邂逅乃零倭 最後の夜、想い起こし直霊せん
――秘めし想い 叙事詩と共に直霊せん――
――其は、『狭間』であり、星霜を超えし乙女が秘匿せん叙事詩なり――
今此処に詠い直霊せん――
「……どうぞ、ヤチホコくん。
『本当の約束』は……まだ果たせなかったけど……。
『ふたりきりで馨しい乳』、楽しみましょ」
ヤチホコの想いを籠めた法理の水。
それは彼が想い描く最高の飲み物へと顕し直霊され、「馨しい乳」となる。
「……ありがとうミチヒメさん。
きっとミチヒメさんが注いでくれたから更に美味しいと思います……!」
「……エパタイ……。
こんな刻にまでそんな『毒』……。あぁ……そう……なの、ね」
いつもなら、すべての正気を吹き飛ばされる程の、彼の無自覚で清廉で凄絶なる、「毒」と言う名の「慈愛の波動」。
それが、今は……鮮烈ながらも、彼の内に秘められた「孤愁」により、相殺されて霧散してしまう。
(……解っていても……寂しい……辛いわよ、ね……)
ミチヒメは、意を決し丹田へと氣を集中し、静かに吐き出す。
そして、あらん限りの想いを籠めて彼を抱擁する。
「ミ、ミチヒメ、さ……。あ、ありがとう……ありがとうございます……!」
ヤチホコは、彼女の想いに応えるように自分からも湧き上がる想いを還す……。
「――くぅっ!!
げ、元気になったみたいね……良かったわ……。
だから、少しだけ……その、嬉しいけど……『想い』の強さ抑えて欲しいわ……」
それは、極寒の山麓で猛吹雪に晒される程の波動であった。
違うのは……想いの巨濤に飲まれて何も出来なくなる事……。
「惚けていたら……刻が惜しいわ。
せっかくだから、ね。
『ヤチホコくんにだけ』に……わたしの『口伝』に聴いて欲しいの……。
あの刻の……わたしと英雄王さまの物語を……」
先の天界の試練にて曝け出した、彼女の「闇の元凶」。
そして、それを超克して今に至れし理由……。
「あの刻打ち明けた……すべてを滅ぼされた後……。
ヤチホコくん……『あなただけ』で聴いてくれる?
わたしが……『わたし』を取り戻すための旅を」
静かに頷いたヤチホコは、「みんな少しの間ごめんなさい」……。
そう伝えて「一蓮托生呪」を解除した。
「……もちろんです! あの刻聴かせてもらったあの『絶望』……。
今のミチヒメさんのように、どうやって立ち上がれたのか……立ち向かえたのか……。
その、『想いの強さ』……どうやって貫き徹してきたのか……。
そのすべてを、僕に是非聴かせてくれませんか?」
応えるは……例えようもない悦びを湛えた笑顔。
「うれしい……わたし、一番幸せ者かもしれないわ。
ヤチホコくん……。
あなたと、自分の中の『一番解って欲しい処』を共有できるなんて……」
器に口をつけ、静かに馨しい乳を呑み込む。
そして、想いの儘に彼の耳に近寄って齎すミチヒメの告白。
「ヤチホコくん、あなたもあの刻……一緒に観じてくれた『絶望の慟哭』……あの後、ね……」
ヤチホコとオオトシが、御柱へ還る前の日、「最後の夜」。
彼女の口伝に語られたのは……壮大で凄絶なる叙事詩であった……。




