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神威(カムイ)の流転と聖なる詩片  作者: カムイ ピリマ(神はひそかに教える)
――秘幻乃神謡 外伝『狭間』と『夢』――
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詩片の狭間 掛け替えなき稽古と夕日

――『狭間』とは御柱前に詠う詩、還りし後は『夢』と直霊せん――


――此度、『狭間』を詠い直霊せん――



「お兄様(おにいさまぁ)、参ります(まいりますの)!」


 瑞月の掌より繰り出される銀碧の真円。


「カンナ! 神威之剣閃(カムイ トゥィエ)!」


 「真輝銀」に煌く剣で、ヤチホコは軽やかに受け流す。


「凄い……!

 あれを易々と受け流すなんて……。

 お兄様(おにいさまぁ)、流石です(さすがですの)!」


 驚く瑞月の眼が追う先……。

 それは、剣に弾かれた銀円が、岩壁を紙片の如く斬り刻み飛んでゆく光景。


「さっすがボクのヤチね!

 じゃぁボクも本気で……究極之風(シパセ=レラ)よ!

 いくよぉっ!

 瑞月ちゃん! そしてその中のミヅチちゃん!

 ボクたちの『想い』を一つに……。

 ヤチに一泡吹かせちゃうわよ!」


「はい、スセリお姉様(おねえさま)!

 『想い』、重ねます(かさねますの)!」


 三柱の乙女が掌を取り合い、「究極之風」を、瑞月が月之大地にて姉同様の「神威器」を成し、そこに内なるミヅチが「沖つ波」を全力で注ぎこむ。

 続けざまに瑞月が「鏡水乃湖月(テスケ=コンル)」を放つ。

 照り返し鍛え直霊した陽光の、純白に煌く清廉で凄絶な灼熱で、大海を熱気(トゥム)へ練り上げ凝縮する。

 最後、スセリが四氣王の権能を全解放して極限まで高めて詠い上げる。


「「「「猛りし大凬(レラ)よ、大海(アトゥイ)よ!

 神嵐龍となりて、『超えるべき相手(ヤチ)』を住まう神殿まで還し給え(かえしちゃいますの)!

 『葬送之野分《ホプニレ・ペウプンチセ》』!!!」」」


 それは、以前、「雒陽」を襲いしアケィディアが齎した「隔離冥界之大地」をすべて祓い浄めし風。

 自然の理を遥かに超えた、神威の御業たる聖なる竜巻。

 万象を呑み込み尽くさんばかりに猛り狂う水龍が、与えられた大凬の翼で激しく渦巻きながら、「破邪の嵐(アプトルイアンペ)」となりてヤチホコ目掛け襲い掛かる。

  

「みんな凄いです!

 僕の虚空(ニス)なしにこれを顕し直霊するなんて……。

 ――っと、カンナさん!」


 ヤチホコの想いに呼応して、即座に顕し直霊する桜色の女神、瀬尾律。


「我が業は我が為すに非ず!


 天地神明の通力よ

 原初乃八卦の理に従い

 此処に顕し直霊し給え!


 風折陰化!


 『地猛りし刻 風緊縛し 封じ滅す』」


 瀬尾律が素早く天へと掌を翳す。

 発動させた原初乃八卦にて、忽ちの内に風の八卦「巽《そん》」の、第弐爻(こう)、参爻を、「陰」の卦へ変化させ、地属性の「坤」へと直霊する。


 瀬尾律は、静謐な微笑みと共に静かに掌を降ろす。


 そして、顕現させた大地の咢に、彼女達が放った強大な竜巻を呑み込ませて封じ消滅させてしまう。


「流石ですカンナさん!

 今です! 僕の掌の中へ!」


 最後にアメノオハバリと化したカンナをヤチホコが一振りする。

 すると、奈落の底を覗けるかの大地に開闢《ひら》いた深い空隙が、観る間に直霊されてしまう。

 

「そ、そんな……!

 あの『葬送之野分』をこんなにあっさり……」


 あまりの事に信じられない面持ちで立ち尽くすスセリ。


「お兄様(おにいさまぁっ)……。

 素晴らしいですが……凄まじすぎて最早ずるいです(ずるいですの)」


 すると、あらぬ方角から風斬り音と共に、彼を射抜かんと拳撃が襲い掛かる。


「権能で及ばないなら武で向かう!

