掌を取り合い』て翔ばんとすれば……瞬く間に着きますわ……!」
少々心配げに言うのは白虎。
「ただな、コイツ、すっごいキツイと思うぜ?
何せオレ様達を『二柱』同時に顕すんだからな……」
ミチヒメは、師匠譲りの不敵な笑みを浮かべ還す。
「きつい……? 刻を稼げるならきつさも歓迎だわ!
ここ迄だってきつさなんて……数えきれない位あったもの!」
四柱は目を伏せて静かに微笑んで頷く。
「……その通りですミチヒメ。
貴女がこれまでに経験してきた艱難辛苦、そして我々と共に乗り越えてきた砂の海での『錬』……。
貴女ならきっと遣いこなせます」
冷静に顕し断言する玄武の評価。
「征きましょう師匠達、わたしはきっと翔け抜けてみせるわ!」
全員で力強く頷き、静かにミチヒメは翼を広げ羽ばたかせる。
「いいか? オレ様の風を遣って……『自分を護りながら後ろに風を送る』んだ! わかったな?」
「はい! 師匠! いきます!」
前面に細く槍の様に風を纏い、羽ばたきによって生じた空を強く後方へと押し出す。
「――な、なんて迅さ!!」
瞬間、彼女は音を置き去りに……「消えた」……。
一拍遅れ激しく陥没する砂の海。
空を劈く衝撃の波。
其れ等を置き去りにはためく朱華の翼……。
「よっしゃぁっ! うまい、うまいぜミチヒメ! その調子だぜ!」
白虎から届く「感嘆と絶賛」。
「そこでわたくしめの火を、白虎の風に合わせ直霊して押し出すの……そうですわ!
とても上手ですわミチヒメちゃん!
これでしたら後数刻で『王子授乳せし大地』に着きますわ!!」
宵闇覆う砂の海の虚空を、轟音を立てて斬り裂いて征く光。
其れはまさに、世界を救う「希望之閃光」であった。




