第32倭 久遠の合掌を撃ち抜く希望之一閃 【後編】
凄絶なる前乃世の事変……。
彼の胸中に秘められたあらましが、ここにすべて開闢されてしまった……。
「……おのれジェスターめ……!
我に『綴られし分際』でよくも……!」
告発の担い手は、想いもよらぬ自神の別御魂が齎した「暴露」に対し、怒り心頭に声を荒げる。
「まずいです!
みんな、僕の後ろへ来て下さい!
目覚めよ! 虚空ーっ!!」
漆黒の雷光迸る虚無の波動。
それは、触れるものすべての「記述」を消滅させて襲い掛かる。
ヤチホコは己の虚空を極みまで高め、全力で喰らい尽くす。
「――掌が、動きが、凪いでいるぞ!!」
冷酷な笑みを浮かべ、虚空より黄金に輝く剣を呼び出してサタンは襲い掛かる。
その刻……「緋緋色金」に直霊されし究極の城壁を打ち破る轟音。
地響きと共に閃光が迸る。
「よくやったアビヒコ!
『サタン』には積もる話がある。
お前達は一足先に……『最上の世界』へ行きたまえ!」
そこに顕れたのは、アビヒコの父、「ルース」。
だが、その姿は生身ではない。
曾てイザナギと共に「星々之海」を翔け廻った、身に纏う翼。
天之鳥船其之弐、「金翅鳥」。
ルースより託された「想い直霊し姿」へと、鍛冶師チュンダと掌を取り合いて「打ち直霊」し、今此処に顕現する。
「ル、『真理の導き手』!!
……憐れなり。
民衆の身に窶した故の斯様に無様な姿。
――成程、賢しき。
だが、同様の剣、この掌にあらん!」
ルースを観て驚くも、不敵な笑みを浮かべ黄金に輝く剣で斬りかかる。
激しく響く金属音。
舞い散る金属片。
その音を、ルースが纏いし巨躯の衣はいつまでも美しく鳴り響かせる。
「その音の響き具合――ま、まさか!!」
不敵な笑みを浮かべている様に観える、朱金に輝く巨躯の仮面。
床の敷石へと深々と刺さる、へし折られしサタンの剣。
その剣は、「緑柱石」と「赤銅」を火に焚べて「綴り直霊」した金属。
管理者の象徴、超硬なる「真輝金」を鍛えし業物。
「悪いが……。
『真輝金』ではこいつには傷一つ付けられん。
なにせこれは……『ホンモノ』だからな!」
胴体中央の扉が開き、観えてきた操舵の座に顕れた、得意満面の笑みを浮かべるルース。
想い還すは……豪快に笑うチュンダの断言。
「真輝金?
ないだってそったらもん、『貧者の金』だべさ!
『ホンモノ』はもっともっとなんまら固いべさ!」
そう言い放ったチュンダは、更に緑柱石を加え始める。
「燃え盛り溶け合いて産まれ直霊せよ!」
「封輪火斬」より賜りし、極みの熱さを持つ大焔に焚べ、打ち直霊す。
出来上がった金属を神殿に捧げ、真寧な祈りを捧げる。
それは、想いと祈りを籠める程、「刻を置く程」に強く練り上がってゆく。
「とっくと観るべさ! これが本当の……!」
奉じられた真輝金は、真なる輝き、朱金之光を放つ、「緋緋色金」へ産まれ直霊する。
「す、素晴らしい……!
これぞまさに民衆と神威が『掌を取り合い』し象徴……!」
最高の素材を得て、ルースと純陀は掌を取り合い、民の希望を造り直霊して征く……。
「したから、コイツを……だべ……」「それはいい! で、ここはこう、そしてこの羽を……」
寝食も忘れ没頭する二人。
微笑ましく見守り、甲斐甲斐しく差し入れをする香。
前乃世で、イザナギの背に纏われ、星々之海を翔け廻った金翅鳥。
今此処に、ふたりの想いをその身に受けて、纏いて乗り込む神威の姿の、「新たなる天之鳥船」として産まれ直霊されてゆく。
「――『現人神威』。
それが私達が与えた真名だ」
彼の刻の翼が「究極装甲」として蘇生る。
「緋緋色金」に輝く、十二翼の如意宝珠を受け皿とし、乗り手の「智慧と想念」を、「権能と動く力」に「詠い直霊」して顕す巨躯。
それはまさに、神威と民衆が掌を取り合った姿……。
驚いて食い入るようにアビヒコが見つめる。
「父さん、これって、この『神威之城』と同じ技で……!」
ルースは一瞬「伊弉諾」を見遣る。
そして大きく頷く彼と共に、力強く笑みを浮かべ拳を握り締める。
「そりゃそうさ。
『あの刻』、『イザナギ《かれ》』に建造法を遺したのは、何を隠そうこの私だからね!
研究を重ねたこの機体は、私の『想いの強さ』如何で……この『神威之城』をも超える。
それは、『かつての私』に限りなく近い!」
ルースが操る「現人神威」が、サタンの虚無を朱金の拳で殴りつける。
「さぁ、今からこの力で、君たちを次元の彼方……。
『妙覚』の境涯を抱く私と、『等覚』の『サタン』しか辿り着けぬ、最高位の境涯……。
『仏界』まで次元跳躍させる!
全員、己の神威を全力で放て!
行くぞ!
現人神威之力!――『 希望之一閃』!!」
ヤチホコの銀髪が、スセリの新緑の風が、瑞月の紺碧の光が……。
「十界の顕現」全員の想念が、ルースの巨躯へと集束する。
闇黒の紅蓮燃ゆる輝きから「真輝銀」へ至り、「緋緋色金」を超えて極光となって煌めく。
一条の眩い「希望之閃光」が、天界を劈き撃ち抜いて、遥か虚空まで翔け昇り征く。
因果を、次元を、そして絶望を置き去りにして、「十界の顕現」達は最上目指し上昇し続ける。
そして――。
光が収まった先、彼らが辿り着いた広大無辺な玄室。
それは、全ての記述されし叙事詩の、「創世まりと終焉り」が交錯する空間であった。