 やぁぁあっ! 螺旋勁(モィ・コトゥィエ)!」


 スセリは、己の拳に大凬の氣力を纏わせて全力で撃ち込む。

 瞬時に身を翻してヤチホコは躱そうとする。


「させません! 重圧大地(パセモシリ)!」


 月の顕現、瑞月が放つ強大な「大地の枷(じゅうりょく)」。

 瞬時にヤチホコは大地に吸い寄せられ這い蹲ってしまう。


「――っ! 地接陽化!


 『風猛りし刻 大地を崩し 古びさせ滅す』!


 我が身よ、枷より解き放たれて虚空《ニス》に舞え!」


 ヤチホコは、先程の八卦を逆巻かせる。

 瞬時に、地の氣力が風へと直霊されて軽やかに舞い上がる。


「そこですのーっ!

 おにいさまぁっ!

 受け取って欲しいですの! 沖つ波(オレプウンペ)!」


 瑞月の身体から、身を乗り出すように顕現して放つミヅチの巨濤(おおなみ)。


「し、しまったです!

 間に合いま……っ!」


 空中で身を躱し切れぬヤチホコが被弾する瞬間、背後から響く震脚音《ピリマ》。


「――虚空移動(ニス・アプカス)!

 はぁぁあっ! 朱炎旋風打(アペ・モィ・キク)!」


 彼の背後から繰り出される、炎を纏い激しく回転させて焔渦と化した拳。

 

「火猛りし刻 水姿喪い消滅せん!」


 瞬く間に巨濤は煮え滾り、水煙となって天へ還って逝く。


「ふう……。

 危なかったわね、ヤチホコくん。

 体捌きはまだまだ……練り上げが足りない様ね」


 宙で身を捻り軽やかに降り立つ乙女。


「ミチヒメさん!

 た、助かりました……」


 ヤチホコは大きく息を吐き、氣力と共にカンナを納める。


「即座に体術に切り替えたスセリは流石ね。

 瑞月もミヅチも良い攻めだったわ!

 わたしも交じりたいけど、ここらで一息入れましょう?」


 そう言うとミチヒメは、筒を取り出して湯飲みに注いでゆく。


「すべて自力で……は、残念ながらもう『間に合わない』わ……。

 でも、さっき出したスザクの火(アペ)で丁度良く温めてみたわ。

 どうかしら?」


「ありがとうございますミチヒメさん!

 そうか、でもこれなら錬で喪われた「水」も補えて一石二鳥です!」


 そう言うとヤチホコは、「馨しい乳」に変化した「法理の水」を呑み干してゆく。


「ボクも貰うね、ありがとうミチヒメさん!」


 スセリも掌に取ってその馨しさを堪能する。


「瑞月も頂きます!

 あら、本当に美味しいです」


 瑞月ははじめてだったらしく、その味に驚くも感動する。


(ミヅチは……甘ぁくして飲みたいですの……!)


 瑞月の内より響くミヅチの懇願《ピリマ》。

 苦笑してミチヒメは、「神聖城国」で最近採れた、甜菜を煮詰めた汁を足す。


(わぁ、甘くて美味しいですの!

 ミチヒメおねえさまありがとうですの!)


 瑞月の口伝に味わい喜ぶミヅチ。


「みんな、おまたせだわ。

 これ、ミチヒメちゃんに聴いて作ってみたわ」


 後から遅れてきたキクリとヒメが、籠から取り出してみんなに配る。


「ミチヒメの話に聴きし『マルプア』を、ふたりで顕し直霊せんと試みました。

 はじめての事ゆえ、到らぬ処在りましょうが、皆の、お召し上がり下さりませ」


 どうやらヒメとふたりで作ってきたようである。


「とっても美味しいですよ!

 キクリ姉、ヒメさん、ありがとうございます」


 ヤチホコはマルプアを頬張り、喜びを顕してふたりを見つめる。


「あぁ……!

 実《げ》に有難き眼差しでございます……!」


 彼と視線を交わし合う事により、ヒメは齎される随喜に頬を染める。


「一度十地に到っただけはありますね……。

 境涯の高まり方が凄まじく滑らか……」


 横から少しだけ揶揄いを籠めたカンナの呟き(ピリマ)。

 ヒメは血相を変え、彼女の口元をミチヒメ並の迅さで塞ぐ。


「流石、境涯が高まった刻の迅さはわたし並ね、ヒメ。

 でも隠さなくても良いわ……!

 このマルプアにあなたの想い、しっかり籠っているもの。

 ヤチホコくんも観じたでしょう? ヒメの想い」


 食べる掌を止めて、ヤチホコは慈愛を籠めてマルプアを見つめる。


「ええ……本当に……。

 ふたりの想いが籠っていて……とても美味しいです……」


 気付かぬ内にヤチホコの頬を伝い、一筋の熱い滴が流れ落ちる。


「あら、そんなに美味しかった……なんて野暮は言わないわ。

 ……安心して待っていると良いわ。

 アタシ達、絶対成し遂げてみせる、わ……!」


 静かに背後からヤチホコを抱きしめるキクリ。

 ひとり、ひとりと近づいてきて彼に寄り添う。


「ワラワの真理眼(シンノ=インカラ)に観えし事象。

 それは……『必ず叶う先世の出来事』でございます。

 安心召されよ、ヤチホコ殿、いえ、『我が崇敬せん神威殿』……」


「……ありがとうございます。

 ですが恐らく、寂しくて涙が出たのではありません……。

 みんなの想いがうれしくて……。

 その、きっとこれは……『愛おしくて』……だと想います」


 ヤチホコの想いを顕し直霊するが如く、世界に降り注ぐ慈愛の法雨。

 抗う想いすら抱き締めてしまう、巨大な慈悲の奔流。

 ひとりを除き、乙女達はその慈しみに包まれゆく事を甘受している。


「わ、わたし……負けない、わ……!

 わたしは、『わたしの儘』、『このまま』で……。

 ヤチホコくん、あなたの想いを受け止めてみせるわ!」


 決死の想いでミチヒメは伝える。

 そして慈愛の奔流に抗って拳を突き出す。

 そして掌を開き、ヤチホコの頭を優しく撫でる。


「良いの……。

 わたしが、赦してあげる……。

 『寂しさ』を曝け出しても……良いのよ……」


 静かに上がりゆく法雨。

 そして陽光煌く中、一滴、また一滴と降り注ぐ、哀歓入り混じる狐の嫁入り。


「……そうか、そうでしたか……。

 僕は、『愛おしさ』を抱きつつも……。

 還る事叶う事を確信していても……。

 緋徒(フィト)としての僕の想いが……。

 寂しさを抱えていたのですね……」


 神威ならぬ、民衆《ウタラ》の乙女のミチヒメだけが観じた、彼の秘めし想い。


「……もう。

 あの刻、『楓』さんには素直に顕したくせに」


 少しだけ悔しそうな想いを籠めた、ミチヒメの甘やかな嫉妬(ピリマ)。


「そう言えばそうだったね。

 ボク達じゃ……ヤチの寂しさ、抱き締めてあげられないの?」


 楓を内に秘めたスセリの、純朴で純粋な疑問と落胆(ピリマ)。


(……そうじゃないと想うわよ。

 ふふ、『竜輝』も、ちょぉっとだけ、『善男乃子(ヲノコ)』らしくなったんじゃないかな?)


 スセリの内から沸き上がる、姉である楓からの弟への評価(ピリマ)。


「か、楓ちゃん!?

 余計な事は……」


 意表を突かれて油断した際、「一蓮托生呪」より乙女達へ流れ込む、彼の産まれたての淡い想い……。


「そ、そうだったんだね……!

 う、うん、ボ、ボクはあの、安心したから、もう大丈夫だよ」


 真っ先に動揺するスセリの狼狽(ピリマ)。


「ヤチホコ殿……我が崇敬する神威殿……。

 身に余る光栄でございます」


 感慨深く彼の心の生長を喜び、丁重に想いを受け取るヒメの歓喜《ピリマ》。


「これは……。

 いつかお兄様と、甘やかな語らいが出来る刻も来るかもしれない……。

 そう言う事ですね……!」


 その想いの萌芽に、大きく頷いて両の掌を握り締める瑞月の希望《ピリマ》。


(おにいさまぁっ!

 あら、ミヅチと一緒!? うれしいですのっ!)


 抱く想いを観じ取り、喜んで身を乗り出すミヅチの共感《ピリマ》。


「あはっ。益々もって頼もしい背中になって……いくわ!」


 キクリは背負っていた赤子を抱き直す。

 そして、少しずつではあるが、異性としての頼もしさを増してゆく「弟」への、彼女の微笑ましい感動《ピリマ》。


「我が『愛すべき主』……。

 あなたの歩みで構いません。

 でも、きっと、歩む程……。

 僅かばかりの切なさと、大いなる喜びを胸に、共に歩んで参ります」


 子を観る母の眼差しで、総てを認めるカンナの受容《ピリマ》。


 最後、静かに深紅の気勢が立ち込めて直霊する。

 それは、スセリの内に宿りし女神、イザナミ。



「『我が背《ナギ》』よ。

 今世のそなた、実に直向きで愛でたき善男乃子(ヲノコ)ですわ。

 ならば……わたくしは、成人男性(ニシパ)と育ち直霊するまで……

 因果の超克叶いしその刻まで……。

 いつまででも、産まれ直霊す想いを愛でては、偏に待ち侘びましょう」


 前乃世とは全く違う、直向きな彼に対するイザナミからの言祝ぎの言の葉。

 一息ついて意を決し、力強く歩み出る「聖乙女」、ミチヒメ。



「ヤチホコくん。

 あなたの其の凄絶な慈愛の波動……。

 その中に密やかに芽生えた善男乃子《ヲノコ》としての想い……。

 わたしは、その『想い』を一刻でも長く味わう為……。

 『わたしの儘』、限界を超えて……!

 錬し続けて、待っているわ!」


 最後に響くは、「民の乙女」ミチヒメの、決死の覚悟と絶対の誓い。


「……ありがとうございます!

 そうですよね、僕達は全員で十界の顕現。

 遠慮せず、これからも、『還ってきた後』も、頼らせてもらいますね!」


 自分だけで抱え込もうとした、自神を反省するヤチホコの感謝《ピリマ》。


(またひとつ……生長したかもね!

 姉としてもとぉっても喜ばしいわよ、竜輝……)


 スセリの内から優しく響く、竜輝の拠り処たる楓の嬉しそうな囁き(ピリマ)。


「じゃ、じゃぁね……落ち着いた処でちょうど日も暮れてきたし……。

 ヤチ、次はボクの番、良いかな?」


 スセリは緋色の糸から伝わる彼の想いに安堵して、自神の希望を伝える。


「そうですね……。

 行きましょうか、スセリちゃん」


 ヤチホコは、優しく、力強く頷く。


「日隠れ闇憚る夜(シリクンネ)までには帰ってくると良いわ!」


 キクリは弟妹としてヤチホコとスセリを慮る。


「ありがとうキクリ姉!

 じゃぁみんな、行って参ります……!」


 スセリと掌を取り合い、ヤチホコは彼女の翼で天高く舞う。

 あの刻の約束の通り、「宍追いし道」を超えて夕焼けに染まる砂浜へ降り立つ。


「へへ、じゃぁここでゆっくり眺めよう、ヤチ」


 風は程よく海を凪ぐ。

 穏やかな夕暮れ。

 陽光は、最後の務めとばかりに紺碧の海を朱く染め、朱金の通り道を照らし出す。


「……本当にきれいですねこちらの世界は……」


 手つかずの自然に見惚れ、想わず漏れるヤチホコの感動。

 そっと彼の掌を包み込み、軽く首を横に振るスセリ。


「そうかもしれないけど……今のこの例えようもない美しさは……。

 ヤチとみんなで放った、あの『神呪』があるからだよ」


 究極神呪……「天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊」。

 全ての存在と「掌を取り合って」放ったそれは、「世界」自体を詠い直霊した。

 今この世界は、彼等の想うが儘を即座に顕す理によって紡がれている。


「きっと……この素晴らしい世界でも……。

 不平不満、苦しみ、悲しみ……。

 すべては消え去らないかもしれません……。

 だからこそ……」


 スセリは意を決し、静かに、しかし力強く想い籠めて頷く。


「ボク達が……『万象』を観護っていかないと……だよね?」


 少し驚くも、嬉しそうにヤチホコも頷く。


「はい……!

 特定の誰かではなく……生きとし生けるものすべてを……。

 それが元々の僕……。

 万物の父である根源神威(イザナギ)の務めだと……そう想っています」


 遥か彼方、水平線に沈みゆく夕日を見つめながらヤチホコは応える。


「ヤチが万物の『おとうさま』なら……。

 根源神威之妹(イザナミ)でもあるボクも……。

 万物の『おかあさん』として、すべての存在を慈しむ!」


 様々な想いの果てにスセリが出した結論。

 それは、最愛の彼と同じ生き方を隣で共にして征く事。


「えっとね、だからね……。

 ヤチが誰かに想い寄せても……。

 ボクはその想いすらも……慈しみで抱きしめてみせるから、ね!」


 ヤチホコ同様、他者への慈愛に目覚めつつあるスセリ。

 しかし、「大いなる真理」に授かりし境涯と彼女の心には、未だ大きな隔たりがある。

 どこまでも直向きで純朴な、イザナミの良心の顕現。


「本当に……ありがとうございますスセリちゃん……。

 あなたがいたからこそ、僕も、『ナミ』も『楓ちゃん』も救われました!

 そしてその想い……。

 僕もですよスセリちゃん。

 あなたが誰かに想い寄せる刻……。

 僕は、僕も慈しみを以って心から祝福させてもらいます」


 スセリは頭を抱え込むが、それが何故なのかヤチホコには全く分からない……。


「もう本当ヤチってばエパタイ《ばか》……。

 じゃぁじゃぁ、ボクがヤチに寄せる想いも……ちゃんと祝福してくれる?」


 少しだけ涙目で言い寄るスセリに対し、最上の慈しみを以ってヤチホコは応える。


「もちろんです……!

 スサノヲ……いえ、父上《ちちうえ》達が産み直霊した僕の身体、希望之神器……。

 スセリちゃん達とは……。

 『血の繋がり』はありませんが、僕にとってはみんな、最愛の家族です。

 そして……」


 ひとつ、大きく息を吸い、静かに吐き出して言う。


「あれだけ身命をとして共に旅した仲間でもあります。

 とても素敵な乙女(メノコ)だと想っています。

 僕だって……なにも想わないはずがありません。

 大好きですよ、スセリちゃん……」


 静かに、彼の想いの真実を伝える緋色の糸。

 そう、まだ彼にとっては芽生えたばかりの、異性への幼き想い。

 その萌芽に対し、自分を一個の乙女として観る事など、望める筈もない。

 それでも彼が必死に想いを纏め、「言の葉」を紡いでくれた事。

 紛れもなく、確かに産まれ直霊し芽吹いている淡い想いの証……。


「ありがとうヤチ……。

 今はね、その言葉と想いだけでボクはとっても嬉しいよ……。

 あとね、もうひとつだけ、ね……。

 その……良いかな?」


 両の掌を胸の前で組み、スセリは静かに眼を閉じる。

 艶やかで可憐な潤んだ唇に眼を奪われる。

 早鐘の様に高鳴る胸を抑え、ヤチホコは静かにスセリを抱擁する。

 穏やかに凪いでいた波が、揺らぐ事をやめて訪れる静寂。

 ヤチホコは、以前ミチヒメにしたのと反対側の頬に、静かに唇を押し当てる。


「そ、その……すみません!

 今の僕の嘘偽りない想い……。

 きちんと籠めたつもりです……。

 それは、まだ『此処』なのではないかなと想いました……」


 スセリは、泣き笑いして落胆と喜びを同時に顕して抱き締め直霊する。


「うん……。

 ヤチってば、乙女(メノコ)との睦言ではね……。

 本当に本当にエパタイ《ばか》だけど……。

 常にその想いは、真っすぐで本当の事だけだもんね……。

 そんな処もボクは……。

 ううん、きっと『みんなも』好きなんだと想うよ!

 此の先の想いも……楽しみに待っているから、ね!」


 スセリは、目配せして明るく笑い飛ばす。

 爽やかな風が吹き抜けてゆく様なスセリの姿。

 その颯爽とした佇まいに、ヤチホコは今までに一度だけ経験した胸の高鳴りを観じる。


「いつか……きっと……!

 僕が本当の意味で成人男性(ニシパ)になった刻……。

 その刻にはきちんと応えられると想います……!」


 スセリは、満面の笑みを浮かべてヤチホコに腕を絡める。


「みんなの処へ戻りましょ!」


 一生懸命顕してくれた、真寧なる彼の想い。

 大切に胸の奥に抱き、遺された刻を噛み締める様に彼と共に過ごそうと、沈みゆく夕日を見つめてスセリは誓った。

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